リハビリ通信 No.56 関節が硬くなる要因 -靭帯-

2013年01月24日(木) QAリハビリテーション科1新着情報

靭帯は強靭な結合組織の集まりで構成され、骨と骨を繋ぎ関節を形づくります。靭帯には若干の弾性がありますが、筋肉のような伸縮性はなく、長さや形態の変化が少ないヒモのような組織です。しかし、靭帯においても周囲の組織と癒着したり、組織の拡がりが低下したりした場合には、関節の可動域を制限します。

靱帯の役割は、関節において骨と骨が離れてしまわないように位置関係を保持し、関節の運動軌跡がスムースになるように誘導をすることです。また、靭帯は関節の運動が異常な方向へと逸脱しないように動きを制動する役割も果たしています。そのため、関節に正常とは逸脱した無理な力が加わると、靱帯は引っ張られ、許容範囲を越えると部分断裂や重度の場合は完全断裂をしてしまいます。

外傷による靭帯損傷などで関節を長期間固定した場合や、長期の不動状態が続いた場合には、靭帯が癒着などを引き起こし、関節の可動域を制限する可能性が生じます。

靭帯の問題によって関節の動きが低下した際には、関節の可動域訓練を行うことが重要となります。ただし、靭帯損傷後においては、損傷靭帯の修復が十分でない時期に負荷を加え過ぎたり、正常とは逸脱した関節運動を行ったりすると、靭帯が緩くなり関節が不安定になる可能性があります。そのため、理学療法では靭帯への負荷を加える時期と負荷量、関節の運動方向に注意をしながら、関節の安定性と可動性の双方の獲得を目指していきます。

リハビリテーション科  奥山智啓


リハビリ通信 No.55 肩関節インピンジメントについて

2013年01月18日(金) QAリハビリテーション科1新着情報

インピンジメントは衝突すると言う意味があります。

上肢を挙上した際に上腕骨の大結節と肩峰の部分で衝突します。

これには理由があります。軟部組織の癒着など拘縮の問題と筋の協調性の問題があります。拘縮の問題は筋・靱帯・関節包などの軟部組織の癒着・短縮により大結節が肩峰下に滑り込むことができないため、インピンジメント(衝突)を起こすと言うことです。

筋の協調性の低下によるインピンジメント(衝突)の場合は、インナーマッスル(ローテーターカフ筋)により肩関節窩に対する骨頭の支点形成が低下し、骨頭が正常な運動軌跡をたどることができないため、インピンジメント(衝突)となります。

リハビリテーション室長 見田忠幸


リハビリ通信 No.54 関節が硬くなる要因 -筋肉-

2013年01月10日(木) QAリハビリテーション科1新着情報

筋肉は運動の際に収縮や弛緩、伸張を伴いながら滑走することで、関節を円滑に動かします。しかし、筋肉の伸びや滑りが低下すると関節の動きに影響を及ぼします。

 
運動器において、筋肉の伸びや滑りが低下する病態は大きく分けると、①筋肉が緊張して縮んでいる状態(攣縮)、②筋肉自体の長さが短くなっている状態(短縮)、③筋肉が周囲の組織との間でうまく滑っていない状態(癒着)の3つが考えられます。

 
攣縮は痛みに対する防御反応であり、痛みによって筋肉が防御性に縮んでいる状態です。筋肉が縮むことで血流低下を引き起こし、血液の中に痛みを発生させる物質が溜まってしまいます。そのため、攣縮筋は本来その筋肉が緩む肢位に関節を動かしても緩まらず、その筋肉を押さえると痛いという特徴があります。攣縮が長期間続くと、短縮を合併することがあります。

 
短縮は不動に伴う変化であり、筋肉自体の長さが短くなっている状態です。短縮筋はその筋肉が緩む肢位に関節を動かすと緩みますが、その筋肉が伸びる肢位に関節を動かすと、ある角度から筋肉の長さが足りずに突っ張ってしまいます。

 
癒着は損傷した組織の修復過程において生じる現象であり、組織どうしが引っ付いて動きが悪くなっている状態です。筋肉や腱が癒着を起こすと、筋肉の収縮・伸張や腱の滑走によって生じる張力が癒着部位から先には伝わらなくなり、筋肉が働きにくくなります。

 
治療としては、攣縮に対しては基本的に緊張している筋肉に軽い収縮・弛緩運動や温熱療法などを行うことで、血流状態の改善と筋緊張の緩和を図っていきます。攣縮筋が関節の動きを制限している場合、筋緊張が落ちると即時的に筋肉の痛みや関節の動きが改善することを多く経験します。短縮に対しては個別の筋肉にストレッチングや適切な収縮運動などを行うことで、組織の伸張性を徐々に引き出していきます。短縮筋は組織自体が短くなっているため、一度の運動では元に戻りやすく、継続的な運動が必要となります。癒着に対しては引っ付きを起こしている筋肉に収縮や伸張による張力を加えることで、組織間の滑りを徐々に引き出していきます。

 

臨床においては、上記の病態が混在していることも多く、理学療法では動きが悪くなっている筋肉がどのような病態になっているかを評価して、それぞれに対して治療を行っていきます。

リハビリテーション科 奥山智啓


リハビリ通信 No.53 肩関節の複合運動について

2012年12月29日(土) QAリハビリテーション科1新着情報

肩関節の運動動作は複合的な運動の組み合わせにより成り立っています。

日常生活の実際の動作では上肢を挙上・降ろす動作(屈曲・伸展)と外側から挙上・降ろす動作(外転・内転)と内側・外側に回す動作(内旋・外旋)が協調し合い一つの動作として成り立っています。

例えば手のひらを内側に向け腕を伸ばし挙上、そして、外に手を拡げながら意識して手のひらは上向きに降ろす時(内転動作)、最後は「気をつけ」の変則的な姿勢(手のひらは外に向け母指は後方つまり最大外旋位)になります。しかし、挙上から外に手を拡げながら無意識に手を降ろすと内側に自然と手のひらを回しながら(自動回旋)上肢を降ろし最初の「気をつけ」の姿勢になります。つまり、無意識に効率よく複雑な運動を実施しています。

肩関節は自由度の高い関節であるのと同時に、日常生活の場面では効率よく必要な動作だけが出来るように柔軟に対応しています。

リハビリテーション室長 見田忠幸


リハビリ通信 No.52 関節が硬くなる要因 -皮膚-

2012年12月24日(月) QAリハビリテーション科1新着情報

関節が硬くなる重要な要因に、皮膚・筋・靭帯・関節包などの軟部組織の問題があります。今回はその中でも皮膚による問題について紹介させていただきます。

皮膚は関節の運動に伴って伸張したり滑走したりして、部位によっては動きに応じて大きく形を変えています。例えば、肘の裏側の皮膚をつまんで肘関節を屈曲すると、関節は曲がりにくくなります。これは、肘関節を曲げるときに本来伸びなくてはならない皮膚が伸びないために生じる現象です。このように、皮膚の動くゆとりが無くなると、関節の動きに影響を及ぼします。

臨床においては、外傷や手術により皮膚が損傷を受けた場合に、損傷を受けた皮膚は修復とともに周囲の軟部組織と癒着したり瘢痕組織を形成したりします。それにより、皮膚に伸びたり滑ったりするゆとりが無くなり、関節の可動域が制限される要因の一つとなる可能性があります。

そのため、外傷や手術により皮膚に大きな損傷を生じた場合は、癒着や過度な瘢痕形成を予防するため、適切な時期に皮膚の伸びや滑りを維持することが重要となります。ただし、皮膚は身体の中で最も受容器が多い組織であり、損傷後に早期から強い刺激を入れ過ぎると、疼痛を引き起こしたり、ケロイドを形成したりする可能性があるため、適切な刺激が加わるように配慮が必要となります。

リハビリテーション科 奥山智啓