筋力をアップさせるためには、筋力トレーニングを行うことが推奨されています。しかし、筋力トレーニングの効果を発揮するためには、その前にやるべきことがあると個人的には考えています。なぜなら、筋力がアップするためには、筋が働きやすい環境を整えることが重要となるからです。 例えば、筋出力を十分に発揮するためには、筋が十分に収縮できる条件が必要となります。効率良く筋が収縮するためには、筋の滑走性、筋緊張のバランス、他の筋との協調性など様々な要素が影響し合っています。また、身体は構造が変われば強度が変わります。つまり、姿勢や各関節の位置関係が変われば、発揮される筋出力、筋緊張、筋の協調性も変化します。 具体的には、筋の強さや太さそのものは変わらなくても、関節の可動域や位置関係を改善したり、筋緊張のバランスや筋の滑走性を改善したりすることで、筋出力はアップして楽に動作が行えるようになります。 もちろん、絶対的な筋肉の強さや太さは必要です。しかし、運動器疾患において痛みを生じている際は、過度な負荷を加えた筋力トレーニングが関節に悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、実際に日常生活で筋力を発揮するときは、常に自分の最大筋力を発揮しているわけではなく、余裕のある筋活動で動作が行われていることが報告されています。つまり、最大収縮する出力よりも、それぞれの筋がバランス良く協調的に働くことで、動作に応じた出力を発揮させることが重要となります。そのためには、動作に必要な筋が働きやすい状態にあることが必要となります。 筋力トレーニングを行う際は、まず鍛えたい筋がしっかりと収縮できる筋の柔軟性と関節の可動域が十分にある環境を整えることが大切です。そのうえで、筋力トレーニングを行うことで、より効率良く筋力アップを図ることができると考えています。 リハビリテーション科 奥山智啓 |
関節は関節包、靱帯、筋で覆われ各々の軟部組織の誘導により関節が動きます。 人体の各関節内では骨頭が関節窩に対し、転がり・滑り・軸回旋の動態があり、それらの動きが複合的に合わさった結果、一連の動きとなり関節として機能を発揮します。 例えば関節包・靱帯・筋に癒着、短縮が起きた場合、関節として機能が発揮することは難しくなります。転がり滑りなどの動きが出ず異常運動軌跡(正常ではない関節の動き)が表出されます。 理学療法では治療として軟部組織の癒着・短縮などを改善し、正常運動軌跡(正常な関節の動き)を導き出し、その人が本来、持っている正常な関節機能を日常生活で使える様に働きかけていきます。 リハビリテーション室長 見田忠幸 |
今回は自動運動の効果についてお話しさせていただきます。前回、関節の動きには自動運動と他動運動があるというお話しをさせていただきましたが、自動運動では筋が収縮するという大きなメリットがあります。 筋収縮の効果としては、発熱作用による血液循環の改善や筋の柔軟性の向上、筋ポンプ作用による筋内の発痛物質の排泄や浮腫の軽減、生理学的な作用による筋緊張の抑制や筋の合成・再生など様々な要素が挙げられます。また、筋によっては関節包の引き込み作用による関節の挟み込みの防止を行い、関節運動をスムースにしています。 一方で、例えば筋挫傷など外傷後の炎症期や修復期は、筋収縮が組織の炎症を助長したり、修復を阻害する可能性があります。そのため、損傷組織の状態に合わせて、筋収縮を適応する時期と程度には注意が必要となります。また、軟部組織の状態に応じて他動運動を行っていくことも重要です。ただし、修復過程に生じる組織間の癒着を防ぐためには、やはり筋収縮による滑走が必要不可欠となります。 つまり、運動器疾患において関節のスムースな動きを維持・改善し、動作として十分に機能させていくためには、組織の状態と時期に合わせて、筋収縮による効果を発揮していくことが重要となります。 リハビリテーション科 奥山智啓 |
脂肪は皮下に存在し、血管・神経を外部の衝撃から守るのと同時に柔軟性が失われた場合、関節拘縮の一要因となり得ます。脂肪組織は関節の筋が付着していない部分で、筋の滑走性を促すように、脂肪組織自体を柔軟に変化(移動・変形)させています。 長期間不動状態があると、その他の軟部組織も含め脂肪組織は柔軟性を失い、関節の正常な運動機能が阻害されることになります。関節が正常な機能を果たすには筋・腱・靱帯など、軟部組織の働きは勿論のことではありますが、脂肪組織の補助的な働き(滑走性)が重要であると考えます。 リハビリテーション室長 見田忠幸 |
関節の運動は、自動運動と他動運動では大きな相違があります。 自動運動とは、自分の意思による筋収縮を用いて目的とする身体の部位を動かすことをいいます。これに対して、他動運動とは、他者や自分のサポート、機械など他からの介助や外力を用いて身体の部位を動かすことをいいます。 関節の機能が正常に働けば、自動運動と他動運動の可動範囲には基本的に差が生じません( 膝屈曲など一部の関節運動では正常においても差があります )。しかし、臨床においては、他動運動での可動範囲まで自動運動では動かせないという現象がみられます。 例えば、椅子に座って膝を伸ばす時、他者が手を添えれば膝はまっすぐに伸びるのに、自力で膝を伸ばすとそこまで膝が伸びない場合があります。このような現象をラグといいます。 リハビリテーション科 奥山智啓 |