変形性膝関節症の中で、膝蓋骨(膝のお皿)付近で痛みが出ることがあります。階段の上り下りの動作、立ち上がり動作をした時に膝の前面、特に膝蓋骨周辺で痛みが出るのが特徴です。 膝蓋骨の裏面は軟骨に覆われており、大腿骨(太ももの骨)と接することにより関節を形成します。この接触面で膝蓋骨が決まった運動軌跡を辿ることでスムーズな膝の運動が可能となります。 しかし、この膝蓋骨の運動が正常な運動軌跡を辿らない(abnormal tracking)状態になると膝蓋骨の軟骨部で摩擦が生じ、変形や痛みの発生につながります。 膝蓋骨の正常運動軌跡を乱す原因としては様々なものがありますが、その一つとして大腿四頭筋の硬さ(tightness)や筋力低下があります。 大腿四頭筋とは、字のごとく四つの筋肉から構成される筋肉です。最も深層に位置する中間広筋、内側に位置する内側広筋、外側の外側広筋、そして表層にある大腿直筋からなります。 これら四つの筋の柔軟性、筋力がバランス良い状態であれば膝蓋骨の運動は正常な軌跡を辿ります。しかし、このバランスが崩れてしまうと膝蓋骨の運動軌跡が乱れてしまうことになり、膝蓋骨裏面の軟骨が摩耗していきます。 (例)外側に位置する外側広筋が硬い場合 →膝蓋骨は外側へと引っ張られ、外側に偏った運動軌跡となります。 我々理学療法士はこの大腿四頭筋の柔軟性・筋力を評価し、膝蓋骨が正常な運動軌跡を辿るように治療を行います。 リハビリテーション科 小野正博 |
関節が正常に動くためには関節を構成している骨の動きに制限がなく周辺の軟部組織の柔軟性・滑走性・可動性・安定性が必要です。例えば①関節の動作をコントロールする筋肉 ②関節からの情報を感知し必要な動作をフィードバックしながら微調整する指令を送る神経 ③循環・栄養にかかわる血管系 ③皮膚・靱帯・関節包は関節の保護・安定に働きます。 逆に関節が運動制限をきたす場合は、 a外傷・疾患による一次的障害因子である骨折・捻挫・脱臼・靱帯断裂・変形性関節症 b二次的障害因子である麻痺・疼痛 c肥満・筋肥大・年齢などの生理学的因子・関節構成組織の個人的特性 以上の3点が考えられます。理学療法では評価をし、各々に適した治療を実施します。 リハビリテーション室長 見田忠幸 |
変形性股関節症の進行具合は、X線画像により前期・初期・進行期・末期の4つの病期に分類されます。前期では、ほとんど症状が認められませんが末期になると関節裂隙が消失し、疼痛が強く、可動域制限が著しくなり手術の適応となります。 変形性股関節症に対する手術として、人工股関節置換術(THA)があります。人工股関節置換術は、変形性股関節症の除痛に有効とされており、近年の目覚ましい改良や手術手技の向上により、術後に歩行時痛が残存する割合が極めて少なくなってきています。 しかし、人工股関節置換術後の合併症について知っておく必要があります。合併症には、術中の血管損傷や神経損傷による出血や神経麻痺、術後の脱臼などが挙げられます。これらは術中に細心の注意を払い、行っていくので必ず起こるわけではありません。 我々理学療法士は、X線画像で術後のアライメントの確認、また、術式や脱臼角度、治療方針などの情報を担当の医師から確認することは必須です。これらの情報をもとに評価を行い、治療プログラムを立て、治療を実施することが大切です。 リハビリテーション科 服部 司 |
運動器の痛みの原因の一つに姿勢の影響があります。 日常生活で行っているあらゆる動作は姿勢の連続的な変化であり、姿勢と運動は常に機能的に連結しながら制御されています。そのため、姿勢を評価することは、姿勢を保持している間にどの筋や関節に機械的なストレスが加わっているか、あるいはどのような代償を行っているかを考察するための貴重な情報源となります。 一般的に“良い姿勢”とは、後ろから見たときに骨盤・肩甲骨が同じ高さで左右対称であり、各脊椎および頭部の正中線が一直線上にあります。また、側方から見たときに耳たぶ・肩の先端・大転子・膝蓋骨の後面・外くるぶしが一直線上にあり、頚椎は前弯・胸椎は後弯・腰椎は前弯となり脊柱がキレイなS字カーブになっています。 このような“良い姿勢”が崩れると、筋や関節に過剰な負荷が加わり、運動器のトラブルの引き金となることがあります。ただし、“良い姿勢”からアライメントがずれているからといって、必ずトラブルに繋がるということはありません。本来、良い姿勢には個人差があり、各個人が持っている関節の機能、日常生活で行う動作の特性などによってある程度の幅を持っています。ここで言う関節の機能は、関節の柔軟性、筋の伸張性、筋力、筋肉量、脂肪量などにも左右されます。そのため、“良い姿勢”に無理に近づけるというよりも、各個人の持つ関節の機能や動作の特性から、“その人なりの良い姿勢”を導き出していくことが重要であると考えます。 運動器の理学療法においては、単に傷害や外傷の治療にとどまるだけでなく、これらのトラブルの発生、進行、再発を予防していくことが課題であると考えます。そのためには、各個人が日常生活で行っている動作の特性や生体に生じる反応、機能解剖学的な背景を考慮したうえで、必要な関節の柔軟性や筋力の向上とともに、得られた評価から適切な姿勢や動作の提案・指導ができることを大切にしています。 リハビリテーション科 奥山智啓 |
関節は軟部組織の支持性・柔軟性・滑走性・収縮と骨の動きによって働きます。 軟部組織である筋が短縮・スパズム(れん縮)の状態になっても関節は働きにくくなります。スパズムは阻血、循環不全になり、筋が硬くなった状態です。例えると肩こりの様な状態です。リラクセーション・収縮により循環機能が好転すればスパズム(れん縮)も消失します。 筋の短縮は最小単位である筋節(サルコメア)の数が減少する状態です。つまり、筋節が元の状態になるまでに期間を要します。ストレッチングを繰り返し行い、時間を経れば改善されます。 臨床的には、短縮・スパズム(れん縮)の両方が混在しており、リラクセーション・収縮・ストレッチングを組み合わせ、軟部組織の状態を評価し適切な治療を実施します。 リハビリテーション室長 見田忠幸 |