前十字靱帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)とは膝関節内にある靱帯であり、この靱帯の損傷は発生頻度が高く、スポーツ障害の中でも代表的なものの一つです。 靱帯が損傷されると、急性期では疼痛・腫脹・関節不安定性などが生じ、時間が経つと痛みは減少してきますが、膝関節での不安定となります。また、この前十字靱帯が損傷すると自然に治癒するというものではなく、手術による治療(靱帯再建術)が適応となります。手術の方法は何種類かありますが、腱(半腱様筋腱や薄筋、膝蓋腱など)を再建材料として用い、治療します。 手術後はもちろん運動療法を実施しますが、不安定性が出ないように、筋萎縮が生じないように、そして再建靱帯が再断裂しないように進めていくことが目標であり、組織の修復期間を考慮しながらトレーニング方法や運動負荷の設定を確認しながら治療を進めていきます。その中で、時間が経過すれば再建部も成熟してくるために安定性が増大するのではないかとイメージできるのですが、「術後、徐々に再建部の強度は上昇してきますが、術後10ヶ月経過した時点での再断裂するケースが多く、再建靱帯挿入部にて強度が一次的に落ちてしまう。」ということがわかってきました。そのため、日常生活動作やスポーツにおいて「術後10ヶ月」という時期は注意するようにと指導することが非常に重要となってきます。 我々理学療法士は、運動療法を実施するだけでなく、安全に治療を進めていくために注意すべき事をしっかり説明しながら治療にあたっています。 リハビリテーション科 小野正博 |
理学療法1回の治療は約20分(1単位)となっています。初めての治療時は患者さんの病態、日常生活上どの様な事で困っているのか?問診から開始します。勿論、事前に患者さんに関する情報(単純X線画像、診察時の情報)はしっかりとチェックしています。 最初の理学療法は、ほとんどの時間を評価に割くことが多くなります。約20分で評価を行い、その評価から総合的に治療を考え実施します。 理学療法の流れ 理学療法(1単位20分)
◉ 評価 ・単純X線画像(レントゲン) ・問診 ・疼痛についての評価 ・関節可動域(関節が動く範囲) ・筋力(5段階で評価) ・整形外科テスト(関節・靭帯・筋にストレスをかけ柔軟性や痛みを評価する) ・歩行・歩容など動作分析 ・計測(脚長差など) ・超音波解析画像(エコー検査) →総合的に病態、状態を把握して治療計画を考えます。
◉ 治療を実施
リハビリテーション室長 見田忠幸 |
整形外科を受診される患者さんの中で、「関節の痛み」を抱えておられる方はたくさんいます。そして、その痛みの原因は関節機能障害である場合がほとんどであり、理学療法の適応となります。 関節に痛みが生じるのは「不安定な関節」であることが原因です。ここで、「不安定」と聞くと「グラグラな関節」というイメージを持ってしまいます。もちろんグラグラな状態である不安定性もありますが、「固まってしまって正常な運動軌跡をたどらない関節」、「正常の動きが失われた関節」という不安定性もあり、受診される方の病態としては後者の方がほとんどです。 一方、「痛みのない関節」とは正常の運動軌跡をたどることができる関節、つまり「可動域があり、よく動く関節」、もしくは「全く動かない関節」です。しかし、動かない関節は痛くないかもしれませんが、可動性が無いので日常生活に支障をきたすため、やはり「よく動く関節」を目指して運動療法を行い、痛みを改善していく事が最善であると思います。 リハビリテーション科 小野正博 |
(読売新聞 2017年11月22日) アルツハイマー型認知症の患者から作ったiPS細胞を使い発症の原因物質を減らす薬を見つけたと京都大学の研究チームが発表しました。 アルツハイマー型認知症は脳の神経細胞で「アミロイドβ」という、タンパク質が作られ過剰にたまることが主な原因とされています。患者の皮膚からiPS細胞を作って増やし脳の神経細胞に変化させ培養、既存の1258種類の薬を試し「アミロイドβ」を減らす薬を探しました。その結果、パーキンソン病、ぜんそく、てんかんの3種類の薬を同時に加えると最も効果があり、「アミロイドβ」の量が3〜4割減少しました。「アミロイドβ」の量が4割、減少すれば発症や症状の進行が止まると期待されています。今後は臨床試験へと展開されるようです。 リハビリテーション室長 見田忠幸 |
五十肩とも呼ばれる肩関節周囲炎の病態の一つに「拘縮」というものがあります。これは関節が固まってしまい、関節可動域に制限が生じてしまう状態をさします。その中でも下図にあるように、①の部位で炎症が生じることによって肩関節の上方支持組織が②のように遠位滑走できなくなり、その結果③のように上腕骨を体側に寄せることができない「外転拘縮」を呈することが多いです。 この外転拘縮が生じると、③の動きができないために肩甲骨を下げることによって腕を体側に寄せるようになります。そうすると、肩甲骨と頸部を結ぶ筋肉、肩甲骨と胸椎を結ぶ筋肉は持続的に牽引されることとなり、肩こりや肩甲骨周囲筋の痛みなどが生じてきます。 症状が出てくる場所が肩甲骨周囲なので原因もその辺りにあるのではないかと思いがちなのですが、このようなケースでは元の原因が①の部分での炎症であり、その結果として③の動きが出来なくなったことが原因となるので、治療は肩甲骨周囲ではなく、②の運動を獲得する事であると考えます。 当院では、理学療法を行う上で原因を探る「評価」をしっかり行い、治療結果につなげられるよう努めています。 リハビリテーション科 小野正博 |