野球肘では、投球時に肘関節の内・外側に痛みが生じる疾患です。痛みの発生部位としては、肘関節の内側が多いですが、これは投球によって肘が悪くなるというより、「他関節から影響を受けて生じた症状」と考えられるケースをたくさん経験します。 その中でも特に多いのが、肩甲帯の動きが制限された結果、肩甲骨の内転(肩甲骨が脊柱に寄る運動)ができないために肘関節へのストレスが増大して発症するものです。投球動作では、腕を後ろにもっていきます(図1の②)。この動作では、肩甲骨の内転運動が必要不可欠となります。しかし、筋肉の柔軟性が低下することによって肩甲骨の内転運動が制限されてしまうと腕が後ろに持っていけず、結果として肘下がりの投球動作となってしまいます。そのような投球フォームを繰り返すことにより、肘関節の内側にストレスが加わり続け、肘の内側における安定性を司る内側側副靭帯の損傷につながります。 次に、この内側側副靭帯(図2の赤丸)による制動力が低下すると、関節安定化作用は筋肉(図3)に頼るしかない状態となります。もともと靭帯による制動で安定している関節が、靭帯よりも制動力が低い筋肉に頼ってしまうわけですから、その筋肉にも痛みが生じてくることは容易に想像できると思います。 この靭帯(内側側副靭帯)と筋肉(円回内筋)の付着部は隣接しています。そのため、肘関節の内側で痛みが生じている場合、どちらの組織が痛みの原因になっているかを鑑別しなければ、原因組織が特定できません。そのため、我々理学療法士は、どの組織が原因となって痛みが生じているのか、どの組織にストレスが加わって痛みが出現しているのかを鑑別するために各組織を触診し、動作をチェックしながら原因組織を特定し治療を行っています。 リハビリテーション科 小野正博
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当クリニックでは今年の4月より部活動やサークルで怪我をした小学生から大学生の患者様を対象に毎週月・火・水・金曜日の18:00~18:20にスポーツ教室を行っています。スポーツ教室では、部活動で怪我をして出現した腰痛や投球障害、捻挫などの症状に対して指導や治療を行っています。 たくさんの患者様を評価・治療していく中で、多くの患者様に共通して言えることが「身体が硬い」ということです。身体が硬い(筋肉の柔軟性が低い)と関節に負担がかかり、怪我をしやすくなります。 スポーツ教室では、筋肉の柔軟性や可動域制限の改善を目的にストレッチや可動域訓練指導を行います。また、投球フォームやストレッチ指導も行っていますので、スポーツで怪我をしてお困りの方は、一度当クリニックを受診してみてください。 リハビリテーション科 服部 司 |
投球肩障害は大きく分けると肩関節の前方部分(棘上筋・肩甲上腕靭帯)、上方部分(関節唇)、後方部分(棘下筋)に対しストレスが加わることにより投球動作時に損傷と疼痛が発症すると考えられます。要因として、①投球フォーム②股関節・下肢の硬さ③筋のバランス(肩関節インナー・アウターマッスル、肩甲骨固定筋、体幹・下肢のバランス)が考えられます。 投球肩障害の中でも関節唇損傷は上腕二頭筋長頭腱の付着部がストレスにより、剝がれてくるもので、SLAP損傷と呼ばれ、損傷度合いによりタイプが分類されています。場合により手術も行われます。 理学療法では病態に至る経緯を評価し、癒着・拘縮を除去するのと同時に筋の協調性を高め、投球フォームの指導を行います。また、手術をしているのか、保存療法か、スポーツ復帰の時期を考慮しながら理学療法を実施します。 リハビリテーション室長 見田忠幸 |
アキレス腱断裂はスポーツ中に発生することが多く、30から50歳代の方によく起こります。バレーボール、バドミントン、テニスなどのスポーツ中に起こることが多く、踏み込みやジャンプなどの動作で起こることが多いです。受傷時には、後ろから誰かに蹴られた、あるいは何かが当たったような感覚がする場合が多いようです。受傷後にはアキレス腱部の腫脹、疼痛、陥凹などが認められますが、受傷後でも歩行が可能な場合が多くアキレス腱断裂の存在がわかりにくい場合もあります。ただ歩行は可能でも、つま先立ちは不可能になります。 治療はギプスと装具などを用いる保存治療(手術をしない治療)と手術治療のどちらかが選択されます。手術治療でも、術後にはギプスや装具を用いる場合が多いです。以前は手術治療が選択される場合が多かったですが、最近は保存治療を選択される場合も増加しているようです。どちらの治療法を選択しても、合併症として治療中に再断裂を起こす危険性はあります。他の合併症として手術治療では稀に手術創感染などが問題になることもあります。それぞれの利点、欠点を踏まえて、年齢、活動性などを考慮し治療法を選択します。 最近の文献によりますとアキレス腱断裂の保存治療と手術治療の比較ではふくらはぎの筋力と下腿周径の回復で手術治療の方が少し上回ったものの臨床的に大差はなかったので、ほとんどの方には保存治療が勧められるが一部の条件の方には手術治療が勧められるということです。この報告では保存治療群では再断裂は6.6%に、手術治療群では再断裂は3%、感染は1.5%に起こっています。
参考文献 Bergkvist D, Astrom I, Josefsson P-O, Dahlberg L E. Acute Achilles tendon rupture. A questionnaire follow-up of 487 patients. J Bone Joint Surg Am.2012 Jul;94:1229-33. |
痛みには「急性の痛み」と「慢性の痛み」があります。急性の痛みは、外傷や手術侵襲、運動での使い過ぎによる強い負荷などにより炎症が生じて起こるもので、腫脹や熱感を伴います。 外傷などを受けたときは、患部の出血や腫脹、急性の痛みを防ぐことを目的にRICE処置を行うことが基本となります。RICEとは、Rest(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の四つの処置の頭文字を並べたものです。つまり、捻挫や肉離れなどの怪我をした際は、患肢や患部を安静にし、氷などで冷却し、弾性包帯やテーピングで圧迫し、患肢を挙上することが、急性の症状を最小限に抑え回復を早めるために重要となります。 リハビリテーション科 奥山智啓 |