荷重ギプスを用いた新鮮アキレス腱断裂保存治療に関する文献を紹介します。 Simon W Y, et al. Weight-Bearing in the nonoperative treatment of acute Achilles tendon ruptures. J Bone Joint Surg Am.2014 Jul;96:1073-9. (背景) アキレス腱断裂の発生率は増加している。しかし新鮮断裂に対する治療のコンセンサスは欠けている。この研究の目的は新鮮アキレス腱断裂に対して荷重ギプス治療と従来のギプス治療の結果を比較することである。 (方法) 新鮮アキレス腱断裂症例84例が2年以上治療された。無作為にべーラーアイアン荷重ギプスかまたは非荷重ギプスで8週間治療された。6ヶ月後とその後1年と、2年後に筋力テストを施行した。第1の結果は再断裂率、仕事復帰までの期間が調査された。第2の結果はスポーツ復帰、足関節痛、足関節の固さ、履き物の制限、患者満足度が調査された。 (結果) グループ間で治療前の患者背景、活動レベルに差はなかった。2年後のフォローアップ時に荷重ギプス群37例中1例3%、非荷重ギプス群37例中2例5%に再断裂を認めた。有意差なし。1年後に荷重ギプス群はより主観的な固さが少なかった。仕事復帰の期間、Leppilahtiスコア、患者満足度、疼痛、スポーツ復帰の期間には有意差がなかった。 (結論) アキレス腱断裂に対する保存治療として荷重ギプスを用いることは少なくとも非荷重ギプスによる治療と同等以上の結果が得られる。再断裂率も低く、アキレス腱断裂に対する第1の保存治療として続けて使用されることが支持される。 荷重できる工夫したギプスにより早期から全荷重させても、免荷ギプスに比べてあまり臨床成績が変わらなかったので、荷重ギプスが勧められるということでした。最近では装具とウエッジ型の可変式の補高を用いて同様の治療を行われることもあります。 |
上腕骨外側上顆炎は中年以降のテニス愛好家に生じやすいのでテニス肘と呼ばれています。テニス肘では肘を伸ばして物を持ち上げたり雑巾を絞る動作などで肘の外側から前腕にかけて痛みが出ますが、安静時痛はありません。 テニス肘に関する文献を紹介したいと思います。
「Lateral epicondylitis, a review of pathology and management」
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)で最も影響を受ける筋肉は短橈側手根伸筋と言われています。一般的にはテニスに関係することが多いですが、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は様々な動作、過度の繰り返す前腕伸筋の使用、例えばタイピング、ピアノ、様々な手作業などでも起こり、スポーツと職業にも関連することが多いです。 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は以前には腱の炎症から起こる腱炎であると考えられていましたが、現在では腱の変性過程による腱炎であると考えられています。腱は筋に比べて血流が乏しいという特徴があります。腱の耐用性を超えた張力がかかると微小断裂が起こり、微小断裂が多数起こると腱炎となります。変性が腱炎の主要な原因でありますが、逆に負荷がかからなさすぎても構造的弱点となり損傷されやすくなります。 臨床的特徴として圧痛は典型的には短橈側手根伸筋腱の付着部で、外上顆の前縁の前方にあります。 レントゲン検査は骨病変、遊離体、変形性関節症、離断性骨軟骨炎等を除外するために有用です。エコー検査は腱の肥厚や菲薄化など構造的変化を同定するのに有用です。MRI検査は変性組織の存在と腱や下方関節包の断裂が観察できますが、MRIの陽性所見は患者の症状とはあまり関連しておらず、関節鏡検査を用いた研究で関節包の断裂の同定には造影CT(85%)の方がMRI(64.5%)より敏感でした。筋電図検査は後骨間神経絞扼性障害の除外診断に有用です。 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)治療の目的は(1)疼痛のコントロール、(2)運動の維持、(3)握力の改善、(4)正常機能の回復、(5)組織学的、臨床的悪化のコントロールです。 保存治療として安静、症状を悪化させる行動を避ける、行動の工夫がたいてい症状の軽減に繋がります。52週間の保存治療でステロイド局注と比べてもほんのわずかに劣る結果であったという報告があります。 理学療法では可動域の維持と伸張筋力訓練に焦点を当てた理学療法の有用性が報告されており、6週間で保存治療より良好な結果が報告されています。 テニス肘バンドは有効であるという報告もありますが明らかではありません。手関節装具も有効であるという報告があります。 抗炎症薬投与は短期間機能を改善します。ステロイド局注はよく行われますが、4週間ではステロイド局注はNSAIDsより優っていましたが、長期では差がありませんでした。ステロイド局注は副作用の問題があります。 手術治療は保存治療に反応しない症例に施行され、直視下手術、経皮的手術、鏡視下手術があります。手術治療は多くの患者で良好な結果を得ていますが、関連するリスク、感染、血腫、神経損傷などの問題から他の治療方法の探求が求められています。 新しい治療として経皮的高周波温熱療法、体外衝撃波治療、低出力レーザー照射治療、鍼治療、ボトックス治療、局所ニトログリセリン、自己血注射、多血小板血漿などが報告されています。 (結論) 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は10から18ヶ月の自然経過でたいてい自然に治癒します。たいていの症例では症状は最終的に収まり、運動制限、理学療法、保存治療などでコントロールされます。 多くの保存治療が報告されていますが、十分に成功すると推奨されるものはありません。手術治療は保存治療無効例に施行されますが、普遍的に成功するものはありません。様々な新しい治療が開発されつつあります。
Ahmad Z, Siddiqui N, Malik SS, et al. Lateral epicondylitis: a review of pathology and management. J Bone Joint 2013;95-B:1158-1164. |
変形性股関節症になると可動域制限や筋力低下、歩行障害が生じます。これらが生じる原因として①骨の変化、②関節包の変化、③筋の変化に分けることができます。 ①骨の変化について、変形性股関節症の進行具合はX線像により判別することができます。初期では大きな骨変化は認められませんが、進行するにつれて骨棘の形成や、骨の扁平化が生じ、運動制限が出現します。 ②と③の軟部組織の変化について、関節の安定性が破綻し、それを制御するために軟部組織の短縮や拘縮が生じ、運動制限が生じます。 骨の変化については理学療法で対処することが困難となります。理学療法は、軟部組織に対して筋収縮やストレッチなどを行い、疼痛や可動域制限の改善を図り、変形性股関節症の進行を遅らせる目的で行っています。 リハビリテーション科 服部 司 |
変形性股関節症とは、関節軟骨の変性や摩耗により関節の破壊が生じ、進行に伴って骨増殖(骨硬化、骨棘)が起こる疾患です。わが国における変形性股関節症の発生要因として、一次性要因よりも先天性の股関節脱臼や臼蓋形成不全などを伴う二次性要因によるものが圧倒的に多く、また、男女比としては、女性に多いと言われています。 変形が進行すると、関節の安定性が破綻し、それを制御するために軟部組織の短縮や拘縮が生じます。拘縮により正常な関節運動が遂行できなくなると筋出力バランスも破綻し、筋力低下が生じます。これらの要因が疼痛を引き起こす原因となります。 これらの関節障害に対して、理学療法では、ストレッチや筋収縮を促し、軟部組織の短縮・拘縮の改善を図ります。また、歩行の中で、体幹の動揺がなく、筋肉が協調的に働くための訓練を行っていきます。 リハビリテーション科 服部 司 |
骨は骨折しても治癒する能力を備えています。ただし、骨のつきやすさには個人差があります。一般的に骨折部のズレや動きが少なく、骨折部に元気な細胞が多ければ、骨はつきやすいといわれています。 骨折の際には、受傷の外力によって周囲の軟部組織も損傷を受けていることが多く、関節の周囲は腫れが生じます。そこに、固定に伴う不動状態が続くと、時間の経過とともに組織が硬くなってしまいます。そのため、骨折後に固定期間が長くなる場合は、いかに早期から関節が固まらないように適切な運動を行うかが機能を再獲得するために重要となります。 リハビリテーション科 奥山智啓 |