先日、大阪でリウマチ・膠原病の地域医療を考える会が開催され出席しました。 本会は大阪赤十字病院リウマチ・膠原病内科部長片山昌紀先生の呼びかけで開催され、病診連携の一環として行われた講演会です。 講演は最近の生物学的製剤を用いた治療経験を片山昌紀先生が解説してくださいました。当院では大阪赤十字病院リウマチ・膠原病内科と関節リウマチ患者様の病診連携をさせて頂いており、先日には大阪赤十字病院地域連携室事務の方がわざわざ当院までお越し下さりお話しを伺いました。 比較的軽症で、病状コントロールのよい関節リウマチ患者様を大阪赤十字病院と地域の診療所で役割分担をしながら治療していこうという試みです。多くの患者様が数少ない専門病院に集中してしまい、専門病院本来の機能が果たしにくくなっていることなどもあるのかもしれません。診療所側も専門病院の指導を仰ぎながら連携しあって治療にあたれることは利点かと思われます。少しでも多くの関節リウマチ患者様に適切な医療サービスを届けるために、病院と診療所が協力し合うという取り組みです。 |
先日、三重中央リウマチセミナーが開催され出席しました。 特別講演は「妊娠とリウマチ治療」で講師は国立成育医療センター周産期・母性診療センター主任副センター長村島温子先生でした。 妊娠中の薬の胎児への影響は催奇形性(妊娠初期、14週未満)と胎児毒性(妊娠中期以降)に分けて考えられます。赤ちゃんの100人に3人は、生まれながらに心臓に問題があって手術を要するなどを含めて、生まれながらの異常を持って生まれてくるそうです。お母さんが妊娠中に薬を使わず、放射線も浴びず、病気をしなくても3%くらいは自然に発生するそうです。催奇形性のある薬は、奇形の頻度が自然の3%より明らかに高いものを指します。催奇形性の有無を判断するには、その薬を服用するグループと服用しないグループで発生率の比較をしないとわからないですが、そのようなことは倫理上、道徳的にも不可能です。そこで薬の添付文書には「妊娠中の使用に関する安全性は明らかになっていないので有益性が上回るときのみ使用のこと」などと記載されており「妊娠中も安全ですから使用してください。」と書かれている薬はまずありません。実際に危険性の明らかな場合もありますが、胎児への影響を確かめることができないために服用を控えるように記されている場合も多いそうです。しかしながら疾患によっては内服をやめることが困難である場合も多いと思われます。 関節リウマチの場合には内服を控えると病状が悪化するために、治療中には妊娠を避けるように医師からアドバイスされることが多いと思います。村島温子先生は胎児への影響を心配して、いわれない不安、根拠のない不安で妊娠を諦めてしまう女性を救いたいと強調されます。村島温子先生は抗リウマチ薬を賢く使い、関節リウマチと妊娠の両立を勧めておられます。一般的には過半数の方が妊娠中には関節リウマチが症状の改善を見るそうですが、産後は悪化する場合が多いそうです。 関節リウマチでよく使う薬でNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は胎児毒性について注意が必要です。外用薬でも赤ちゃんに副作用の出た報告があるそうで、要注意ですね。ステロイド(副腎皮質ホルモン)ではプレドニゾロンは胎盤移行生が低く推奨されるようです。 DMARDs(抗リウマチ薬)では関節リウマチでアンカードラッグとされるメトトレキサートの添付文書には妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと、催奇形性を疑う症例報告があり、動物実験で催奇形性が報告されている。母乳中への移行が報告されているので、授乳中の婦人には投与しないこと、と記載されています。その他のほとんどのDMARDsでは妊娠中は中止せざるを得ませんが、村島温子先生は何種類かのDMARDsにおいては妊娠判明時の中止でよいとしておられます。このあたりの判断は非常に難しいので、「妊娠と薬情報センター」に問い合わせることが勧められます。村島温子先生は、妊娠は40週で済むものではない、妊娠計画でDMARDsなどを控えていたら関節破壊が進行する、などの懸念から妊娠を望む関節リウマチ患者に対してきめ細やかな配慮と対応を行っており、「妊娠と薬情報センター」を運営して対応にあたっておられます。 村島温子先生は虎の門病院研修医時代に、同世代の若い患者さんが闘病する姿に刺激され、膠原病を研究テーマに選んだそうです。著書も「妊娠と授乳」、「アラフォー安産」など多数です。村島温子先生の女性患者さんを応援したい、救いたいという信念に感心致しました。
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2月7日(金)に開院3周年を迎えました。 当日はいつもと同じようなスタートでしたが、昼からは雪となり夜にはかなり積もっていました。開院当初、何度か雪かきに追われたことを思い出しました。 今年も早1ヶ月が過ぎましたが、元旦にたてたクリニックの目標を忘れずに実践していきたいと思っております。 スタッフ一同、皆様への感謝の気持ちを持ち、基本行動の繰り返し実践を励行し、日々気持ちを新たにして、クリニックのレベル向上を目指していきたいと思います。 これからもどうぞよろしくお願いいたします。 |
昨日、グランキューブ大阪で第19回スポーツ傷害フォーラムが開催され後半の一部だけでしたが出席しました。 スポーツ傷害フォーラムは、医師、理学療法士、トレーナー、医科学研究者等が一堂に会し、競技スポーツにおける外傷、障害の病態、治療、予防に関する研究発表、情報交換を行うことを目的としている会です。昨日は一般演題27題、ランチョンセミナー2題、シンポジウム3題で行われました。一般演題の大半は理学療法士あるいはアスレティックトレーナーによる口演でした。 シンポジウムはフットボール(ラグビー・アメフト)傷害で講演1が「コリジョンスポーツにおける頚椎症、神経根症の診断と治療で演者が筑波大学医学医療計整形外科准教授坂根正孝先生、講演2がフットボール(ラグビー・アメフト)の肩関節脱臼で演者が行岡病院スポーツ整形外科部長中川滋人先生、講演3がフットボール(ラグビー・アメフト)の膝靱帯損傷で演者が兵庫医科大学整形外科教授吉矢晋一先生でした。 コリジョンとは衝突のことでラグビーやアメフトは激しいコンタクトが許されるスポーツであるが故に、特徴的な外傷、障害が発生します。今回の研究会は特にコリジョンスポーツにおけるスポーツ傷害がテーマになっていました。 私が到着したときはシンポジウム講演1の終わり頃でした。コリジョンスポーツ競技中に起こる一過性の頚部痛、上肢筋力低下、感覚障害をバーナー症候群(スティンガー症候群)といいます。症状は短時間で回復しますが、競技継続には筋力低下がないことが必須です。しかしながら頻回に起こす選手、重症化、回復の遷延が認められるときは頚椎症の合併等もあり精査が必要です。バーナー症候群は症状が一過性であると考えて、そうでないときはバーナー症候群とは決めつけないようにする必要がありそうですね。坂根正孝先生は椎間板ヘルニアや椎間関節症による神経根障害に対する低侵襲の手術治療を紹介しておられました。 シンポジウム講演2ではコリジョンスポーツ選手において頻度の高い肩関節脱臼についてでした。コリジョンスポーツ選手においては初回受傷後に再受傷の割合が非常に高率です。習慣性肩関節脱臼になってしまう要因として中川滋人先生は関節窩や上腕骨頭に大きな骨欠損が生じていることや、関節唇―関節上腕靭帯複合体の質に著明な劣化が見られることが多いことを指摘しておられました。最近の3D-CTやMRIなどの画像診断の進歩により早期にその病態を把握し、場合によっては初回脱臼でも手術治療の適応になると中川滋人先生は解説されました。 シンポジウム講演3は膝靱帯損傷に関する話でした。コリジョンスポーツ選手において手術治療を要する靱帯損傷の大半は前十字靱帯損傷(ACL損傷)です。最近では人工芝のグラウンドが多いので、人工芝にシューズが引っかかって起こる受傷機転が多いようです。ACL損傷に対する再建術は骨付き膝蓋腱(BTB)またはハムストリングス腱(HT)を用いた再建術が行われます。ACL再建術後の競技復帰率は高いのですが、コリジョンスポーツ選手においてはACL再建術後の再断裂受傷率が高いことが問題で、今後これら再断裂をいかに防止するかが大きな課題と言えそうです。後十字靱帯損傷(PCL損傷)と内側側副靱帯損傷(MCL損傷)は複合靭帯損傷例を除いて保存的に治療されることが多いようです。 本会の会長を務められた前田朗先生は大阪大学で膝関節外科、スポーツ整形外科を専攻され、現在福岡県博多市の成田整形外科院長であり、日本ラグビー協会では安全対策委員会委員をしておられます。花園における高校全国大会でも九州から駆けつけて医務委員活動をして下さっております。昨日はこのような素晴らしい会に出席できて良かったと思います。 昨日はクリニックの診療受付時間を短縮したために、患者様には大変ご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありませんでした。この様な研修で得た知識を診療にフィードバックし、更に患者様のお役に立てることができますように研鑽していきたいと思っております。ご理解、ご協力を賜りますように、よろしくお願い申し上げます。 |
先週、三重県臨床整形外科医会学術講演会があり出席しました。特別講演はまつした整形外科院長松下廉先生でした。松下廉先生は名古屋市立大学で骨軟部腫瘍、骨粗鬆症を専攻され、2012年9月に愛知県春日井市でまつした整形外科を開業された先生です。癌研究所や大学病院での長年の経験と、新たに開業された経験を踏まえて、大変参考になるお話しを聴かせて頂きました。 骨粗鬆症に関連する骨折は上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折、大腿骨近位部骨折、脊椎椎体骨折などがありますが、特に大腿骨近位部骨折と脊椎椎体骨折は生命予後を悪化させることが指摘されています。脊椎椎体骨折が3カ所以上あると死亡率が4倍にもなるというデータもあります。 最近では様々な薬物治療の進歩により諸外国では大腿骨近位部骨折の発生率が低下してきているのに日本だけ増加しているのは、世界一の超高齢化社会だけが原因ではなく骨粗鬆症に対して未治療の割合が高い(70~80%)ことが大きな要因です。治療が行われない原因としては、骨折を起こしても治療を行うことによって疼痛などの症状が消失してしまうことが考えられます。喉元過ぎれば熱さを忘れる、ということでしょうか。フィンランドでは国を挙げて骨粗鬆症の健診を勧め、治療を勧めることにより大腿骨近位部骨折の発生率低下の成果を上げているということです。このあたりは見習いたいところですね。 骨粗鬆症の治療薬で最も使用されることの多いビスフォスフォネート剤に関しては問題となる副作用としてビスフォスフォネート関連顎骨壊死や非定型大腿骨骨折があります。特にビスフォスフォネート関連顎骨壊死に関しては歯科治療の際に歯科から休薬を求められるケースが多いようです。ビスフォスフォネート関連顎骨壊死検討委員会によりビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパーが発表され、投与3年未満でありリスクファクターがなければ原則として休薬せず歯科処置を行うことが推奨されています。どの症例でも一律に休薬とはせず、リスクとベネフィットを考える必要がありそうですね。 副甲状腺(PTH)製剤はより高い治療効果の見込める骨粗鬆症治療薬です。注射薬であること(週1回製剤と1日1回製剤)と高価であること、副作用が比較的多いことなどが難点として挙げられます。松下廉先生によりますとそのアクセスの違いから大学病院ではほとんどの方が1日1回製剤(自己注射)を選択し、クリニックではほとんどの方が週1回製剤を選択されるということでした。松下廉先生はその経験から副甲状腺(PTH)製剤の副作用を回避するコツなどを教えて下さいました。 松下廉先生は一人の骨粗鬆症である患者様に対して一剤のみで治療することは困難で、使用する薬剤の順番やローテーションが大事であると指摘しておられました。確かに骨粗鬆症治療は長丁場です。ビスフォスフォネート剤は5から7年の投与に留めておくように推奨されているそうで、副甲状腺(PTH)製剤は2年または回数で投与期間が決められています。漫然と同じ薬を使うのは問題であると松下廉先生は指摘しておられました。患者様の人生トータルでの治療戦略という視点が必要なようです。 松下廉先生のまつした整形外科では骨粗鬆症だけではなくスポーツ整形外科、リハビリテーション科にも力を入れておられます。リハビリテーションルームと屋外訓練施設、そしてリハビリテーション機器、トレーニング機器の充実には目を見張るばかりです。スタッフも豊富で複数名の理学療法士とアスレティックトレーナーが活躍しているそうです。 松下廉先生は専門外来として「こぶ(しこり)外来」も掲げておられます。骨軟部悪性腫瘍治療の専門家として長年携わった経験上、「もっと早く診断がついて、治療が開始できていれば…」と何度も思われたそうです。それを元にプライマリーで多くの患者様を診ることにより、少しでも骨軟部悪性腫瘍の早期発見に繋げたいと思っておられるそうです。その心意気に大変感心致しました。 |