先日、第31回三重県義肢装具・リハビリテーション研究会が開催されました。特別講演は「運動器慢性疼痛に対する薬物療法と運動療法」で講師は山口大学医学部附属病院病院長・山口大学大学院医学系研究科整形外科教授田口敏彦先生でした。 国際疼痛学会では痛みを「実際に何らかの組織損傷が起こったとき、または組織損傷を起こす可能性があるとき、あるいはそのような損傷の際に表現される、不快な感覚や不快な情動体験」と定義しています。田口敏彦先生は痛みが感覚や感情であるために、末梢から脳で痛みを認知するまでの経路において痛みを捉える必要があると説明されました。田口敏彦先生によりますと、足にピンが刺さったときも、腰椎椎間板ヘルニアにより神経根が傷害されたときも同じように足に痛みを生じますが、足にピンが刺さったときは侵害受容性疼痛、腰椎椎間板ヘルニアの場合は神経障害性疼痛と異なる分類の疼痛であるということです。疼痛は侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛に分類されます。 侵害受容性疼痛の場合には痛覚はAδ線維とC線維を通じて伝達されます。Aδ線維は刺激を早く伝達し、C線維少し遅れて伝達します。田口敏彦先生によりますと、C線維は熱さ、冷たさ、化学物質などに対しても疼痛を感じるということでした。発痛物質にはブラジキニン、セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリンなどがありますが、それぞれ固有のレセプターがあるということです。侵害受容性疼痛の場合には一般に神経機能が正常であるとされます。しかしながら例外が二つあり、一つは例えば同じ所を叩き続けるとだんだん痛み閾値が下がってきて痛みの程度が増強し我慢できなくなるというWind up現象です。もう一つは神経の可塑性で、非常に強い過剰な刺激が加わると神経のシナプス機能が可塑を起こすことです。神経障害性疼痛では一般的には部位は典型的な局在であり、期限的で、NSAIDsはよい反応を示すことが多いということです。 神経障害性疼痛の場合には異所性放電、下行性抑制系の障害、中枢性過敏化などが起こっており、疼痛もうずき、灼熱感、しびれ、ヒリヒリ感などの症状で領域は損傷部位と同一ではないそうです。 疼痛に対する薬物療法ではNSAIDs、アセトアミノフェン、オピオイド、抗うつ薬、抗てんかん薬、抗不安薬などを用い、疼痛の種類によりこれらの組み合わせで治療します。田口敏彦先生によりますと、侵害受容性疼痛または神経障害性疼痛それぞれ単独という場合は少なく、ほとんどの場合が混合性疼痛であることが薬物療法を困難にしているようです。 田口敏彦先生は運動療法が薬物療法と同様に、慢性疼痛に対する治療として重要であると述べられました。確かに運動は健康増進に繋がるし、疼痛軽減にも役立つように思えるのですが、その関連性は明らかではなかったように思えます。ランナーズハイはマラソンなどで長時間走り続けると気分が高揚してくる作用でエンドルフィンの分泌によりますが、その効力はモルヒネの6.5倍と言われているそうです。定期的な運動が慢性疼痛を軽減させ、運動不足は慢性疼痛の危険因子だそうです。これには定期的な中等度の運動は脳幹部の内因性オピオイドを賦活し下行抑制系を賦活することにより神経障害性疼痛を軽減させる効果があるからで、運動により神経障害性疼痛に関するタンパクも低下させることで疼痛閾値を上げる効果があるそうです。このように慢性疼痛に対する運動の効果が報告されてきており、運動の新しい意義として種々の慢性炎症を軽減することにより、慢性炎症性疾患の病状を軽減させる効果も見込まれているそうです。また肥満した脂肪組織からは炎症性サイトカインが放出されているそうです。 田口敏彦先生は薬物療法と運動療法を組み合わせて目標のQOLを達成することが慢性疼痛の治療の目的であると述べられました。慢性疼痛に対して薬物療法により疼痛を軽減させた状態で運動療法を追加することにより、より大きな効果が見込まれるということです。それではいつ運動療法を開始するかですが、田口敏彦先生によりますとVAS (Visual Analog Scale)で20~30mmの改善を認めたときであり、0にする必要はないということです。また運動療法の注意すべき点として、運動に対する恐怖への対策、運動に伴う痛みと疲労への対策、運動のコンプライアンスを上げることなどを挙げておられました。具体的にどの様な運動を勧められるかということには、田口敏彦先生は朝夕の散歩を挙げておられ、それを記録することが大事であるということでした。また仲間を集めるなどの工夫もよいということでした。慢性疼痛に対しては痛みに執着せず、痛みが出てもやりたい動きをする、そして痛みがとれれば何をやりたいのか、何をしたいのかに焦点を当てることを勧めるのがよいと述べておられました。 運動器慢性疼痛に対する治療として田口敏彦先生は疼痛のメカニズムを理解し、薬物療法から始め運動療法に移行し、疼痛をゼロにするのが目標ではなく、目標設定したADL、QOLを達成することを目標にすることであると総括されました。大変参考になるご講演でした。 |
たかぎなおこ氏の「はらぺこ万歳!家ごはん、外ごはん、ときどき旅ごはん」を読みました。たかぎなおこ氏は三重県出身のイラストレーターだそうです。 漫画と写真で綴る各地のグルメ、B級グルメは見ていて本当に楽しいですね。大阪モーニングは確かにこんなんやったと思います。 クリニックの本棚に置いています。皆様、是非ご覧下さい。 |
先日、名賀医師会臨床懇話会が開催されました。講演は「咳嗽診療の極意」で講師は三重中央医療センター呼吸器内科藤本源先生でした。 咳嗽とは一般に咳のことです。整形外科の私が咳嗽の治療をすることは滅多になく知識もあまりありませんので、せっかく咳嗽診療の極意を教えて頂いてもほんの少ししか理解できませんでしたが、わかった範囲で紹介したいと思います。 咳嗽とは気道内に貯留した分泌物や吸い込まれた異物を気道外に強制的に排除するための生体防御反応であるそうです。咳嗽反射が低下しますと不顕性誤嚥を起こし誤嚥性肺炎に至るリスクが増加します。近年死亡率で原因として脳血管障害が減少しているそうですが、肺炎は増加しているそうです。これは脳血管障害を起こしても初期治療で救命される割合が増加したものの、日常生活動作が低下した方は後になって誤嚥性肺炎を起こしてしまうという理由があるのだそうです。したがって咳嗽反射が低下することは命に関わる危険性が増悪することになり、生体防御的に必要不可欠なものです。しかしながら過剰な咳嗽反射やその持続は身体症状としてつらく、日常生活の質を低下させることとなり適切な対処が必要となります。 咳嗽が起こって3週間未満を急性、3週間から8週間を遷延性、8週間以上持続する場合を慢性と区分するそうです。急性期ほど感染が原因である可能性が高く、慢性期ほど感染以外の原因である可能性が高くなるそうです。また喀痰の有無によっても分類され、喀痰を伴わない咳嗽を乾性咳嗽、喀痰を伴う咳嗽を湿性咳嗽と分類するそうです。 咳嗽はほぼ全ての呼吸器疾患が原因となりうるそうです。藤本源先生によりますと1~2週間以上咳が持続する場合には胸部レントゲン撮影2方向を実施し、病歴では発熱、呼吸困難、血痰、胸痛、体重減少などに注意する必要があるということでした。またSpO2、血液検査(血算、CRP)、場合によって胸部CTなどを施行するということでした。 遷延性、慢性咳嗽の治療前診断には特徴的な病歴が参考になるそうです。咳喘息では夜間から早朝に悪化する咳嗽、また季節性や変動性があることなど、アトピー咳嗽では咽頭喉頭部のイガイガ感を伴う乾性咳嗽、胃食道逆流症では胸焼け、呑酸など食道症状、慢性気管支炎では喫煙歴などだそうです。また診断的治療で使用する薬剤として、咳喘息では気管支拡張薬、アトピー咳嗽では抗ヒスタミン薬、副鼻腔気管支症候群ではマクロライド、胃食道逆流症ではプロトンポンプ・インヒビターなどが用いられるそうです。 感染性咳嗽の特徴として先行する感冒症状、自然軽快傾向、周囲の同様の症状、経過中に膿性度の変化する痰が見られるなどの特徴があるそうです。マイコプラズマ感染症では、初期には乾性咳嗽で夜間不眠になるほどしつこい咳嗽が起こり3~4週間で湿性咳嗽になり8週間以上は続かないなどの特徴があるそうです。百日咳は2006年以降増加しているそうで、14日以上続く咳嗽、発作性の咳き込み、吸気性笛音が特徴的だそうです。感染後咳嗽の原因としてはウイルス、マイコプラズマ、クラミジア、百日咳の順に多いそうです。咳喘息の場合は喘鳴(呼吸するときに聞こえるゼーゼー・ヒーヒーという音)を伴わない咳嗽が3週間以上持続し、夜間から早朝にかけて悪化し季節性も認めるそうです。アトピー咳嗽の場合には喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続し、気管支拡張薬が無効で抗ヒスタミン薬、ステロイドが有効だそうです。その他にも副鼻腔気管支症候群、後鼻漏、気道異物、胃食道逆流症、薬剤性咳嗽などについても藤本源先生は解説してくださいました。 咳嗽診療では初診時に治療前診断をつけ、診断的治療を行い、その反応性をみて治療後診断(確定診断)を得るというプロセスが必要であるそうです。藤本源先生は咳嗽診療において、まず詳細な病歴聴取を重要視され、必要に応じてレントゲン検査、CT検査、肺機能検査などを駆使して肺がん、肺結核、肺炎、喘息など重大な疾患に留意する必要性を強調しておられました。 私の理解できた部分は少なかったですが、大変参考になりました。 |
水野敬也氏、長沼直樹氏の「人生はワンチャンス!」、「人生はニャンとかなる!」に引き続いて、動物たちの可愛い写真と偉人たちの名言をドッキングさせた話題作「人生はZOOっと楽しい!」を読みました。 表紙になっているコウテイペンギンの親子をはじめ、動物たちの愛らしい写真が楽しめます。偉人たちの名言も含蓄が深いですね。 クリニックの本棚に置いています。皆様、是非ご覧下さい。 |
本日、近鉄花園ラグビー場で第94回全国高等学校ラグビーフットボール大会準々決勝が行われ、グラウンドドクターとして参加しました。 今日はベストエイトの対決で、強豪校ばかりで激戦必至です。第1試合ではAシード校同士の対戦でしたが、東福岡高校が圧倒的な強さを見せて快勝しました。あとの3試合は全て接戦でした。第3試合では今大会注目の奈良県立御所実業高校WTB竹山選手の4トライの活躍もあって、接戦を制していました。私は竹山選手のラグビースクール時代に少し彼のプレーを見たことがありますが、当時から小学生でこんなに技術のある選手がいるものだと感心しました。今やスピードとパワーも兼ね備えて、スピードスターになっています。しかしながら御所実業高校においては全員が献身的にチームプレーに徹しているところに感心致しました。 今日の試合でも脳振盪(あるいは脳震盪疑い)を起こす選手が見受けられました。脳振盪に関しては、よりひどい外傷や死亡に至ることもあり得るということで、その取り扱いは近年大変厳格になってきています。ワールドラグビー(国際ラグビーボード)では脳振盪(あるいは脳震盪疑い)の場合にプレーヤーが19歳未満の場合最短でも3週間は競技復帰試合出場を禁じています。 かつてはラグビーにおいて脳震盪は軽く受け止められていて、脳振盪を起こすことは当たり前??という風潮がありました。確かに程度が軽ければ、すぐに回復する場合も多いのは事実です。脳振盪を起こしながらも競技に復帰することが美談になることも多かったように思います。先日の男子フィギュアスケートの羽生選手が受傷した件も、ひょっとしたら関連するのかもしれません。 ワールドラグビー(国際ラグビーボード)の提言は「プレーヤーを最優先」です。脳振盪(あるいは脳震盪疑い)を起こしてしまった選手は後の試合には出られないので、選手本人、チームともさぞ残念に思っていることでしょう。しかしながら将来ある選手のことです。選手の安全が第一という観点から考えると、優先順位は明らかだと思います。ひいては重症事故の減少が、ラグビーという競技の発展にも繋がると考えられます。 |