先日東京で開催されたラグビードクターフォーラムに出席しました。 これは2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップに向けて大会をサポートするグラウンドドクターを目指す医師や、今までラグビーに関わってきた多くの医師が参加しました。今回のテーマは脳振盪でした。ラグビーのようなコンタクトスポーツ(人と衝突するスポーツ)では脳振盪はしばしば起こりますが、最近ではスノーボードやスキー、バスケットボールなどでも多く見かけるようです。 東京慈恵会医科大学脳神経外科教授谷諭先生が「脳震盪はなぜ防がなくてはいけないのか」という講演をされました。脳震盪は外傷直後に意識を失う状態に陥った場合のみを指すのではなく、記銘力障害や混乱などの精神活動の一時的低下、さらに平衡感覚障害や病態が判っていない諸症状(頭痛、めまい、耳鳴り、二重視など)も広く含まれるという理解が重要です。気を失っていなければ、つい脳震盪では無いと考えてしまいそうですね。また脳震盪は(1)致死的外傷である急性硬膜下血腫を併発することがある(2)脳振盪の諸症状(頭痛、めまい、耳鳴りなど)が継続している時期に再び打撃を被ることによって致死的脳損傷を生じえるセカンドインパクト症候群があり得る(3)脳震盪の繰り返しにより認知機能の低下を来す慢性脳損傷を起こすことがあるなどの理由から「脳震盪は極力避けるべきものである」という認識をしっかりと持つことが大事です。 iRB(国際ラグビー評議会)は’Players First’「安全性を確保して選手を守る」という基本姿勢を打ち出しています。それにともない日本でも少しずつ脳震盪に対する対処が厳格になっているようです。医療従事者としては選手の安全性の確保が最大の使命で、それがひいては競技人口の増加に寄与するのではと期待しています。しかしながらラグビー人口が減少している中で、「脳震盪、脳震盪疑い」の選手が出ればチームとして試合継続が困難なチームが多い状況で、選手の安全と競技の活性化を両立させるためには、競技関係者と医療従事者の協力と連携が欠かせないと思われます。 昨日、今日と東京秩父宮ラグビー場で7人制ラグビー世界大会「東京セブンズ2012」が開催されています。7人制ラグビーはオリンピック種目にも採択されました。この東京での大会が、世間でいったいどれだけ認知されているのでしょうか? ラグビーの活性化にはもっと創意と工夫が必要ですね。 |
手の痛みについてNHKのテレビ放送、「ためしてガッテン」で2月15日に放映していました。内容は以前にご紹介した、「腱鞘炎」と「ヘバーデン結節」についてでした。またQ and A整形外科のコーナーを参考にご覧になって下さいね。 手指の腱鞘炎は指屈筋腱の狭窄性腱鞘炎でばね指といいます。番組では腱鞘の働きを自転車のブレーキになぞらえて、うまく説明していました。腱鞘があってこそ腱が有効に働くということですね。治療は局所の安静が中心になりますが、症状の強いときには注射の治療を行うことが一般的です。ステロイドホルモンという薬を腱鞘の部分に注射するのですが、手のひらに注射するのでかなり痛いことや糖尿病のかたは血糖値が上昇するので良くないということなどが問題点です。糖尿病の方は腱鞘炎を起こしやすいということもありますので、治療上悩ましい問題です。 保存治療(手術以外の治療)で症状が改善しないときには手術治療が考慮されます。番組では鏡視下の手術を紹介しておられましたが、一般には切開する方法がよく行われています。切開すると傷が少し大きくなる(約1.5cmくらい)という問題点もありますが、鏡視下手術の場合は傷が小さいが2カ所できる(それぞれは数mm ずつでしょう)ことや一部の施設でしか行っていない、保険適応外であるなどの問題点もあるようです。治療に当たってはよく相談されるとよいでしょうね。 ヘバーデン結節は関節の軟骨がすり減って、骨が変形してくることにより関節の変形を起こす「変形性関節症」の一つです。番組ではテーピングのテープを巻いて関節の可動性を制限する方法を紹介していましたね。なかなか有効な治療手段がないということが実情かと思われます。 |
広陵町中央公民館「かぐや姫ホール」にて、第25回奈良県スポーツ医・科学研究会、奈良トレーニングセミナー2012が開催され、出席しました。講師は市立奈良病院循環器科の守川先生とサッカー奈良クラブの羽中田監督でした。 守川先生の講演は「スポーツと突然死-日本人が注意すべきポイントは?-」でした。心停止に陥る原因として心筋の異常と冠動脈異常があるということです。先日天皇陛下が手術をされたのは冠動脈の狭窄によるものでしたね。若い世代では心筋の異常による場合が多く、死亡率も高いので注意を要します。水泳や音刺激、時には睡眠中に発作が起こることもあるらしく、家族歴の聴取が大事ということでした。日本人が注意すべきポイントとしては冠攣縮性狭心症が多いということでした。日本人の狭心症の約40%が冠攣縮性狭心症であり、特徴は早朝の運動で起こりやすく過換気でも誘発されるということでした。早朝のマラソンをされる方は特に要注意ですね。急激に運動負荷を増やさずに、十分なウオーミングアップが肝心です。心肺蘇生で最も重要なのは確実な胸骨圧迫(心臓マッサージ)をするということでした。これにはとっさの時には脈の確認(頸動脈)や人口呼吸が難しいということがあるようです。もう一つはせっかく胸骨圧迫をしていても不十分な場合(押し方が足らない、回数が少ないなど)が多いようです。またAEDを装着して解析の結果でショックが不要であると判断された場合でも心肺停止状態に陥っている場合があるので、その場合でもしっかりとした胸骨圧迫を実施することが重要で、このことが救命に繋がると言えるようです。守川先生の講演はとてもわかりやすく、勉強になりました。 羽中田監督の講演は「サッカーからの贈り物」という演題でした。羽中田昌さんは山梨県出身で小学校から韮崎高校までサッカーの有名な選手でしたが、高校卒業後に不慮の事故で脊髄損傷を受傷し下半身不随となり車いす生活を余儀なくされています。しかしながらサッカーの情熱を失うことなく一念発起し公務員を辞しバルセロナ留学を経て最高位のS級ライセンスを取得し今年から奈良クラブ監督に就任したそうです。バルセロナでコーチの門を叩いたときに、実践テストがあるので下半身不随では無理と断られて非常に落胆したそうです。その時に「諦めなければ目標はかなうんじゃないの?」とおっしゃった奥様の言葉に励まされたそうです。また自分を信じることの大切さを教えてくれたセルジオ越後さんとの出会いなど、サッカーを通じて得た人との出会いは下半身不随になったから余計にたくさん得ることができたとおっしゃっておられます。申し込めば5000万円を得ることができたはずのサッカーくじも得られなかったからこそ3冊もの本を執筆することに繋がったので逆に良かったと思っているということや、コロンブスの塔、サグラダファミリア、バルセロナのスタジアムなどを見上げることにより謙虚な気持ちを持つことができて成長に繋がったという話などは、人間にとって大事なものは何かということを教えてくれるような興味深い体験談でした。今は「愉しもう!」を合い言葉にサッカーの奈良クラブ監督としての活動を開始されたということでした。 本当に素晴らしいスポーツ指導者が奈良県に来てくれましたね。 |
アメリカポップス歌手Whitney Houstonさんが死去されたそうです。大変残念なニュースで驚きました。私は学生時代からWhitney Houstonさんの曲を好んでよく聴いていたので、とても寂しい思いです。Whitney Houstonさんは1963年生まれで私と同い年なのですね。 あまりにも早すぎる旅立ちですね。 |
映画、Always 三丁目の夕日’64を観ました。舞台となった1964年(昭和39年)は東京オリンピックのあった年で、考えれば戦後たった19年しか経っていないのですね。私が生まれたのが昭和38年ですので登場人物はほとんど私の親の世代くらいとなります。舞台は東京の下町ですが、私の育った大阪でも同じように路面電車があります。大阪の路面電車(阪堺電車、以前は南海電車)は今でもあり、チンチン電車と呼ばれています。私の子供の頃の風景にも通じるところがあって、なんだか懐かしい気がしました。 宅間医師が「今は皆が上を目指している時代です。」と言っているように、この時代はまさに高度成長時代ですね。登場人物のみんなが活気に溢れている様に見えます。それと隣近所の垣根が低いですね。まさに地域が一体となった共同社会の営みの様です。それがこの50年の間に高度成長時代からバブルの時代があり、バブルがはじけて不況になり久しくなります。また第1次、第2次ベビーブームの時代もありましたが第3次ベビーブームは起こらず、今や世界一の少子高齢化社会となりました。先日には2060年に日本の人口が8674万人になり、65歳以上が4割を占めるようになるというショッキングなニュースも報じられていました。たった50年ほどの間にこれ程世の中の状況、環境、人の価値観などが変貌してきたことに改めて驚いてしまいます。次の50年はどんなになっていくのか想像もつきませんが、世の中どんどん変化していくことだけは確実なようです。大きな変化の中でも普遍的に人間の最も大切なものを見失わないようにしたいものだと思います。 映画を観ていて目に留まったのは登場人物がタバコを吸う場面の多さです。確かに当時は喫煙者が多かったように思えますね。嫌煙権などという言葉は無かった時代ですから、小学校、中学校の職員室がタバコの煙でモクモクしているのは当たり前の風景でしたが今では考えられませんね。また妊婦さんの前で喫煙するという、今では眉を顰められることも当時はあまり違和感が無かったように思います。 地域住民に囲まれて信頼され地域住民に溶け込んでいる宅間医師、誤解を受けながらも時代に逆らって理想を追求する菊池医師には好感を覚えました。 なんだか懐かしい、楽しい気分になる物語でした。 |