先日、奈良県臨床整形外科医会研修会が開催され出席しました。特別講演は奈良医大整形外科准教授面川庄平先生の「手外科領域における新しいアプローチ」でした。 面川庄平先生は奈良医大整形外科の先輩で豊富な経験と業績をお持ちの先生です。今回は手外科領域におけるトピックスを紹介して頂きました。その一部を紹介いたします。 母指CM関節症は親指の付け根の関節である母指CM関節の変形性関節症ですが、日常よく見かける疾患です。女性に多いことはよく知られていますが、データによりますと閉経後女性の25%に母指CM関節症が認められるそうです。そのうち28%に疼痛を認めるそうです。すなわち全体で見ると閉経後女性の7%が有痛性の母指CM関節症を有することになります。これは大変多い数になりますね。つまりかなり多くの方が母指CM関節症に悩まされているということになります。ところが逆に見ますと母指CM関節の変形を認めるにもかかわらず症状のない方は72%にものぼるということで、これは大変不思議な気がします。またレントゲン写真上変形が強いと思われても症状のない場合やレントゲン写真上変形が軽度と思われても症状の強い場合もあり、レントゲン所見だけでは判断が困難のようです。 母指CM関節症に対する保存治療(手術をしない治療)は装具療法、関節内注射、内服薬、外用薬などになります。注射はステロイドやヒアルロン酸などの注入が行われますが、ステロイドの注射は短期間の効果だけで長期で見るとヒアルロン酸の方が効果はあるということです。しかしながらヒアルロン酸の母指CM関節への注射は保険適応外になります。またステロイドの注射は生理食塩水の注射と効果が変わらないという報告もあるそうで、ステロイドの注射は1回くらいに留めておくことが望ましいということでした。 母指CM関節症に対する手術治療は靭帯形成術、骨切り術、関節固定術、関節形成術など色々あります。面川庄平先生は関節鏡視下に滑膜切除、大菱形骨部分切除、長母指外転筋の半裁腱を用いて靭帯形成を併用した関節形成術を行い良好な成績を収めておられます。これには大変精緻な技術を要するものと思われます。 ばね指(弾発指)は指屈筋腱の狭窄性腱鞘炎です。保存治療として腱鞘内ステロイド注射(トリアムシノロンなど)は有効ですが、症状を繰り返す場合には3ヶ月あけて2回までに留めておられ、更に改善しなければ手術治療を勧めるということでした。弾発指の腱鞘炎はMP関節という指の付け根の関節上の腱鞘に生じますが、手術治療後にPIP関節という第2関節に屈曲拘縮といって関節が伸びない状態が起こることもあるそうです。これは要注意ですね。 更には三次元動態解析を用いて三角線維軟骨複合体損傷(TFCC損傷)の原因となる三角線維軟骨複合体(TFCC)における4本の靭帯の深層部と浅層部のそれぞれの働きや損傷されたときの手術適応を解説して頂きました。手術治療を要する場合は手の外科専門医に委ねる必要があります。 またWide awake surgeryといって、エピネフリン入りキシロカインによる局所麻酔を用いて術中にターニケットも用いずに患者さんに手指などを動かしてもらいながら手術をする試みなども紹介して頂きました。 大変細やかで精密な手技と工夫がなされており、感心しきりでした。 |
先日、名賀医師会におきまして名賀医師会臨床懇話会が開催され、春日井市民病院内科医長坂洋佑先生の「CKD (慢性腎臓病) 診療のポイント」という講演を聴きました。 昨年にも、の村信介先生のCKDに関する講演をお聴きしましたが、日本では人口の約8人に1人がCKDということで新たな国民病として大変注目されているホットな話題です。今回は「CKD (慢性腎臓病) 診療のポイント」ということで、主に内科医師に向けたお話しですので、私の理解できた部分だけ少し紹介いたします。 CKD診療ガイドラインが2012年に改定されたそうで、その主な変更点は重症度の分類を腎機能のステージ分類であったものを、腎機能に原因と蛋白尿を加えたものに変更されたそうです。蛋白尿をより重視したところが大きなポイントであるということです。CKD患者を腎臓内科専門医に紹介すべきパターンは、まず尿蛋白が多い場合で、これは進行性の可能性があるということです。次に血尿を合併している場合で、腎炎である可能性が高いそうです。最後に尿蛋白は正常であるが腎機能の悪い場合で、年齢別で判断すべきであるそうです。 また合併する高血圧症に対する降圧剤は、蛋白尿の有無や糖尿病の合併の有無で選択が変わってくるそうです。蛋白尿や糖尿病を合併する場合にはRAS阻害薬といわれる降圧剤が第一選択になるということです。(このあたりは私が処方することは滅多にありませんので、詳細はわかりません。) 未治療の高血圧症は腎機能を悪化させ、RAS阻害薬は蛋白尿も減らすそうです。 世界的に見ても日本人の塩分摂取量はかなり多い方であるそうで、1日6g未満に減らす塩分制限がCKD患者にとって最も大切であるそうです。 貧血もCKDで起こる症状で、腎性貧血は腎不全が進行している証拠であるそうで、最初には腎臓専門医への紹介が必要でしょうということでした。 講演後の質疑応答では造影剤腎症の話題も出ていました。循環器領域では頻用される造影剤検査の合併症ですが、高リスクの方は腎障害も循環器障害も合併している場合が多いでしょうからこれは大変難しい問題ですね。 今回、インターネットで調べて初めて知ったのですが、日本慢性腎臓病対策協議会がCKD啓発動画研究会を作って色々なCKD啓発のための動画をYou Tubeに公開しています。なかなかユニークな動画が多いのですが、「Bang Bang CKD (CKDをやっつけろ!)」は振り付け・ダンス付きの乗りのいい動画です。「あなたもCKD?~くちびる編」はくちびるのアップでC,K,Dと訴えかける動画でかなりインパクトが強いです。 これは大変面白い試みですね! まだまだ認知度不足のロコモも参考になるのでは?と思いました。
|
先日、第30回奈良県骨・関節研究会が開催され特別講演として東京医科大学整形外科准教授高瀬勝己先生の「肩鎖関節周辺損傷における新しい知見と今後の展望」という講演を聴きました。 肩鎖関節周辺損傷は肩外側を打撲して受傷することが多く、鎖骨外側端骨折、肩鎖関節脱臼などが代表的です。 高瀬勝己先生は関節鏡を用いた手術を行い、入院期間を短縮し早期の社会復帰およびスポーツ復帰を目指しておられますが、鎖骨外側端骨折に対しても鏡視下円錐靱帯再建術施行していると紹介して頂きました。 またもう一つの代表的な外傷である肩鎖関節脱臼はRockwood分類という分類があり、大雑把に言ってType 1が肩鎖関節捻挫、Type 2が肩鎖関節亜脱臼、Type 3が肩鎖関節脱臼、Type 4,5,6がより重度の肩鎖関節脱臼となります。 高瀬勝己先生は解剖学的研究とMRI検査による詳細な検討によりType 2においては、菱形靱帯は損傷されているものの円錐靱帯は温存されている場合が多いことを明確に示して下さいました。 肩鎖関節脱臼の治療はType 1,2は保存治療(手術をしない治療)、Type 4,5,6は手術治療が勧められます。Type 3に関しては治療方針について、保存治療か手術治療か意見が分かれるようです。これは両者でその結果に有意差を認めないからの様ですが、それぞれのメリット、デメリットを考えて症例に応じた治療方針の選択になるものと思われます。 高瀬勝己先生は手術治療を選択した場合の注意点として、菱形靱帯と円錐靱帯など個々の靭帯を解剖学的に再建する必要性を指摘しておられました。また40歳以上の症例では、受傷機転が類似するために腱板損傷の合併が多く、同時に治療する必要性を指摘しておられました。 |
先日、尼崎中央病院整形外科部長三木健司先生の「整形外科医が行う慢性疼痛疾患の診断と新しい鎮痛薬」という講演を聴きました。 三木健司先生は大阪大学で手の外科を専門としておられますが、基礎医学にも長年携わっておられ「疼痛」の専門家として高名です。日本整形外科学会、整形外科痛みを語る会の創設メンバーであり、日本運動器疼痛学会、日本線維筋痛症学会などでも要職を務めておられます。 慢性疼痛は、以前に古志貴和先生の講演でもお聞きしたように、神経細胞の可塑性(変性してもとに戻らなくなってしまうこと)が関与しているようです。 日本人では慢性疼痛の部位として、男性は腰痛、肩こりの順で女性は肩こり、腰痛、手足関節痛の順に多いそうです。全体で見ても人口の15%は何らかの慢性疼痛を有するということですが、その対処方法は医療機関を受診する(19%)、民間療法を受診する(20%)、何もしない(55%)、という内訳だそうです。しかしながら慢性疼痛を有して医療機関を受診した場合の満足度は約30%であるという結果は、厳しい現実を突きつけられたような感じがしました。 従来、慢性疼痛に対しても所謂「痛み止め」(非ステロイド性抗炎症薬)しかなかったわけですが、最近では種々の薬が開発されて疼痛に対する治療選択の幅が拡がってきています。三木健司先生には新しい薬を投与する適応(適した症例)や副作用を回避するコツなど色々なことを教えて頂きました。大変参考になりました。 三木健司先生は米国ベストドクターズ社から専門医同士の評価によって選ばれるBest Doctors in Japanに2回も選出されたそうです。三木健司先生の評価の高さが伺えます。 |
今月から理学療法実習に学生さんが2人、クリニックに来てくれています。実に遠路はるばるで、一人は大阪から、もう一人は石川からの学生さんです。 総合病院では常々、学生実習がありましたが、当クリニックでは初めてです。 学ぼうとする姿勢の若者がいますと、クリニックが更に活気づきますね!こちらも嬉しく思います。 どんどん色々なことを吸収していってもらいたいと思います。 できるだけのことは応援してあげたいですね。 |