先日、伊賀地区学校保健研修会が開催され出席しました。私も名張幼稚園の園医をさせて頂いており、興味を持って参加致しました。 講演(1)は“学校生活と発達障害”で講師は関西医科大学小児科、名張市立病院小児発達支援外来担当の小林穂高先生でした。発達障害は自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動障害、学習障害、知的障害精神遅滞などに分類されますが、それぞれがオーバーラップしていることも多いそうです。発達のかたより、ゆがみなどを生じ、対人関係や興味・関心の持ち方が独特な場合が自閉症スペクトラム障害、注意・集中力や衝動性のコントロールが未熟な場合が注意欠陥多動障害、読み、書き、計算の分野に限局した障害の場合が学習障害になります。発達障害とは、子どもの発達の途上において、何らかの理由により、発達の特定の領域に、社会的な適応上の問題を引き起こす可能性のある凸凹を生じたものだそうです(杉山)。つまり発達障害は発達の特性があり(発達凸凹)しかも日常生活での困り感があることと捉えると良さそうです。 発達障害の特徴を持つ子供は、小中学校の通常学級の中で日々生活をしており、平均で6.5%、小学校1年生では約10%にものぼるそうです。発達障害児への対応や支援の目標はそれぞれの発達特性を活かして、社会での役割を果たすこと、子供の頃の自尊感情を高めることで、やはり子どもを理解することが最も重要であるようです。保護者の方にできることは、生活リズムを整えること、愛情形成などでトラウマを作らないことや子どものこだわりに親が巻き込まれないことなどが重要であるようです(杉山)。 またコミュニケーションの問題として、目に見えないものを理解することが難しい、人の気持ちを察することが苦手ということがあり対人関係で躓きの原因となるそうです。「言葉がけ」は、目に見えない、聞いた瞬間から消えていく「あやふやな情報提供」にすぎないということで、視覚支援が有効です。 支援者は社会性や多動性・衝動性に目がいきやすいが、発達障害の子どもが抱えている感覚過敏、不器用の問題は集団参加や学業の困難に直結しやすいために、学校現場での注意深い観察と気づき、早期からの支援が望まれるそうです。聴覚過敏や触覚過敏は発達障害の子どもが実は一番困っている問題であるかもしれない、ということを知ることが大切だそうです。確かに集団生活は騒音と混乱のるつぼになることも多いですからね。これは慣れが解決する問題ではないようで、問題行動の背景に「感覚過敏」があることが多いそうです。周囲の理解がどれだけ大事かということが、よくわかりました。 講演(2)は“明日からできる「心の保健室活動」―子どもの質問紙調査と担任との連携”で講師は長尾こころのクリニック院長長尾圭造先生でした。長尾圭造先生は「健康症状チェック表」と「Coopersmithの自尊感情のアンケート」を用いて、学校の先生と医師が連携して子どものメンタルヘルス状態推進に取り組んでおられます。大変ユニークな取り組みで成果の得られる手法であることと、とても感心致しました。 |
先日、漢方領域別セミナーが開催され出席しました。演題は「病期からみた漢方薬の選び方~リウマチ、CRPSなどを中心に~」で講師は松村外科整形外科医院院長松村崇史先生でした。 松村崇史先生は手の外科を専攻される傍ら漢方医学治療にも造詣が深く、日常の診療でも西洋医学と漢方医学を見事に融合させた治療を行われているようです。 CRPSは複合性局所疼痛症候群のことで、外傷などをきっかけに長時間持続する痛みや浮腫、皮膚温の異常、発汗異常などの症状を伴う難治性の慢性疼痛症候群です。CRPSや関節リウマチに対して、病期に照らして有効な漢方薬治療を紹介して頂きました。 漢方では病態を進行状況に従って六病位という6段階に分類しており、傷寒論では陽証を太陽病、少陽病、陽明病、陰証を太陰病、少陰病、厥陰病の3つに分け、それぞれの病期に応じた治療が勧められます。このあたりは西洋医学より緻密なところですね。 その時点での個人の総合的な状態を「証」といい、漢方の基本的な診断・治療法として「随証治療」を紹介して頂きました。また証を時空的にとらえて漢方薬治療の方針を決定すること、炎症・疼痛性疾患に病期(病位)の概念を導入し治療に応用することを紹介して頂きました。 とても奥が深いですね。 まだまだ勉強です。 |
先日、伊賀・名賀合同臨床集談会が開催され、特別講演は「骨転移-日常臨床での落とし穴と最近の話題」で講師は三重大学医学部整形外科准教授松峯昭彦先生でした。 他臓器から骨に転移することにより発生した転移性骨腫瘍は原発巣の特定に苦労することもありますが、三重大学医学部附属病院がんセンターでは包括的に治療していることを教えて頂きました。松峯昭彦先生は骨破壊病変の発見に、叩打痛などの所見の重要性を指摘しておられました。 さらに悪性軟部腫瘍についても紹介して頂きました。骨軟部悪性腫瘍はその発生頻度の少なさから見逃されがちですが、隆起性の病変、出血性の病変を見たら腫瘍かもしれないと考える重要性を説いておられました。悪性度の高い軟部腫瘍の特徴として、増大のスピード、サイズ(5cm以上)、硬さ(硬い)、可動性に乏しい、局所熱感、局所発赤、疼痛などを挙げておられます。 感染に見えたが悪性リンパ腫であった症例、猫ひっかき病など特殊な症例も紹介して頂きました。 紛らわしい隠された疾患を見逃さないようには細心の注意が必要ですね。 |
先日、第47回東海地区整形外科教育研修会が名古屋で開催され、出席しました。講演Ⅰは「上腕骨近位端骨折に対する保存的治療―下垂位での早期運動療法について―」いしぐろ整形外科院長石黒隆先生、講演Ⅱは「なぜ今、整形外科超音波診療なのか?」城東整形外科診療部長皆川洋至先生、講演Ⅲは「医療紛争・医療裁判の実態と課題~整形外科事例をふまえて~」水島綜合法律事務所所長水島幸子先生でした。 上腕骨近位端骨折は骨粗鬆症に関連して高齢者に多い骨折です。石黒隆先生は上腕骨近位端骨折に対する治療が手術治療偏重の傾向があると疑問を投げかけておられ、早期運動療法による保存的治療(手術をしない治療)の工夫と良好な成績を紹介して下さいました。本法の適応は上腕骨骨頭と骨幹端の骨折面の接触が得られるものとしています。三角巾とバストバンドで腕を躯幹に固定し、受傷後1週から身体と床を平行に倒し、さらに患側の肩を床に近づけてリラックスした状態で身体を前後に揺らしながら、1日1000~3000回の腕の振り子運動を始めます。ポイントは立位保持可能であること、骨折部の接触が確実に得られていること、骨癒合まで重力に逆らって腕の挙上をしないことです。この方法により上腕骨近位端骨折の軽症例だけではなく、3-part骨折、4-part骨折などの重症例にも良好な成績が得られているということです。石黒隆先生はマレット骨折に対するExtension block pin法(石黒法)や指の基節骨骨折に対するMP関節屈曲位での早期運動療法(ナックルキャスト)など様々な工夫と理にかなった治療方法を数多く報告しておられます。 皆川洋至先生は整形外科超音波診療の第一人者としてご高名です。今回は肩関節周囲炎などに関して日本における歴史を江戸時代にまでさかのぼって紹介して頂きました。レントゲン検査にもMRI検査にも頼らず超音波検査だけで肩関節周囲炎の病態を診断しておられます。また超音波を駆使して神経ブロックを行ったうえで拘縮を伴った凍結肩をマニプレーションで治療し良好な成績を報告しておられます。しかしながらその技術の高さは芸術的なようにも思われ、現在のところなかなかここまで超音波を使いこなす整形外科医は少ないように思われました。 水島幸子先生は医療事故・医療裁判の実態と課題について具体的に紹介、解説して頂きました。予見可能性、結果回避可能性など用語が難しく、解説して頂いてもどれだけ理解できたか自信がありませんが、全く知らないでは済まないことかと思われました。今後、更に知識と理解を深める必要性を感じました。 3演題とも大変参考になることばかりで、とても勉強になり意義深い研修会でした。 |
本日、三重県保険医協会主催の講演会があり出席しました。記念講演は精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授香山リカ氏で演題は「いま子どもに教えたいこと~精神科医の立場から~」でした。 現在、日本では年間の自殺者がようやく3万人を下回ったそうですが、若年者の自殺者は逆に増加しているそうです。15歳から39歳までの若年層ではどの年齢層でも死因の1位は自殺だそうです。また世界的に見ても、これだけ自殺者の多い国は少ないそうです。そのような状況で精神科医の立場からいま子どもに教えたいことを香山リカ氏が提言してくれました。 香山リカ氏は“いまどきの子ども・若者”について考えるべきこととして「傷つきやすさ」「自己肯定感の低さ」「高い自己実現欲求」「万能の愛、無償の愛への幻想」などを挙げています。「傷つきやすさ」や「自己肯定感の低さ」に関しては、マイナスなことを受け止め、耐えることのできる力 (Negative Capability) の育成が大事なようです。「高い自己実現欲求」に関してはネット社会などにより情報量が多すぎて、逆に自分の価値を低く見積もってしまう傾向や、若年者には「自分らしさ」を大切にするということにとらわれすぎる傾向があるようです。自分でも気付いていない自分や「無意識」というものを考えると、若年層では尚更狭い自分という枠にとらわれてしまうという指摘は成る程と思いました。「自分探し」というものの問題点は、今の自分はダメという意識とセットになっていることだと香山リカ氏は述べておられました。「万能の愛、無償の愛への幻想」に関しては、人に対して理想化と脱価値化の両極端に振れてしまう若年層の不安定さ、危うさを述べておられました。 香山リカ氏はこのような若い人たちに伝えたい“処方箋”として、何者かにならなければいけない、なんてことはない、あたりまえの生活がなんとかできるだけでも、上出来だ、他人と比べるのは全く意味がない、みんなそれほどかわりはない、ほとんどの失敗なんて、たいしたことはない、困っているときには、ひとを頼ったっていい、とエールを送っています。また家族や支援者に伝えたい“処方箋”として、「完璧な子育て」なんてない、いらない、家族や支援者も自分を大切に、ときには距離も置こう、とエールを送っています。そして香山リカ氏は、少しだけ外に目を向ける力をもつことを推奨しておられました。 今後の日本において、自殺という悲劇が繰り返されないように祈るばかりです。 |