2012年3月に国民のロコモ認知度は17.3%であったのが、2013年3月には26.6%に増加していたそうです。 ロコモティブシンドローム(ロコモ、運動器症候群)は運動器の障害のために移動能力の低下をきたして、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態をいいます。筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、歩行や日常生活に何らかの障害をきたしている状態をいいます。 日本整形外科学会ではロコモの普及活動に取り組んでおり、10年後には国民のロコモ認知度80%を目指しています。 超高齢社会を迎える日本では、寝たきりにつながるロコモ対策が必須です。 われわれも啓蒙活動にしっかりと取り組んでいきたいと思います。 |
先日、奈良県医師会スポーツ医学部会主催の講演会があり出席しました。演題は「スポーツにおけるドーピング~全てのドクターに知っておいて欲しいこと~」で講師は今回も奈良教育大学保健体育講座学校保健・スポーツ医学研究室教授笠次良爾先生でした。 ドーピング検査といいますとオリンピックなどでの報道を思い出しますが、国内でも国体や全国大会などで年間約5000件のドーピング検査が施行されているそうです。国内の場合は競技力向上目的の薬物使用ではなく、治療のために服用した薬が禁止薬物であったという「うっかりドーピング」がほとんどであるそうです。 ドーピングとは、競技力を高めるために薬物などをしようしたり、それらの使用を隠したりする行為です。どういう行為がドーピングに当てはまるかは世界ドーピング防止規程に定められており、意図的ではなく不注意であっても制裁の対象になります。 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)によりますとドーピングが禁止されている理由として、フェアプレイの精神に反する、健康を害する、反社会的行為などもありますが、スポーツの価値を損なうという面を強調しています。しかしながら、かつての旧東ドイツなどでは元オリンピック選手のドーピング後の後遺症による健康被害は深刻であるそうで、健康を害するという面が大変重要であることは間違いありません。 世界ドーピング防止機構(WADA)が策定した禁止物質及び禁止方法は禁止表国際基準(禁止表)として、毎年更新されます。こういった情報も踏まえつつ、国体や全国大会などに出場するくらいの選手はかかりつけ医師に自分がアスリートであり禁止物質が入っていない薬の処方をお願いする必要があります。最新のアンチ・ドーピングに関する知識を持ち、薬の正しい使い方の相談ができる薬剤師であるスポーツファーマシストに相談するのも良いかもしれません。薬局やドラッグ・ストアで手軽に手に入る風邪薬や花粉症の薬にも、禁止物質が含まれているものがあります。 栄養補助食品(サプリメント)は薬ではなく食品に分類されるために、製品に成分の全てが表示されません。表示されていないものの中に禁止物質が含まれている場合もあり、特に海外製のサプリメントには禁止物質が入っている製品が多いのでより注意を要します。 漢方薬のなかには、主成分として禁止物質を含むものがあり、また全ての成分が明らかになっていない漢方薬もありますので注意を要します。 病気やケガの治療で禁止物質を使わざるを得ないときには、TUE申請を行って承認を得る必要があります。 ドーピング検査の実際も紹介して頂きました。一部の違反選手による隠蔽工作もどんどん巧妙に進んで、摘発する機構側とのいたちごっこですね。世界一を競うトップアスリートが不正行為の隠蔽工作に奔走するのは情けない限りです。まさに栄光の頂点から汚辱への転落ですね。 確かにこれはスポーツの価値を損なうものだと思いました。 |
昨日、今日と静岡で第26回日本臨床整形外科学会学術集会が開催され出席しました。 本学会への参加は、私は初めてでした。 本学会は整形外科開業医が主体ではありますが、整形外科勤務医、そして理学療法士などのコメディカルも多数参加する、大変活気のある学会でした。会場も第9会場までありとても規模の大きな学会で、どの演題を聴こうかと迷ってしまうほどでした。 大変勉強になり、その内容はまた報告したいと思っております。 |
先日、奈良教育大学において奈良教育大学トライアスロン医学セミナーが開催され出席しました。講師は奈良教育大学保健体育講座学校保健・スポーツ医学研究室教授笠次良爾先生でした。笠次良爾先生は奈良医大整形外科出身で、私と同門(奈良医大整形外科医局出身)になります。笠次良爾先生は自ら学生時代にトライアスロンにのめり込んで、現在スポーツ現場と学校現場をフィールドとして「傷害予防」に取り組んでおられる情熱あふれた先生です。今回、「熱中症ならびにSWIMの安全対策について」という講演を聴きました。ほとんどがトライアスロンに取り組んでいる現役の大学生に混って、聴講してきました。 今年の夏は非常に暑いみたいなので、熱中症についても盛んに報道されています。 スポーツ現場においても熱中症は非常に重篤な事故につながるのでしっかりとした対策が求められます。熱中症とは暑い環境(体内・体外両方)によって生じる様々な身体の不調の総称で、体内の暑い環境とは筋肉からの大量の熱発生や脱水で生じるそうです。 トライアスロンは水泳・自転車ロードレース・長距離走の3種目を連続して行う過酷なスポーツで、私自身経験はありませんが、綿密な準備と強靱な身体、精神、そして十分な体力が必須であろうと思われます。競技中熱中症を避けるためのポイントとして、まず体温を下げる努力をする。それには①定期的な水分補給、②身体に水をかけ直接冷やす③帽子にて頭部への輻射熱を遮ることが有効です。レース中に補給すべきものはまずは水分で体重減少が2~3%以内に収まるようにする必要があります。スタンダードディスタンス(51.5km)以上であれば、塩分補給が欠かせません。2時間以上の運動や急激に大量の発汗をした時には塩分補給が必要です。一般的なスポーツドリンクは塩分量が少ないので注意を要するようです。またレース前、レース前日からの給水が大切だそうです。暑熱馴化といって、暑さに慣れるのには1,2週間必要なので、急に気温が上がったときなどは要注意です。 水分摂取がしきりに強調されますが、2002年のボストンマラソンに出場した488選手中水分の過剰摂取で13%が低ナトリウム血症となり、一人の選手が死亡したということです。水分の過剰摂取は逆に危険なようです。 一般の方では、特に激しいスポーツをしていないのにスポーツドリンクを飲み過ぎて高血糖になるペットボトル症候群や、スポーツや肉体労働をしていてもスポーツドリンクを大量に摂取して血糖値が上昇し口渇が増強するためにさらにスポーツドリンクを飲み過ぎてしまうという悪循環に陥ることもあり、これも要注意ですね。 トライアスロンにおいてはオープンウオーターにおける水泳と長距離走でのゴール地点付近で死亡事故が起こることが多いそうです。何故、泳ぎに長けた選手が溺れることがあるのか私も理解していなかったのですが、泳げる人が溺水する原因は①冷水刺激による迷走神経反射説、②錐体内出血による平衡失調説、③気管内吸水による意識消失説、④ノーパニック症候群説、⑤不整脈説、⑥心疾患、脳血管疾患など基礎疾患の存在、⑦上記の因子の複合、等が考えられるそうです。運動中の突然死を予防するには、メディカルチェック、運動前健康チェック、環境条件チェック、十分なウオーニングアップ、クールダウン、初心者はいきなりオープンウオーターの大会に出場しない、などが大事です。 競技中の不幸な事故をなんとしてでもなくしたいという笠次良爾先生の強い思いが伝わってきました。笠次良爾先生の迫力は若い学生たちをも圧倒していて、相変わらずの大きな声量は講義室ではマイクも不必要な程です。笠次良爾先生の思いは学生たちに十分響いていたように見受けられました。 |
先日、第29回三重上肢外科研究会が開催され出席しました。 特別講演1は「器質的障害と機能障害から考える肩関節障害のリハビリテーション」で講師は三仁会あさひ病院リハビリテーション科主任水谷仁一理学療法士でした。今回は特に肩関節疾患に対する理学療法に関する講演で、理学療法士の講演を聴く機会があまりないので、とても興味深く聴かせて頂きました。五十肩、腱板修復術後、投球障害に関して理学療法の理論から工夫、トレーニング方法など色々と紹介して頂きました。投球障害ではボールの握り(指腹握りと尺側握り)の比較や投球動作とシャドウピッチングとの乖離など、おもしろい着眼点における研究の成果を紹介して頂きました。 特別講演2は「日常診療によく見られる肩関節疾患―診断と治療法―」で講師は大阪医大整形外科助教三幡輝久先生でした。肩関節の解剖、肩腱板断裂、肩関節不安定症、肩関節拘縮に関して、詳細に解説して頂きました。腱板断裂では疼痛とともによく起こる症状である筋力低下は、しばしば認められる症状ですがKeeganタイプの頚椎症性神経根症が鑑別診断となり、肘屈伸筋力低下の有無をチェックする必要性を指摘しておられました。肩腱板断裂では大半を占める棘上筋腱断裂では肩外転筋力低下を認めますが、棘下筋腱断裂合併では外旋筋力低下、肩甲下筋腱断裂合併では内旋筋力低下、小円筋腱断裂合併では広範囲断裂でありDrop Arm Signを認めます。疼痛誘発テストである各種のインピンジメントサインは肩腱板断裂に対して感度は高いが特異度は低く、ペインフルアークサインは感度では低いものの特異度がより高く、ドロップアームサインでは感度はかなり低いが特異度が極めて高いということでした。治療は鏡視下に関節包修復術、再建術を行っており良好な結果を得ているということです。 肩関節不安定症では原因が外傷性の場合は手術治療も考慮されるが、非外傷性の場合は必ず保存治療が選択されるということでした。やはり鏡視下で手術治療をされるということでしたが、骨欠損が大きい場合には手術治療困難な場合があるということでした。 肩関節拘縮では原因が外傷性でも非外傷性の場合でも、保存治療が選択されるということでした。手術治療の選択には慎重さを要するようです。 今回の研究会は理学療法士の演題もあったために理学療法士の参加も多く、会場は満席で座るところも足りないくらいの大盛況でした。参加者の熱気が伝わってくる研究会でした。 |