先日、名賀医師会臨床懇話会が開催されました。演題は「開業医におけるピロリ除菌治療」で講師は黒田クリニック院長黒田幹人先生でした。黒田幹人先生は三重大医学部第3内科出身で三重県の主要な病院で勤務された後に伊賀市桐ヶ丘で黒田クリニックを開業された消化器肝臓内科の専門医です。秋山整形外科クリニックでピロリ菌除菌治療をすることはありませんが、大変興味深く聴かせて頂きました。 ピロリ菌は1983年に発見されたそうですが、それまでは胃の中がpH1~2と高い酸性なので生物が生きていけるわけがないと思われていたそうです。ところがピロリ菌は強アルカリ性のアンモニアを産生し胃酸と中和させて身を守っているそうです。ヘリコバクター・ピロリ菌の名前の由来はヘリコが螺旋で、ピロリ菌が螺旋状をしており、バクターはバクテリアで菌、ピロリは胃の出口である幽門(ピロリス)に由来しているそうです。実際にヘリコバクター・ピロリ菌は螺旋状で、数本の鞭毛を持っていて活発に動き回り、胃粘膜の下に潜り込んで胃酸から逃れているそうです。5歳頃までに感染し、経口感染で、以前は便による汚染など、現在は母親からの経口感染が多いそうです。国内感染者はおよそ6000万人から3000万人と減少しているそうです。 ピロリ菌感染しますと、ほぼ100%慢性胃炎となり、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃癌、特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血、慢性じんま疹などの発生にも関与しているそうです。ピロリ菌除菌治療に健康保険が適用されるのは胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、慢性胃炎だそうです。ピロリ菌除菌治療は一次除菌と二次除菌からなり、胃酸分泌抑制薬と抗生物質の内服ですが、ボノプラザンなど新薬の登場により一次除菌の成功率も70%から90%に上昇したそうです。 黒田幹人先生はピロリ菌除菌治療時の留意点として、内服コンプライアンス、禁煙、禁酒、様々な副作用(軟便、下痢、味覚異常、口内炎、舌炎、皮疹、出血性大腸炎、アレルギー、肝機能異常など)を挙げておられました。除菌後に体重増加する場合があることや除菌後も内視鏡検査をすることが望ましいことにも言及されました。また乳酸菌LG21ヨーグルトの併用で除菌効果が上がることや、内服後に2時間左側臥位でいることで胃の中に薬が保たれることにより除菌効果が上がることなども教えて下さいました。患者さまに対して大変細やかに注意を傾けながら治療しておられる黒田幹人先生の診療方針に感心致しました。 |
東北大学加齢医学研究所教授瀧靖之先生著の「生涯健康脳」を読みました。瀧靖之先生は「幸せに生きるということは脳を健康に保つことと同じです。そして嬉しいことに、生涯健康脳を保つ方法は、日常生活の中で簡単にできることがいっぱいあります。」と述べておられます。 瀧靖之先生は「アンチエイジング」より「スマートエイジング」でと勧めておられます。「アンチエイジング」が加齢をネガティブ、後ろ向きにとらえているのに対し「スマートエイジング」は加齢を「知的に成熟する人生の発展」としてポジティブ、前向きに捉えているということです。私は以前から「アンチエイジング」という言葉に違和感を感じていましたので、これもなるほど!という気がしました。脳の説明で瀧靖之先生は片手を開いて「おでこ」のあたりを包み込んだあたりが「前頭葉」、「聞かざる」のポーズをするあたりが「側頭葉」、いい子となでてもらった頭の上が「頭頂葉」、「いやあ、まいったなあ」という時に、つい抑えてしまう頭の後ろのあたりが「後頭葉」です、という説明は本当にわかりやすく感じました。 脳に良いこと、悪いことの章では、「有酸素運動」、「デュアルタスク」が良いことで、飲酒、肥満、糖尿病、動脈硬化症、高血圧症、ストレスなどが脳に悪いことであり、十分な時間と質の良い「睡眠」が脳を守ると述べておられます。また脳の最高の栄養素は「知的好奇心」であり、楽しい!嬉しい!が脳を元気にする、と述べておられます。それには「新しいこと」をすること、「コミュニケーション」を計ること、「デュアルタスク」を好きなこと、趣味に取り入れること、そして音楽の効能についても述べておられます。 脳はトレーニングで変化する、生活習慣が遺伝子を超える、なども何とも心強い希望の持てる瀧靖之先生からの言葉であると思いました。 |
「Wの悲劇」などの推理小説で著明な作家の夏樹静子さんが先日死去されたそうです。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。 「Wの悲劇」はかつて薬師丸ひろ子さん主演で映画化されました。また夏樹静子さんはテレビドラマでもシリーズで人気のあった作品を数多く手がけられ、とても人気の高い作家の一人であったと思います。 私はかつて「腰痛放浪記 椅子がこわい」という夏樹静子さん自身の体験による作品を読んで感銘を受けたことを思い出しました。著者は想像を絶する腰痛に苦しみ、朝起きた直後からの激痛、柔らかい椅子にはとうてい座れない痛みに悩まされ、電車にも飛行機にも乗れない状態に陥ったそうです。そこで数々の治療者を次々に探し求めても、どれもこれも治らなかったそうです。そして最後は劇的な結末を迎えるのですが、鋭い腰の痛みの原因が内なる魂の叫びであったということでした。 このストーリーは並大抵の推理小説よりも劇的な展開だったと思います。また心因性疼痛というものを多くの方に知らしめた、とても重要なメッセージを含んだ作品だと思いました。 |
先日、第2回名張プライマリケアを考える会が開催されました。 基調講演は「パーキンソン病について」で演者はおおのクリニック院長大野則和先生でした。大野則和先生は伊賀市で内科、神経内科のクリニックを開いておられ、伊賀・名張地区では貴重な神経内科専門の先生です。大野則和先生は専門外には難解なパーキンソン病を、様々な職種の医療関係者に理解しやすいように丁寧に解説して下さいました。 パーキンソン病とは黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする神経変成疾患であり、4大症状として(1)安静時振戦、(2)筋強剛(筋固縮)、(3)無動・寡動、(4)姿勢反射障害を特徴とします。最近は運動症状のみならず、自律神経症状や精神症状などの非運動症状も注目されているそうです。しかしながらこれでは難解で説明を聞いてもなかなか理解できそうにないですね。 大野則和先生は患者さまにパーキンソン病を脳の病気であり、神経の伝わりが悪くなり、体がうまくいかなくなる病気で、一般的には徐々に進行するが、最近新しい治療法が出てきているというように説明するそうです。なるほど、これなら誰でも理解しやすそうなうまい説明ですね。 大野則和先生によりますと、日本では患者数が14万5千人、有病率は約1000人に1人、好発年齢は50歳から60歳代後半で、60歳以上で見れば100人に1人、遺伝性は約10%に認められるそうです。パーキンソン病が比較的有名なのは、モハメド・アリ、マイケルJフォックス、ヨハネ・パウロ2世、アルドフ・ヒトラーなど著名人に多いことなども影響しているのでは?という話でした。 原因は基本的には不明であるそうですが、脳の黒質から線状体に向かう情報伝達経路の障害であるということでした。危険因子は遺伝、便秘、喫煙などだそうです。便秘が危険因子とは不思議ですね。代表的な症状は振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害です。振戦は安静時に起こり、手足の震えなどですが、頚を縦に振る動きもあり、本態性振戦では頚を横に振るという違いもあるそうです。筋強剛は鉛管様、歯車様などであり、手足のしびれも訴えるそうです。無動では動作が遅くなったり少なくなったり小さくなったりするそうで、字を書くとだんだん小さくなる小字症も認められるそうです。姿勢反射障害ではバランスがとりにくくなり、めまい感、浮動感、立ちくらみなどを訴えたりもするそうです。症状は主に運動障害ですが、嗅覚障害、便秘、睡眠障害なども起こるそうです。睡眠障害は寝返りがうまくうてなくなって起こることも多いそうです。大野則和先生によりますと、鑑別疾患としては薬剤性パーキンソン症候群に注意する必要性があり、ドグマチールにより起こることが多いがSSRI製剤にて起こった経験もあるということでした。治療は薬物療法が有効で年齢によってドパミンアゴニストとL-DOPAを使い分けるということでした。早くから薬物療法を初めて、良好な状態を保つことが重要なようです。またパーキンソン病の進行を防ぐには早期からのリハビリテーションが有効なようです。大野則和先生は格子柄のタイルカーペットを利用した歩行訓練を紹介して下さいました。また大野則和先生によりますと、パーキンソン病の患者を支える環境作りが重要であるということでした。 基調講演の後に名張市立病院総合診療科部長御前秀和先生座長により、グループセッション「パーキンソン病患者における多職種連携」が行われ、こちらも参加しました。私の参加したグループには訪問リハビリテーションやデイケアを行っている理学療法士の方が3人参加しておられ、現場での体験や気づきなどを教えていただきました。大変参考になるお話しでした。 本会を通じてプライマリケアにおける多職種連携の重要性を再確認できて、大変勉強になりました。 |
先日、名張市教育委員会から学校保健安全法施行規則の一部改正についての説明会があり出席しました。児童生徒関係について主な改正点は「座高」検査の必須項目からの削除、「寄生虫卵の有無」検査の必須項目からの削除、「四肢の状態」検査の必須項目への追加、成長曲線などの活用による発育評価、保健調査の全学年での実施などです。この中では「四肢の状態」検査の必須項目への追加が大きな変更点で、整形外科に大きく関わってきそうなところですね。 平成26年4月30日付で「学校保健安全法施行規則の一部改正等について」通知があり、児童生徒等の健康診断に「四肢の状態}が必須科目に追加されました。これは平成28年4月1日から施行ということです。「四肢の状態」が必須科目となった背景は、現代の子どもたちには過剰な運動に関わる問題や、運動が不足していることに関わる問題など、運動器に関する様々な課題が増加しており、これらの課題について、学校でも何らかの対応をすることが求められており、その対応の一つとして学校の健康診断において、運動器に関する検診を行うことが考えられたそうです。学校保健安全法施行規則によりますと健康診断は、毎学年、6月30日までに行うものとするというように規定されています。 運動器に関する検診は、①家庭における健康観察(保険調査票等)、②家庭・学校における日常の健康観察の情報を整理、③健康診断(学校医による検査)、④事後措置という手順で行われます。保険調査票にチェックがあった症状等についてはスクリーニングとなる疾病・異常等については、背骨が曲がっている場合は脊柱側わん症等、腰を曲げたり、反らしたりすると痛みがある場合は脊椎分離症等、上肢に痛みや動きの悪いところがある場合は野球肩、野球肘等、膝に痛みや動きの悪いところがある場合はオスグッド病等、片脚立ちが5秒以上できない、しゃがみ込みができないなどの場合は大腿骨頭すべり症、ペルテス病、発育性股関節形成不全症等が疑われます。 調査票を見ますと、例えば用語で言うと腰の脇線とは難しい言葉ですね。あまり聞き慣れない言葉です。これはウエストラインのことのようです。その他の項目も慣れないと判断は難しいかもしれません。しばらくは少しの混乱もあるのかもしれませんね。 |