高倉義典先生著の「名医が教える足のお悩み完全解決バイブル 痛み・不調の理由と治し方がよくわかる」を読みました。 高倉義典先生は奈良医大整形外科名誉教授で、日本足の外科学会理事長および会長、国際足の外科学会初代理事長など多数の要職を務められ、日本における「足の外科」の第一人者です。 高倉義典先生は医師向けの著書は多数あるのですが、一般の方向けの書籍を著されるのは今回が初めてだということです。内容を見ますと一般の整形外科医でもあまり知らないような詳しい内容を、とてもわかりやすく解説しておられます。これなら一般の方でも病院で整形外科医から受けるアドバイスを、この本から受け取ることができると思われます。特に「Part 4 人には言えない足のお悩み」では私も日常診療におきまして、患者様からよく質問されることばかりなので驚きました。まさに、かゆいところに手が届く、という感じです。疾患の解説も病態、症状、治療、予防法まで内容が深く、かつわかりやすいですね。 高倉義典先生は私が奈良医大勤務時代はもちろんのこと、足の外科を学び始めてから最もご指導いただき、最もお世話になった恩師です。本当にありがとうございます。 |
先日、名賀医師会臨床懇話会が開催されました。講演は「日常生活で心不全を予防するための工夫」で講師は城医院城祐輔先生でした。 城祐輔先生は慶應義塾大学医学部循環器内科および関連病院で勤務された後、2015年から伊賀市の城医院で勤務しておられます。城祐輔先生は総合内科専門医だけではなく、循環器科学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医などもお持ちで、循環器科のスペシャリストとしてキャリアを重ねてこられ、開業後は地域医療の担い手としてご活躍中です。城祐輔先生はクリニックでできる高齢者の心不全予防をテーマに心不全を疑うべき心電図の簡単な見分け方、専門医への紹介のタイミングなどを紹介してくださいました。 城祐輔先生によりますと、昔から言われている典型的な心不全の症状は呼吸苦、浮腫、頚静脈怒張、起坐呼吸、夜間発作性呼吸困難、全身倦怠感、食欲不振などであるそうです。しかしながらこれらの症状がそろう場合はむしろまれであるということです。心エコーは心不全の診断に有用で、心収縮や弁膜症の程度がわかるそうです。慢性心不全治療ガイドラインによりますと、収縮力の低下した慢性心不全患者に対する第一選択はβブロッカーで第二選択はACE阻害剤(またはARB)だそうです。以前はジギタリスが第一選択であったのが、ジギタリスが予後を改善しないことがわかり第一選択ではなくなったそうです。この様に変化したのが、ちょうど城祐輔先生が国家試験勉強をしていた頃であり、城祐輔先生はその意味でも印象深かったということでした。私が学生時代に大学で教わった1980年代後半にはやはり、心不全にはジギタリスが第一選択と習ったようなおぼろげな記憶があります。 城祐輔先生によりますと、心不全で入院する患者さんの半数近くは左室収縮が不良というわけではないそうです。心臓は「ポンプ」の機能もあるが、心筋の「膨らみ具合」もとても大切であるということです。長年の高血圧により左室肥大になると収縮は良くても心筋の肥大と線維化によりしなやかさが失われてしまうそうです。そうなると急激な血行動態の変化を柔軟に受け止めるだけのクッション的要素がなくなってしまい、容易に血圧上昇を招いてしまうそうです。この様に収縮力の保たれた心不全を心筋拡張障害と言うそうです。心筋拡張障害であると、突然の血圧上昇や頻脈の場合に左室充満圧上昇、左房圧上昇、肺静脈圧上昇と繋がり、数時間から数十分でも肺水腫に至ることがあるそうです。 城祐輔先生は拡張障害によって心不全を起こす人の特徴を患者さんとの会話の中で見出す秘訣を紹介してくださいました。「畑仕事や草刈りの際に息切れしたり、大きく深呼吸をしたくなることはありませんか?」という問いに「そりゃあるわさ、いうてももう年やさけ。」と患者さんが答えたら、それは心不全兆候の可能性があるために注意を要するということでした。この場合には心電図検査を行いV1誘導で陰性P波が認められる場合や血液検査でBNP>100pg/dlが認められる場合などが循環器専門医へ紹介するタイミングであるということでした。 城祐輔先生によりますと、拡張障害にあまり有効な薬は無いために、尚更生活指導が重要になるということでした。急激な血圧上昇を避けて、頻脈を来すような興奮、緊張を避けるということです。具体的には重いものを持ち上げたり、便秘時のいきみ、興奮、疲労の蓄積などは厳禁であるということでした。 患者さんとの何気ない会話の中に、重篤な病状につながる微細な兆候を見逃さない城祐輔先生の洞察力と診療姿勢に大変感心いたしました。 |
平成28年10月15日(土)にヒルホテルサンピア伊賀におきまして、市民公開講座 骨と関節の日が開催されます。 皆様、どうぞご来場下さいませ。 |
先日、骨粗鬆症WEBシンポジウムを看護師、理学療法士と視聴いたしました。講演は「骨粗鬆症治療の新展開と今後の展望」で講師は徳島大学藤井節郎記念医科学センター顧問松本俊夫先生でした。 松本俊夫先生によりますと、わが国には約1300万人の骨粗鬆症患者さんがおられ、人口の高齢化に伴いなお増加の一途をたどっているということです。骨粗鬆症の最も重要かつ重篤な合併症は大腿骨近位部骨折や脊椎椎体骨折であり高齢者の日常生活が大きく損なわれ、健康寿命が短縮するのみならず死亡率も増加するということです。 松本俊夫先生によりますと、骨粗鬆症による骨折の防止には骨折リスクの高い患者を効率よく見出し治療へと導く方策が必要であるということです。そのためには既存臨床骨折の有無に加え、身長低下や亀背の有無などの問診・視診と胸腰椎X線像による椎体骨折の評価が重要であると強調されました。また続発性骨粗鬆症は、その原因疾患の診断・治療および原因疾患に応じた骨粗鬆症治療方針の策定が必要であるということでした。 さらに松本俊夫先生は骨粗鬆症治療薬の使用方法と合併症などについても詳細に解説してくださいました。大変勉強になる講演会でした。 |
先日、名賀医師会臨床懇話会が開催されました。講演は「抗菌薬治療のパラダイムシフト」で講師は三重大学大学院名張地域医療学講座、名張市立病院総合診療科谷崎隆太郎先生でした。 感染症学は「疫学」「微生物学」「臨床感染症学」の3つに分けられるそうですが、日本では「臨床感染症学」の分野が海外の先進国に比べて大きく遅れをとっている状況が続いていたそうです。しかしながら谷崎隆太郎先生によりますと、近年日本でもこの分野の発展が目覚ましく、今まで当たり前と思われていたことが実は正しくなかったり、今まで認識されていなかった事実が世の中に広まったりと、ある種のパラダイムシフトを起こしているということです。谷崎隆太郎先生は抗菌薬治療において、より臨床に即した実践的な知見を紹介してくださいました。 谷崎隆太郎先生は抗菌薬なしで改善する感染症として、かぜ、急性咽頭炎、急性副鼻腔炎(軽症・初期)、急性気管支炎、急性中耳炎(軽症)を挙げられました。 典型的なかぜの自然経過は咽頭痛、イガイガ感、けだるさ、微熱から鼻閉、鼻汁(サラサラ鼻汁から膿性鼻汁へ)、せき、痰などの症状が起こり、症状のピークは発症後2~3日後であり、7~10日目に概ね症状が収束するものの25%の症例で症状が2週間以上続き、3週間以上続くこともあるというものだそうです。これは誰しもが自ら経験して知っていることですね。谷崎隆太郎先生はかぜと診断したら抗菌薬を使わない重要性を述べられました。もし細菌感染症であった場合を恐れて抗菌薬を使うメリットともし細菌感染症でなかった場合アナフィラキシー、皮疹、下痢などの有害事象の生じるデメリットを考えると、抗菌薬を使うか使わないかは、基本的にはリスクとベネフィットの天秤であるということです。谷崎隆太郎先生は患者が医師の共感を感じるとかぜ症状が1日早く良くなるという文献も紹介してくださいました。大切なのは患者の心情だったりするということでした。こういうことに着目した研究やデータもあるということはとても興味深いと思いました。 急性咽頭炎における抗菌薬投与の目的は合併症(扁桃周囲膿瘍、リウマチ熱)の予防、症状緩和、周囲への感染拡大の予防であるそうです。抗菌薬投与の適応は少なくともCentorまたはMclssacの基準を満たすことであるそうです。 急性副鼻腔炎の抗菌薬投与について、軽症例には抗菌薬を使用しないことが推奨されているそうです。抗菌薬投与の適応は鼻炎症状が7日以上持続し、臨床症状の改善がない場合、強い顔面痛、膿性鼻汁が見られる場合であるそうです。 2峰性の症状経過があると細菌性が疑われるということでした。 急性気管支炎における抗菌薬投与の目的はCOPD急性憎悪の治療失敗の減少であるそうで、COPD患者でなければ抗菌薬投与の適応はないそうです。 急性中耳炎における抗菌薬投与の目的は症状緩和、病悩期間の短縮であるそうで、抗菌薬投与の適応は重症中耳炎(39℃以上、耳痛が強い)、耳漏を伴う、両側中耳炎、2歳以下であるそうです。 谷崎隆太郎先生は早期に治療介入が必要な感染症として、細菌性髄膜炎、急性喉頭蓋炎、壊死性筋膜炎、化膿性関節炎、重症敗血症や敗血症性ショックを挙げられました。また谷崎隆太郎先生は問診と身体所見だけでは診断が難しい感染症として、感染性心外膜炎、急性胆管炎、Clostridium difficile感染症、膿瘍、特発性細菌性腹膜炎、眼内炎、感染性動脈瘤などを挙げられました。菌血症は血液培養検査で診断するために、丁寧に問診・身体診察をしても問題の臓器が絞れない時は、まず血液培養2セット採取してからさらに考えを進めるようにすることを勧めておられました。 谷崎隆太郎先生は感染症治療に際して治療は効いているか、治療の副作用は出ていないかという両方の視点から見ていき、感染症の典型的な臨床経過に照らして全身の指標だけではなく、局所の指標も重要であると述べられました。谷崎隆太郎先生は感染症が良くならないときにまず考えることとして、最初の診断が違う可能性、ドレナージやデブリートマンが必要な病態である可能性、そもそも自然経過である可能性などを挙げられました。診断が違う例として臓器が違う例、微生物が違う例、診断が感染症ではない例などを挙げられました。高齢者の肺炎において画像所見が改善するまでの期間や急性腎盂腎炎において治療開始から解熱までの期間は予想以上に長期間であることもあるということを知っておく必要があるということでした。 谷崎隆太郎先生は抗菌薬の主なリスクとしてアレルギー(アナフィラキシー、薬疹)、下痢(特にClostridium difficile腸炎)、肝障害、腎障害、血球減少、電解質異常、血糖異常、QT延長症候群などを挙げられました。ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児などの重篤な低カルニチン血症と低血糖については、注意喚起がなされているそうです。谷崎隆太郎先生によりますと抗菌薬によりBioavailability(生物学的利用能)はかなり差があるそうです。日本で汎用される第三世代セフェム系抗菌薬はBioavailabilityが低く消化管で吸収されにくいものが多いので注意を要するということでした。 谷崎隆太郎先生によりますと、今年に厚生労働省が薬剤耐性対策アクションプランを策定したということです。これは1980年代以降、抗微生物薬の不適切な使用等を背景として新たな薬剤耐性菌が増加したのに対して、新たな抗微生物薬の開発は減少しているということがあるようです。2015年5月の世界保健機関総会で薬剤耐性に関する国際行動計画が採択され、加盟各国に今後2年以内に自国での行動計画を策定するように要請があったそうです。日本では抗微生物薬の適正使用を推進するため、今後5カ年で実施すべき様々な行動計画と成果指標が設定されました。国を挙げての耐性菌への対策が、ついに日本でも始まったということだそうです。 谷崎隆太郎先生はまとめとして不要な抗菌薬はそもそも処方しないこと、抗菌薬を処方すると決めたらリスクとベネフィットを検討することの重要性を強調されました。日々の臨床に大変役立つ、有益な講演会でした。 |