本日、三重県医師会館におきまして第1回医科・歯科合同研修会が開催され出席いたしました。講演1は「観血的処置時の抗血栓薬への対応」で講師は三重大学大学院医学系研究科循環器・腎臓内科准教授山田典一先生でした。 止血機能は出血を止める生体の防御反応で、不適切に過度に起こると病的血栓形成を招き、血流障害へとつながります。山田典一先生によりますと、脳血管で生じると脳梗塞、左心房(心房細動)、機械弁、心室瘤などで生じると脳塞栓症、全身塞栓症、心臓冠動脈で生じると心筋梗塞、末梢動脈で生じると四肢壊死、深部静脈で生じると深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症へとつながるそうです。抗血栓薬の使用目的と関連疾患について、動脈血栓は白色血栓(血小板血栓)で虚血性心疾患、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞などの疾患で起こり、治療薬はアスピリンなどの抗血小板薬であり、静脈血栓は赤色血栓(フィブリン血栓)で静脈血栓塞栓症、心房細動に伴う心原性脳塞栓、全身性塞栓症などの疾患で起こり、治療薬はワーファリンなどの抗凝固薬であるということです。わが国で使用可能な抗凝固剤はワーファリンの他にDOACと呼ばれる薬剤であるそうです。DOACはワーファリンよりそれぞれ半減期が短いという特徴もあるようです。山田典一先生によりますと日本循環器学会作成の循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドラインにおいて、抗血栓療法の適応は脳梗塞のうちアテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞などの非心原性脳梗塞の場合にはアスピリンなどの抗血小板療法が選択され、心房細動、左室血栓、急性心筋梗塞、人工弁置換などの心原性脳梗塞症はワーファリンやDOACなどの抗凝固療法、急性肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症などの静脈血栓塞栓症の場合はDOACなどの抗凝固療法が選択されるそうです。循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドラインや心房細動治療(薬物)ガイドラインにおいて至適治療域にPT-INRをコントロールしたうえでのワーファリン内服継続下での抜歯、白内障手術や抗血小板薬の内服継続下での抜歯、白内障手術はクラスⅡaで推奨されるということでした。消化管内視鏡や手術の場合でも出血軽危険度の場合は抗凝固薬や抗血小板薬も継続して行うが、出血高危険度の場合は休薬や代替薬の考慮が必要であるということでした。ワーファリン療法の代替として未分化ヘパリンを投与する方法をヘパリン橋渡し療法(ヘパリンブリッジ)というそうです。 科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドラインでは、ワーファリン服用患者で、原疾患が安定しINRが治療域にコントロールされている患者では、ワーファリンを継続投与のまま抜歯を行っても重篤は出血性合併症は起こらないことが推奨されており、逆にワーファリンを抜歯時中断した場合、約1%の患者において重篤な血栓・塞栓症が発症し、しばしば死の転帰をとる、と述べられているそうです。 出血リスクからみた手術・手技の分類では、抗凝固薬の中止が必要ではない手術・手技として、歯科治療では1~3本の抜歯、歯周外科治療、膿瘍切開、インプラント・ポジショニングなど、眼科治療として白内障、緑内障治療、手術を伴わない内視鏡、体表面の手術(腫瘍切開、皮膚の小切除など)が挙げられるそうです。出血高リスクの手術・手技としては、左側の複雑なアプレーション(肺静脈隔離術、心室頻脈)、脊髄麻酔、硬膜外麻酔、腰椎穿刺(診断目的)、胸部手術、腹部手術、整形外科の大手術、肝生検、経尿道的前立腺切除術、腎生検などが挙げられるそうです。出血高危険度の場合にワーファリン単独投与の場合にはINR治療域であるかヘパリンブリッジまたは一時的DOAC変更が考慮され、DOAC単独投与の場合には当日休薬またはヘパリンブリッジが考慮されるということでした。DOACの場合には、ピーク期を避けることも重要であるということでした。 山田典一先生はインフォームド・コンセントの重要性を指摘しておられました。抗血栓薬休薬に伴う血栓症発症のリスクと抗血栓薬継続投与に伴う出血のリスクについて患者と家族に十分なインフォームド・コンセントを行うことが重要で、抗血栓薬休薬していても出血が起こる可能性がことや抗血栓薬継続していても血栓や梗塞が起こる可能性があることも説明が必要であるということでした。 山田典一先生は抗血栓薬の観血的処置(手術)時の安易な中止は重篤な血栓症発症につながりかねず厳に慎むべきであり、観血的処置や手術時の抗血栓薬の取り扱いは、抗血栓薬を投与する医師と処置(手術)を行う医師とが情報を共有し個々の症例について中止に伴う血栓症発症リスクと出血リスクを十分に考慮して慎重に決定するべきであると述べられました。抗血栓薬中止に伴う血栓症は機能的予後不良であることから休薬しないことを基本とし、出血の高リスク群ではヘパリンブリッジを行い対処すると山田典一先生は述べられました。 山田典一先生の懇切丁寧な説明に、会場におられました歯科医師会、医師会両方の先生方が観血的処置時の抗血栓薬への対応に理解を深められた様子でした。この様な合同研修会は歯科・医科の相互理解を深め、共通認識を持ち、情報を共有するために有意義であると思われました。 |
本日、名古屋で第10回日本足の外科学会教育研修会が開催され、参加いたしました。日本足の外科学会教育研修会委員長は早稲田大学スポーツ科学学術院の熊井司先生です。 朝から夕方まで密度の濃い講義ばかりで、知識の整理にもなり、大変勉強になりました。講師の先生方、本当にありがとうございました。今日得た知識を今後の診療に活かしていきたいと思っています。 本日は、クリニックの診療をお休みさせていただきました。ひょっとしたら休診であることをご存じでなく、来院された方もおられるのかもしれません。申し訳ございません。ご迷惑をおかけいたしました。 |
昨日、病診連携懇話会が開催され出席いたしました。病診連携懇話会は名張市立病院と名賀医師会と合同で開催されます。 名張市立病院からは伊藤院長をはじめ、ベテランの先生方から研修医の先生方、さらにはポリクリ実習中の三重大学生さんも複数名参加しておられ、とても活気あふれる様子でした。 名張市立病院の先生方、本当にありがとうございました。 |
先日、伊賀地区学校保健研修会が開催されました。講演(1)は「難聴の子どもへの理解と支援」で講師は国立病院機構三重病院耳鼻咽喉科医長増田佐和子先生でした。増田佐和子先生は日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本アレルギー学会認定専門医・指導医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、臨床専門医などの資格をお持ちです 増田佐和子先生によりますと、聞こえにくいことは周りの人からは目に見えにくい、気づかれにくいことであるということです。聞こえの程度や種類、生活環境によって困り方が違うので、他の人にはわかりにくいからということでした。また聞こえにくいことによりコミュニケーションに支障をきたすために、人との距離を大きくしてしまうそうです。聞こえにくいことは、いつ、誰に起こるかわからないことで、想像しているよりも数が多いそうです。身体障害者手帳を持っている高度以上の難聴者だけでも36万人以上で、生まれつき聞こえにくい子どもは1000人に1~2人であり、とても身近であるということでした。 増田佐和子先生によりますと、聞こえの仕組みは音を増幅して伝える伝音機構と音を感じ取り脳へ伝える感音機能からなり、それぞれの障害による難聴を伝音難聴、感音難聴と言うそうです。難聴の程度は、一対一の会話はほとんど問題ないが、小声や早口が聴き取りにくい軽度難聴(30~40dB)、会話の音はある程度聞こえるが、言葉として聴き取れない中等度難聴(40~70dB)、会話音がほとんど聞こえない高度難聴(70~90dB)、まわりの音(環境音)もほとんど聞こえない重度難聴(90 dB~)まで分類されるそうです。両耳70dB以上で身体障害者手帳の対象となるそうです。 子どもの難聴の頻度は、赤ちゃんが1000人生まれたら、その中の1人か2人は難聴児であるということから、三重県でも年間17~30人くらいの難聴の赤ちゃんが生まれており、さらに何らかの原因で後から難聴になる子どももいるということです。4歳くらいの子どもでは難聴の原因は約半数が遺伝性で、遺伝性以外では先天性風疹症候群、低出生体重児、重症黄疸、髄膜炎、先天性サイトメガロウイルス感染症、先天性トキソプラズマ症などが挙げられるということです。なぜ子どもの難聴に早期支援が必要かというと、乳幼児期に難聴があると、音声言語の入力が制限されて言葉の遅れが生じるからで、難聴がある子どもでも適切な時期に適切な方法で教育がなされれば言葉を獲得でき、難聴児への早期からの医療や教育が可能になっているからだそうです。脳でのネットワーク形成には早期刺激が不可欠だそうで、1歳以降使われなかったシナプスの「刈り込み」が生じるそうで、聴覚野も早い時期に刺激が入らないと衰退してしまうそうです。言葉を身につけるには中枢、入力、エネルギー、環境、出力などの全てが適切な時期に繰り返し継続して存在することが必要であるそうです。増田佐和子先生によりますと「適切な時期」とは脳が言葉の音の響きを聞き分け始める生後6ヶ月頃から8歳くらいまでではということでした。8~9歳以上から始める外国語学習と同じように、生まれつきの高度難聴の子どもが言葉の刺激を受けられないと同じことが起こるということでした。子どもの難聴の発見・診断プロセスは、従来は聞こえにくそうとか言葉が遅いということを誰かが疑い、検診・保健所・医療機関に連絡、耳鼻咽喉科で診断、療育指導というプロセスでしたが発見の遅れが見られることから、新生児聴覚スクリーニング(1-3-6ルール)として生後1ヶ月までに聴覚スクリーニング、生後3ヶ月までに精密検査・診断、生後6ヶ月までに療育指導開始というように変わったということでした。スクリーニングからの精密検査結果では4人に1人が両側難聴、4人に1人が一側難聴、半数は両側正常であったそうです。しかしながら3歳児検診を過ぎて発見される子どもも散見され、さまざまな機関の関わりが不可欠であるということでした。 難聴の子どもへの支援は情報保証、聴覚補償、関係性の保証などに分類されるそうです。聴覚補償機器として補聴器と人工内耳があるそうです。それぞれに利点、欠点もあるそうですが、周囲の理解として大事なのは機器をつければ全部聞こえるということではなく、機器をつければ聞こえにくさが軽くなる程度であるということを理解してあげる必要性があるということでした。難聴児にとって聞き分けやすい場面と聞き分けにくい場面があり、静かな場所で1対1の会話で日常的な内容であれば会話が理解できるが少し離れただけで聞こえなくなったり、口の動きが見えないと理解しにくかったり、初めて聞く言葉は理解しにくかったり、相手が複数であったり、騒音が大きかったり、不安になったりすると聞こえにくくなるということでした。増田佐和子先生は40dB感音難聴の聞こえ方疑似体験の音声を聞かせて下さいましたが、とても聴き取りにくくて一生懸命集中して聞いていると確かに疲れてしまいます。集中力が切れて聞いていられないということもよく理解できました。大人から見て聞こえている、わかっていると見えても、聞き違えているかもしれないし、わからなくて困っているかもしれないということでした。軽度難聴があり会話音の一部が聞こえない子どもに周りの人が気づかないために、子どもが小さな躓きをしやすくなり、不安になり意欲が低下し、消極的になるという悪循環に陥りがちであるということでした。逆に周りの人が理解して支援することにより、小さな成功体験をしやすくなり、子どもは満足し意欲がわき、積極的になるという好循環なるということです。配慮すべきこととして、まず話し方の工夫では、少し大きめの声で、少しゆっくり、はっきり話す、口元を見せ表情豊かに話す、区切るときは分節で流れを考えて区切るなどの工夫が重要であるそうです。その他の配慮すべきこととして、教室内での座席の位置、授業の工夫、学級会などでの配慮、校内放送の聴き取り、英語の聞き取りなどで必要な配慮を説明して下さいました。教育の場での聴覚補償で、集団の中での聞き取りをどうやって確保するかですが、デジタルワイヤレス補聴支援システムというのもあるそうです。 増田佐和子先生によりますと、聞こえにくさがわかりにくい難聴もあるそうで、聞こえにくさも一人一人様々であるということです。高い周波数の音が聞こえない場合、低い周波数の音が聞こえない場合、軽度感音難聴の場合、片耳が聞こえない場合などです。聞こえているように見えても聞こえにくい難聴のある子どもたちへの理解と支援が必要であるということでした。 後天性の難聴の原因として急性中耳炎、滲出性中耳炎、ムンプス難聴(おたふくかぜによる難聴)などがあるそうです。ムンプス難聴は流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)ウイルスが原因で、感染100人~500人に1人程度、80~90%が一側性、10~20%は両側性であるそうです。増田佐和子先生によりますと流行は繰り返されているそうで、難聴は治らないので一番の対策はワクチンによる予防であるそうです。ワクチンによる抗体陽転率は90~95%で任意接種であるために接種率は20~30%程度であるということでした。 増田佐和子先生によりますと先天性難聴の原因である先天性サイトメガロウイルス感染症や先天性トキソプラズマ症などは妊娠中の母子感染であるそうです。先天性トキソプラズマ症&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」という会があるそうです。サイトメガロウイルスは世界中のいたるところにあるありふれたウイルスであるそうです。子どもも大人も健康であれば感染しても全く問題ないが、妊婦が初めて感染した場合や妊婦の免疫力がひどく低下した時は胎児への感染が危ぶまれるそうです。感染しても症状が出ない場合もある一方、出生時に問題なくても成長するにつれて症状が出る場合があり、特に問題なものは進行性の難聴であるということでした。妊婦が上の子どもの食べ残しの整理など食べ物を共有して感染することも多いらしく、要注意ですね。トキソプラズマは家畜の肉や感染したばかりのネコの糞や土の中にいるありきたりの原虫であるということです。感染しても健康な人には全く問題ないが、妊婦が初めて感染した場合には胎児に感染が及ぶことがあるので注意を要するということでした。感染しても何も症状が出ないこともあり、出生時に問題なくても成長するにつれて症状が出る場合もあるということでした。特に問題なものは網脈絡膜炎による視力障害であるそうです。これらは防ぐことの可能な感染症なので、妊婦へのさらなる啓発が大事ですね! 今回の講演は私の知らないことばかりで、大変勉強になりました。難聴の子どもたちの治療に真摯に取り組んでおられる、増田佐和子先生の姿勢に感心いたしました。 |