先日、予防接種講習会が名賀医師会で開催されました。講演は「予防接種の最近の話題」で講師は国立病院機構三重病院副院長小児科菅秀先生でした。今回も昨年に続きまして菅秀先生が予防接種の最近の話題についてわかりやすく解説して下さいました。ちなみに当院ではインフルエンザワクチン接種と肺炎球菌ワクチン接種のみ施行しております。 菅秀先生は今シーズンのインフルエンザワクチン、百日咳ワクチン、水痘ワクチンについて講義して下さいました。百日咳ワクチンと水痘ワクチンは共に日本で開発されたワクチンで、海外でも高く評価されているそうです。 今シーズンのインフルエンザワクチンのワクチン効果がカナダから報告されたそうです。2017年11月5日から2018年1月20日までのデータだそうですが、A型、B型ともにあまり高くない効果率でした。日本とカナダでは流行したインフルエンザA型は異なる型であったそうですが、少し残念な結果であったようです。 百日咳は百日咳菌の感染による急性呼吸器感染症で、けいれん性の咳発作(痙咳発作)が特徴であるそうです。菅秀先生によりますと世界の患者数は2000~4000万人/年で死亡者数は20~40万人ということでした。日本における百日咳ワクチンの歴史は1950年に全菌体型百日咳ワクチンの定期接種が導入されたことにより、患者数および死亡者数は激減したそうです。しかしながら副作用の問題が起こり、死亡例も報告されたということで、ワクチン接種は一時中止となり再開後も摂取率は10%以下に低迷したそうです。ワクチン接種率の低下により、再度患者数、死者数が約50倍以上に増加してしまったそうです。そこで、より副作用の少ない無細胞ワクチンが開発されました。無細胞百日咳ワクチンの接種により再度患者数および死亡者数は減少したそうです。菅秀先生によりますと、世界的に見ますと日本、アメリカ、ヨーロッパ各国で百日咳は思春期・成人の間で流行しているそうです。成人から小児に感染することが多いそうです。イギリスでの調査では5~16歳時の慢性咳の原因の37%は百日咳であったそうです。ワクチン接種率が低下すると小児にも流行するという報告が各国でなされているそうです。菅秀先生によりますと日本初の無細胞百日咳ワクチンは安全で有効なワクチンとして世界で接種されているそうです。しかしながら免疫持続期間が数年と短いことにより、思春期から成人患者の増加が認められ、乳児の感染源となっているそうです。海外ではワクチンの追加接種、妊婦への接種が奨められており、効果が認められているそうです。菅秀先生によりますと日本でも百日咳ワクチンの接種時期、接種対象について早急に検討を進める必要があるということでした。 水痘(みずぼうそう)は水痘帯状疱疹ウイルスにより空気感染を起こす疾患で、潜伏期間が10~21日、発熱、全身倦怠感、発疹などの症状で、発疹は頭皮、体幹、四肢に出現するそうです。合併症は細菌の二次感染、肺炎、脳炎などで、妊婦が罹患すると重症化しやすく胎児の先天性水痘症候群の危険性があるということです。水痘帯状疱疹ウイルスは治癒後知覚神経の神経節に潜在し、将来帯状疱疹を発症することがあるそうです。治療薬はカチリ外用とアシクロビルだそうです。予防薬は水痘ワクチンということでした。帯状疱疹の発症メカニズムは水痘帯状疱疹ウイルスの感染によって水痘を発症し、その後にみずぼうそうが治っても体の神経節に水痘帯状疱疹ウイルスが隠れており、将来に加齢、ストレス、疲労などにより水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫力が低下すると潜伏していたウイルスが再活性化し帯状疱疹発症となるそうです。菅秀先生によりますと水痘ワクチンも日本発であり、安全で有効なワクチンとして世界で接種されているそうです。ワクチン接種後水痘の増加、未接種年長児の水痘の増加に注意が必要であるということでした。帯状疱疹予防薬ワクチンとしても、水痘ワクチンは有効であるそうです。菅秀先生によりますと、日本でも帯状疱疹ワクチン接種に関して、接種年齢、接種適応者などの議論を進める必要があるということでした。 菅秀先生はワクチン接種をなぜするのか?と言うと、法律や制度で決められているからするのではなく、子どもたちから大人まで感染症から守るために行うのであると述べられました。このコンセンサスが一般の方々にも広く浸透していくことを期待しています。 |
本日、久々にICLSに参加させていただきました。十数年ぶりの参加なので受講者として教わるくらいで丁度なのですが、一度参加したことがあるということでタスクとして見学させていただきました。インストラクターの方々が受講者を指導するところを、よく見させていただきました。 最初は戸惑っておられた受講者の方々も、最後には自信を持ってチームワークを発揮しておられ、さすがだと思いました。 大変勉強になりました。 |
先日開催された第31回奈良県スポーツ医・科学研究会 奈良トレーニングセミナー2018の特別講演Ⅱは「なんのために勝つのか?ラグビーワールドカップの経験を経て~医療におけるチームプレー~」で演者はラグビーワールドカップ2019アンバサダー、元日本代表主将廣瀬俊朗先生でした。廣瀬俊朗先生はラグビーワールドカップ2015イングランド大会で活躍した日本代表チームのヘッドコーチであったエディー・ジョーンズ氏の下、初めの2年間日本代表チーム主将を務められ、その後は日本代表チームの一員としてスタメン出場の機会は減少したものの、主力メンバーのサポートなどを続けて、ラグビーワールドカップ2015イングランド大会でもチームを支え続けて南アフリカ戦の歴史的勝利などに大きな貢献をした選手で、日本代表チームが大活躍した立役者の一人です。 廣瀬俊朗先生はラグビーワールドカップ2015イングランド大会で歴史的勝利を収めた日本代表と南アフリカ代表との試合に触れ、体格で劣る日本選手は諸外国チームに経験とスピードでは勝てない、スマート、タフ、メンタルの充実で勝つ、”First to Act”というスローガンでワールドカップを戦ったということでした。日本代表チームはラストワンプレーで劇的な逆転勝利を成し遂げたのですが、廣瀬俊朗先生は「なぜ勝てたか?」と問い、その答えは「準備」であるということでした。 日本代表チームのヘッドコーチを務めた名将の誉れ高いエディー・ジョーンズ氏ですが、ヘッドコーチとしてのワールドカップでの実績は2003年にオーストラリア代表ヘッドコーチの時に決勝で敗れた1試合と日本代表チームが2015年にスコットランド代表に敗れた1試合しか敗北しておらず、驚異的な勝率を誇っているそうです。広瀬俊朗先生から見るエディー・ジョーンズ氏の特徴は圧倒的な実績、大義がありぶれない、一番のハードワーカー、勉強家、オリジナルのスタイルを追求する、観察力、嫌われてもいい覚悟、不器用などの特徴が見受けられるそうです。エディー・ジョーンズ氏が掲げた日本独自のスタイル”Japan Way”とは廣瀬俊朗先生によりますと、①規律を守る、②個人よりチームで戦う、③従順である、④侍アイ、⑤忍者ボディ、⑥世界一のフィットネス、⑦連動したアタック、などであるそうです。 廣瀬俊朗先生は日本代表チームキャプテンになったとき、皆に日本代表に選ばれることにもっと喜びを持ってもらいたいと思ったそうです。そこでチームを好きになってもらうために個人としてやってきたこと、チームとしてやってきたことなどをつまびらかにして下さいました。 廣瀬俊朗先生は「守破離」という言葉を紹介してくださいました。「守破離」とは日本での茶道、武道、芸術、スポーツなどにおける師弟関係のあり方の一つで、修行の理想的なプロセスを3段階で示したものであるそうです。「守」は教えや型を忠実に守り身につける段階、「破」は自分なりのやり方を模索する段階、「離」は新しいものを生み出す段階であるそうです。ラグビーワールドカップ2015イングランド大会での日本代表チームと南アフリカ代表との試合で、3点ビハインド後半残り時間わずかのところで得たペナルティーキックをエディー・ジョーンズヘッドコーチはペナルティーゴールを狙うことをインカムで指示したそうです。しかしながら選手たちはその指示に従わずトライを狙って攻め続けて逆転トライをもぎ取り、劇的な逆転勝利を収めました。選手たちがヘッドコーチの指示に従わなかったことに、エディー・ジョーンズヘッドコーチは激怒していたそうです。廣瀬俊朗先生によりますと、まさにこの時が日本代表チームにとって「離」という段階に至ったということでした。 講演中に、ラグビーワールドカップ2015イングランド大会での日本代表チームと南アフリカ代表との試合前に両チーム選手がピッチ上に整列している写真を見せて下さいました。その写真は廣瀬俊朗先生自身がスタンドから撮った写真であるそうです。ピッチ上に立つことを目標に努力を続けてきた廣瀬俊朗先生にとって、大変悔しい胸の内であったのではと推察されました。しかしながら廣瀬俊朗先生は、その時の心境をこう話します。「それまでで最も澄み切った心境でした。」その理由は「大義」によるものであったそうです。廣瀬俊朗先生によると「大義」とは「日本のラグビーファンを幸せにできる喜び」と「日本ラグビーの新しい歴史を築いていく楽しさ」そして「憧れの存在になること」であったそうです。その日本代表の「大義」のために廣瀬俊朗先生は代表チームキャプテンからメンバーのサポートへと役割が変わってもぶれることがなかったようです。澄み切った心境は廣瀬俊朗先生の「全てをやりきった感」を反映していたのでしょう。 講演後の質疑応答では広瀬俊朗先生は大学生たちからの質問に一つ一つ丁寧で親切にわかりやすく答えておられ、その真摯な姿勢に感心いたしました。講演を拝聴して、廣瀬俊朗先生の強い日本代表チーム愛を感じました。そしてラグビーワールドカップ2015イングランド大会において、日本代表チームに最も必要な一員として廣瀬俊朗選手が日本代表チームに留まられたことが日本代表チームの好結果に繋がったことは間違いないと思われました。一日本代表チームファンとして、廣瀬俊朗先生に対する感謝の念に堪えません。 |
先日、第31回奈良県スポーツ医・科学研究会 奈良トレーニングセミナー2018が開催されました。特別講演Ⅰは「スポーツ現場における傷害対応・コンディショニングについて~ラグビー選手を中心として~」で演者は奈良県立医科大学保健体育教室准教授石指宏通先生と奈良県立医科大学整形外科学教室講師宗本充先生でした。 石指宏通先生は大学ラグビー選手の身体組成を調査され、CTなどを用いた調査などにより内臓脂肪、皮下脂肪量などの結果を報告されました。石指宏通先生によりますと過食、過飲、夜遅い夕食、朝食欠食、不規則な食事、早食い、運動不足、ストレスの感受などが内臓脂肪型肥満などのリスクファクターであるということです。運動選手が身体を大きくするために栄養過多に過ぎることが、栄養不足に陥ることと同様に危険であることに警鐘を鳴らす重要な指摘であると思われました。競技によっては選手がジュニア時代から過大な栄養摂取を推奨されることもあると聞きます。内臓などへの悪影響も考えますと、年齢と運動量に応じた適切な栄養摂取が重要だと思われました。 宗本充先生はラグビー日本代表帯同ドクターなどの経験から日本ラグビー協会の安全への取り組みなどについて紹介してくださいました。ラグビー憲章でも医療の立場から選手を守る”Player Welfare”(選手の福祉・健康)が掲げられているそうです。ある調査によりますと部活動などにおいて死亡事故が起こるのは中学生では柔道が最も多いそうで、高校生では柔道に次いでラグビーが多いそうです。日本ラグビー協会では安全推進講習会などを行うことにより重症傷害件数の推移は2011年から2017年にかけて着実に減少しているそうです。ワールドラグビーの推進しているHead Injury Assessment (HIA)の導入により、脳振盪受傷後の試合復帰率は2011年のワールドカップ大会では56%であったのが2015年のワールドカップ大会では4%に減少したそうです。日本でも安全対策の取り組みは、かなりの比重が脳振盪におかれているそうです。宗本充先生は脳振盪がなぜ問題となるのかとして3つの点を指摘されました。1つめは脳出血などの重度頭部外傷と判別が困難な場合があること、2つめはセカンドインパクト症候群、脳振盪後症候群などの問題、3つめは慢性脳損傷、いわゆるパンチドランカーなどの問題を挙げられました。宗本充先生によりますと日本の選手の方がチームのためにという理由で脳振盪を起こしても無理をして出場しようとする傾向があるそうで、ラグビー先進国の多くの選手は自分の身体をまず第一に考える傾向があるので無理を押してまで出場しようとはせずに脳振盪であれば受傷後に4週間はきっちり休む場合が多いそうです。アメリカンフットボール選手における調査において、脳振盪の発生率と死亡率は相関関係があったという報告があるそうです。学生ラグビー選手における調査では脳振盪の既往がある選手は、入部後も脳振盪を起こすことが多いという結果であったそうです。ラグビーワールドカップ日本大会2019に向けて、ますます脳振盪の問題も含めたPlayer Welfareが求められると思われます。 宗本充先生は最後に英国留学時に訪れた「ラグビーの聖地」と称される8万2千人収容の英国ロンドンのトゥイッケナム競技場内医務室の写真を紹介してくださいました。ベッド2台と多くの医療機器が装備されており日本の病院ではICUのベッドかと見紛うばかりの様子でした。また競技場の駐車場には救急車が配備されている様子でした。来年にはラグビーワールドカップ2019日本大会が開催される予定ですが、日本の競技場で英国と同様の環境を求められてもなかなか難しいことがあるのかもしれませんね。しかしながら関係者の方々のご尽力で、環境整備も着実に前進している様子だと思われました。 |