本日、天理親里競技場におきまして「2018 ラグビー スプリングカーニバル IN 奈良 天理大学vs明治大学」が行われました。グラウンドドクターとして参加いたしました。 素晴らしい天気でしたが、かなり暑くて初夏の様な炎天下での試合となりました。天理親里競技場の芝生のコンディションも非常によく、観客席にも多くの方が観戦に訪れ熱心に声援を送っており、大変盛り上がっておりました。 関西と関東の大学強豪校同士の対決で、奈良県でこの様なハイレベルな試合が観戦できるのはうれしい限りですね。 試合はポスターに書いている「闘志たぎらせ力の限り」という言葉通りで両チームとも真っ向勝負を挑み、大変見応えのある好ゲームであったと思いました。試合は体格に劣る天理大学が接戦を制しましたが、両チームの健闘に拍手を送りたいと思います。 |
先日、名賀医師会臨床懇話会が開催されました。演題は「血液疾患を見落とさないために」で講師は三重県名張市桔梗が丘の信岡医院院長信岡亮先生でした。 信岡亮先生は琉球大学を卒業後、大阪大学血液腫瘍内科に入局され、箕面市立病院内科、市立吹田市民病院内科などを歴任され、平成28年から現職であるということでした。 信岡亮先生によりますと日本では超高齢社会となってきているために、高齢化が進み血液疾患も増えてきているということです。また医学の進歩により治療法もどんどん変わってきているということでした。しかしながら血液内科専門医は多くなく、しかも都市部に偏在しているので、地方には血液内科専門医がとても少ないのが現状であるようです。信岡亮先生が勤めておられた市立吹田市民病院には血液内科医が7名もいらっしゃったそうです。いかに人口が違うとはいえ、都市部と名張、伊賀地区とは血液疾患の診療状況が全く異なるようですね。 信岡亮先生によりますと血液疾患を見落とさないためには、全身倦怠感、貧血症、微熱などの症状に注意する必要があるということですが、信岡亮先生は次の6つの症状について注意点を解説して下さいました。6つの症状は①貧血、②発熱、③出血傾向、④リンパ節腫大、⑤脾腫、⑥繰り返す骨折、多発する骨折、腰痛です。 貧血は多くの血液疾患で認めるということです。一般にヘモグロビン8~9g/dl程度で顔色不良、動悸、息切れなどの症状を認めるそうですが、信岡亮先生によりますと実際は急激にヘモグロビン低下すれば早期に症状が発現し、ゆっくりと低下すれば貧血症状は出現しないということでした。信岡亮先生によりますと走ると息切れを主訴に受診された女性のヘモグロビン値が約2であり、驚いたがヘモグロビンが徐々に低下したために症状が軽微であったのであろうということでした。 発熱、微熱も要注意ということです。信岡亮先生によりますと「カゼ」は曲者だということでした。感冒症状であっても1週間以上症状が継続すれば血液検査を施行し血球数、分画などを検査すべきであるということでした。 出血傾向に関しては、皮下出血、粘膜出血(鼻腔、消化管、性器)、口腔内出血などに注意すべきであるということでした。咀嚼による物理的粘膜損傷で口腔内出血を起こすことが多く、信岡亮先生によりますと口腔内観察が重要であるということでした。基礎疾患のある患者で出血傾向を認める場合、DIC(播種性血管内凝固症候群)に気をつける必要があるということでした。また私は馴染みが無く知りませんでしたが、急性骨髄性白血病(AML)のM3というタイプでは初発からDIC症状が出ることがあるということでした。 リンパ節腫大は感染性と腫瘍性に分けられて、疼痛があると感染性、疼痛がないと腫瘍性の場合が多いそうです。リンパ節は全身広範に存在しますが、まず耳下腺リンパ節、顎下リンパ節、腋窩リンパ節から触診するのがよいということでした。リンパ節の径1cm以上では生検の適応であるということですが、1cm未満の場合は生検困難であり経過観察とするということでした。 脾腫といえば肝硬変、門脈圧亢進症が想起されますが、季肋下8cm以上の巨大脾腫であると造血性腫瘍である場合も考えないといけない、ということでした。 繰り返す骨折、多発する骨折、持続する腰痛の場合は、多発性骨髄腫を念頭に血液検査を施行し、血中総蛋白測定などを行い、総蛋白上昇などを認める場合は多発性骨髄腫の可能性もあるということでした。ベンスジョーンズ型多発性骨髄腫の場合には尿蛋白は増加するものの血液中蛋白上昇は伴わないので注意を要するということでした。 信岡亮先生は血液検査について注意すべき点などについても解説して下さいました。まず、第一に過去の結果と比較することが重要で、血球数に関しては正常値を過信してはいけないということでした。白血球が増加、または減少している場合には①過去の結果と比較する、②現在の症状、既往歴、投与されている薬剤の確認、の手順が大事であるということでした。 好中球の場合、好中球増加症(7000/μl以上)は反応性として過剰な運動、低酸素、ストレス、ステロイド、感染などが考えられるそうです。腫瘍性として慢性骨髄性白血病(CML)などが考えられるそうです。好中球減少症(1500~2000/μl以下)の場合は感染性、薬剤性、腫瘍性などが考えられるそうです。 リンパ球の場合は、リンパ球増加症(4000/μl以上)では感染性として伝染性単核球症、百日咳、水痘、粟粒結核などが考えられるそうです。腫瘍性の場合は慢性リンパ性白血病(CLL)、リンパ腫の白血病化などが考えられるそうです。リンパ球減少症(1000/μl未満)は急性感染症などが考えられるそうです。 末梢血に芽球が出現することは極めてまれであり、末梢血に芽球を認めれば白血球の状況にかかわらず専門医に紹介する必要があるということでした。 血液疾患は内科以外の科ではもちろんのこと、一般内科専門医の先生でも、どちらかというと馴染みの少ない分野であるのかもしれません。信岡亮先生は専門外の私にもわかりやすく、丁寧に解説して下さいました。ありがとうございました。 |
子どもに大人気の絵本作家、ヨシタケシンスケ氏の「あるかしら書店」を読みました。本にまつわる本が売っているという「あるかしら書店」はお客さんの様々な要望に全て答えるという、夢のような書店です。「あるかしら書店」の店長さんはお客さんが「こんな本、あるかしら?」とどんなリクエストをしても、「ありますよ!これなんかどうかしら」と本を出してきてくれます。でも最後のお客さんのリクエストだけは、期待に応えることが困難であったようです。 クスッと笑えることから、「そんなアホな!」とツッコミを入れたくなるようなことまで、想像豊かなネタ満載です。大人が読んでも十分面白いと思いました。 何より、本屋さんの楽しさを思い起こさせてもらいました。最近は本もネットで購入する機会が増えてしまったのですが、また書店に行って新しい本との出会いを楽しんでみたいという気になりました。 |
元ラグビー日本代表主将廣瀬俊朗氏著の「なんのために勝つのか。ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論」を読みました。先日、第31回奈良県スポーツ医・科学研究会 奈良トレーニングセミナー2018で講演をして下さった廣瀬俊朗先生です。 本書の内容はご講演でも紹介してくださいましたが、実際に本書を読んでみますと廣瀬俊朗氏の歩んでこられた道のりがより詳細に分かります。吹田ラグビースクール、地元の公立中学、北野高校、高校日本代表チーム、慶応大学、東芝、日本代表チームと所属したチームのほぼ全てで主将を務められたということは、それだけ廣瀬俊朗氏が実力と才能があるうえに、周囲からも認められる存在であったのだと思われます。廣瀬俊朗氏が類い希なキャプテンシーの持ち主であることは間違いないと思いました。それでも先輩である何人かの主将を務められた選手を色々と参考にするなど大変研究熱心で、またチームを強くするためにメンバーのことを考えて微に入り細に入り心を砕いて努力を怠らないところなど、スポーツチームの主将という枠に留まらず、どのような組織においても参考になるリーダーシップのあり方を示しておられると思いました。 廣瀬俊朗氏は「大義、覚悟、ビジョン、ハードワーク この四つがチームづくりの土台となる。」と述べられました。そして「なんのために勝つのか。」の答えは大義を実現するためであると述べられました。ラグビー日本代表では「日本のラグビーファンを幸せにできる喜び」「新しい歴史を築いていく楽しさ」「憧れの存在になること」を大義に掲げていたということです。ワールドカップという大舞台で勝つことで、その大義を成し遂げることができたということです。そしてこれらは2019年ワールドカップ日本大会、さらにその先に続く日本ラグビーの未来をよりよいものへとしていくことにつながっているということです。 この大義の実現のために、自らの悔しさを封印して日本代表チームへの最大の献身を貫いた廣瀬俊朗氏は真のリーダーシップの持ち主であると思いました。 |
先日、平成29年度名張市個別乳幼児特別支援事業、発達支援研修会が開催されました。演題は「育てにくさを感じる親に寄り添う支援」で講師は森之宮病院小児神経科小倉加恵子先生でした。 「健やか親子21」とは母子の健康水準を向上させるための国民健康運動だそうです。児童虐待に関する相談件数はこの25年間で100倍になっているそうです。「健やか親子21」(第1次)で改善しなかった指標から心の問題が課題として残ったということでした。これらを踏まえて「健やか親子21」(第2次)の重点課題は「育てにくさ」を感じる親に寄り添う支援と妊娠期からの児童虐待防止対策であるそうです。「育てにくさ」とは子育てに関わる者が感じる育児上の困難感で「育てにくさ」の概念は広く、一部には発達障害などの障害や疾病が原因となるということでした。1次予防としてハイリスク家庭の把握と援助、健全育成の確認、2次予防として早期発見、3次予防として再発防止と繋がるそうです。 日本における新生児・乳児死亡率の減少は近年著しく、1947年に乳児死亡率76.7から2014年には2.1に(出生1000人あたり)、新生児死亡率は1947年に31.4から2014年には0.9に減少したそうです。このことより子育ての悩みは「育ちにくい」から「育てにくい」に変わってきたようです。近年の日本における社会的変化は家族形態の変化(ひとり親、一人っ子増加)、家庭内問題の顕在化(子ども虐待、DV)、労働や生活スタイルの変化(女性の社会進出、ワークライフバランス)、経済格差(子どもの貧困)、人との繋がりの変化(インターネットの普及、孤独死、孤独な子育て)などがあるそうです。 昔は成人になるまでに子守など子どもと触れ合う経験をしたのが、今は経験としての自然な育児体験がなく育児書やネットで知識としての育児を知り、経験が乏しいままで自分の子どもと遭遇するというように、近年の日本における社会的変化により、リスクがなくても育てにくくなっているようです。小倉加恵子先生によりますと子育ての楽しさを感じられない理由に「育てにくさ」があり、診断名がつくこともあるが、つかない子どももたくさんいて、親にとってその重みは同じなので、寄り添う支援が必要になるということでした。 Bowerによると乳児期はパーソナリティと呼ばれる対人間関係技能の発達にとって人生の中で最も重要な時期であり、幸せな赤ん坊は、多分幸せな大人になるのである、と述べているそうです。またBowlbyは母への愛着そのものが乳児の根源的欲求であり、この母性的愛情の喪失はその後の人格形成に重大な影響があると述べています。遺伝と環境の相互作用により脳は発達し、表現される形質も変化していくということでした。児童精神科医であるエリクソンが述べた成長段階での発達課題では乳児期(0~2歳)での信頼感の獲得という発達課題が最も重要であるということでした。基本的信頼感は乳児期に育まれるということで、母親との一体感でアタッチメントを形成し、内的母親像の確立が心の土台となるようです。アタッチメント形成は子の愛着行動と親の養育行動から始まるそうです。産前・産後のホルモン動態の変化は、妊娠中プロゲステロン、エストロゲンの増加により子宮の胚着床準備、胎盤の成長、出産前後のオキシトシンの増加により射乳、養育行動、愛着、子どもを守るなどの作用、出産後のプロラクチン増加により母乳産生などの作用があるそうです。これは全く知りませんでしたが、男性も父親になると男性ホルモン量が減るそうで、テストステロンの減少により子どもへの共感が増す、養育行動が促進するなどの作用があるそうで、テストステロンが上昇すると新生児の泣き声に同情感が少ない、養育行動が少ない、子どもの写真を見たときの脳の表情認知領域や共感に関わる領域の活動が低くなるなどの作用があるそうです。小倉加恵子先生によりますと子育てに関連する脳領域があるそうで、ウィニコットが提唱した「母親の原初的没頭」という概念では、新生児が生まれる前から出生後の数週間にわたる母親の母性的な心的状態で乳児に心をとらわれた状態になるということでした。これは生後3ヶ月頃がピークであるということですが、母親の73%が「この子が私の赤ちゃんだなんて信じられない。あまりに完璧過ぎる。」と思うそうです。小倉加恵子先生によりますと、これは私は大変面白いと思ったのですが、父親は88%が同じように思うそうです。親バカという言葉も、成る程!と思えますね。 子どもの脳の成長・発達により問題解決能力、ストレス耐性、共感・社会性などが向上し、大人になったときの子育て能力、精神的しなやかさ(レジリエンス)が向上するので、脳機能から考えると早期支援の意義は大きいということでした。親の養育行動で子どもの反応が変化するそうで、子どもは愛着行動で親の子育てに協力しているそうです。子どもの脳機能の障害などにより適切な愛着行動ができないと、「育てにくさ」につながってしまうようでした。そのために疾病や障害がある子の親子の相互作用を育む支援が必要であるということで、親が子育て不安や自己不能感を喜びや充足感に変えるために専門家により親が子どもの表情やサインに気づくための手助けが必要であるということでした。 「育てにくさ」の要因は①子どもに起因するもの、②親に起因するもの、③親子関係に起因するもの、④環境に起因するものに分類されるそうです。子どもに起因するものとして発達のバリエーション、神経性習癖、早産低出生体重児、障害・疾病:発達障害、アレルギー性疾患などがあるそうです。親に起因するものとして子育て経験の未熟さ、仕事との両立、生理的な心身の変化:月経前緊張症、障害・疾病:知的障害、精神疾患などがあるそうです。親子関係に起因するものとして子どもに無関心、過干渉(依存)、親子の愛着形成などがあるそうです。環境に起因するものとして物的環境:経済的、交通機関、自然環境、人的環境:夫婦関係、嫁姑、支援者、地域、社会的環境:サービス、制度、政策などがあるそうです。 最後に小倉加恵子先生は「どのように寄り添う支援をするのか?」について解説して下さいました。サポートの受け手にとって何を求められているのかを調べた調査があるそうです。受け手にとって有用な支援は情報的支援、ストレスに苦しむ人の気持ちに寄り添う評価/情緒的支援、必要な資源を提供する実体的支援などに分かれるそうですが、医師は情報的支援、次に実体的支援を求められる傾向が多く、看護師は評価/情緒的支援を求められる傾向が多いそうです。健やか親子21の指標の乳幼児検診の問診必須項目の重要課題①-2は「育てにくさを感じたときに対処できる親の割合」であるそうです。3歳児の親の場合、育てにくさを感じている親の割合は35%であるそうです。育てにくさを感じた時に対処できる親の割合の調査では約15%の親が育てにくさの解決方法を知らないという結果であったそうです。ところが育てにくさを感じる親に対する保健指導の評価では、育てにくさを感じる親に対する保健指導の評価をしていない割合が65%にも上るそうです。 支援するためには「育てにくさ」の要因を分析する必要性がありますが、小倉加恵子先生は要因を分析するときの留意点として①客観的に全体像を把握、②どのような支援が可能か?の視点、③ポジティブな面も見つける、の3点を挙げられました。①客観的に全体像を把握とは「育てにくさ」は親の主観的経験であり支援者は客観的次元で分析する必要があり、気持ちに寄り添うあたたかさと全体を俯瞰する冷静さが必要であるということでした。②どのような支援が可能か?の視点とは妊娠期から現在にいたるまで多面的な視点で多職種による分析がなされることにより潜在的なニーズに気付き、多角的な支援が可能となるということでした。③ポジティブな面も見つけるとは、要因別に客観的に評価することでネガティブに思われる面だけでなくポジティブな面も見えてくるということでした。親が今できていること、子どもが今できていること、活かせそうな資源、親が気づけたこと、など“持続可能な支援”には活かせる面が重要であるということでした。 小倉加恵子先生は障害児や未熟児の母親となった心の傷についても解説して下さいました。予想外、期待していたのとは違う出産、子育てが心的外傷体験(衝撃的な肉体的・精神的ショックを受けたことで、深い心の傷となってしまうこと)になり、無力感と強い罪悪感につながるそうです。心的外傷体験から4週以内に始まり、2日~4週間でおさまるパニック、身体症状、注意力低下、現実感の喪失などの「急性ストレス障害」と心的外傷体験によって様々なストレス障害が生じて数ヶ月~数年後に発症する「心的外傷後ストレス障害」に分類されるそうです。悲哀とその受容は否認(何かの間違い、あの医師の誤診)、怒り(治療が不適切、なんでこんな目に)、取引(障害がなければ対処できる)、抑うつ(この子が生きていてもみんなが不幸)、受容(障害があっても、家族で幸せに)という過程が複雑に絡み合い、紆余曲折を経ながら進行するそうです。これは階段のように進むプロセスではないことに注意する必要があるそうです。 支援者の態度としては理解と援助を惜しまない態度が望まれるということで、受容に至るまでの心理状態について理解し、病気や障害について理解し、予想される問題について対応する方法を知っておく、不安や混乱、焦る気持ちをそのまま受け止め見守る、表現方法に気をつける、叱咤や禁止をしない、意見を押しつけない、安易な慰めは不信感につながる、などが重要であるということでした。困りごとには要因分析の3つをおこない、寄り添うことが重要であるということでした。 専門外の私にとっては少し難しいところもありましたが、小倉加恵子先生は最近の知見まで大変詳しく紹介してくださいました。実際に現場で子どもたちとその親と接する、養護教員の先生方にとってとても実践的で参考になることばかりではなかったかと思われました。私自身も大変勉強になりました。 |