先日、伊賀地区学校保健研修会が開催されました。 学校保健研修会は伊賀地区の学校医・園医と学校・園関係者が集まり、講演や交流会を通じて学校保健に関して共に学び、学校保健の現状や今後の方向について、また学校医・園医の学校へのかかわりについて研修を深めることを目的としています。伊賀医師会、名賀医師会の主催、伊賀市教育委員会、名張市教育委員会の共催で行われ、対象者は小中学校校長、教頭、小中学校養護教諭、幼稚園・保育園関係者、小学校校医、園医です。 講演(1)は「10代の妊娠~その背景と支援」で、講師は大阪府立病院機構大阪母子医療センター、母子保健情報センター顧問佐藤拓代先生でした。佐藤拓代先生は全国妊娠SOSネットワーク代表理事と母子保健推進会議会長も務めておられます。佐藤拓代先生は産婦人科、小児科、周産期の臨床を経た後、大阪府に入職、保健所長などを歴任し、公衆衛生の視点から母子保健を俯瞰され、母子施策、事業の中心的立場にある1人であるそうです。 佐藤拓代先生によりますと母の年齢階級別にみた出生総数に対する割合の年次推移では昭和25年に若年層が2.4%、40-44歳が3.5%であったのが、平成29年には若年層が1.0%、40-44歳が5.5%とさほど変化がないようであるが、高年層ではかつてたくさん兄弟がいる末っ子の出産であったのが、高度不妊治療による第1子出産に変わり、若年層では出産時における母子の孤立が目立ってきているということでした。平成29年の三重県のデータでは、14歳以下の中絶数が5人、15歳では出産数が2人、中絶数が10人と15歳以下でも17人の妊娠が認められたそうです。年齢が上昇すると共に出産数の割合が上昇し、19歳では中絶数を出産数が上回るということでした。 厚生労働省による児童虐待死亡事例の検証報告から、より客観的、中立的に事例ととらえ、検討を行うために、「望まない妊娠/計画していない妊娠」を「予期していない妊娠/計画していない妊娠、思いがけない妊娠」と変更したそうです。女性の妊娠は、待ち望んだ妊娠と思いがけない妊娠のどちらかであり、思いがけない妊娠は、出産を待ち望む妊娠へと変化していく可能性があるということです。ただこれには妊娠中の支援が必要であるということでした。妊娠中にどのような支援を受けたかによって、その後の女性の生き方と子どもの未来は大きく左右されるということです。生後0日死亡は、誰にも知られたくない妊娠だったというのが世界的な認識で、0日死亡の根本的な解決のためには、まず匿名でも相談できる妊娠葛藤相談窓口が必要であるということでした。 大阪府では既存のサービスに乗りにくい方をターゲットに都道府県レベルで初めて、思いがけない妊娠に関する相談窓口を開設したということです。平成23年10月から情報をHPで提供し、メール相談と電話相談で対応する“にんしんSOS”を介ししたということでした。これは対応を指示するのではなく、客観的な情報を提供し、これからの人生を見据えた主体的な選択を推進させるようサポートするということでした。三重県では「みっく みえ」というサポートセンターが活動しているそうです。 生理や排卵日予測のルナルナというスマホのアプリが妊活や避妊の目的で使用されることもあるらしいのですが、10代など若年では排卵時期がなかなか定まらないということもあり、女性の体に関する知識不足、男性の体に関する知識不足、妊娠可能時期の知識不足などにより10代が妊娠に至っている背景があるということでした。 公立高等学校における妊娠を理由とした退学などに係る実態把握の結果などを踏まえた生徒への対応などについて、文部科学省初等中等教育局課長より各部署への通知が2018年3月29日にあったそうです。それによりますと、妊娠した生徒の学業継続に向けた考え方として、学業継続の意思がある場合は安易に退学処分や事実上の退学勧告などの処分を行わないという対応を勧め、妊娠した生徒に対する具体的な支援のあり方として、学業継続の場合は、養護教諭やスクールカウンセラー等の支援と、体育実技などでは課題レポートの提出や見学などの対応など、より生徒の学業継続を支援する内容であるということでした。しかしながら文部科学省調査では、平成27年4月から平成29年3月の公立高校における妊娠に関する調査では学校が把握した妊娠した生徒が全日制1006人、定時制1092人で、真に本人(または保護者)の意思に基づいて自主退学したのが全日制371人、定時制271人、退学を勧めた結果として「自主退学」となったのが全日制21人、定時制11人であったそうです。まだまだ妊娠を契機に学業断念せざるを得ない場合が多いようです。 佐藤拓代先生によりますと、妊娠相談の利用者は、祝福された妊娠で相談できる力がある場合は名乗って公的な機関に相談できるが、親には相談できないがパートナーや友達には相談できる場合は、パートナーや友達が非正規の対応方法を知っていると、相談窓口は利用しないかもしれない、ということでした。親には相談できないが、ネットを利用する力がある場合は、ネット情報に振り回されることが多く、このような場合や祝福されない妊娠や誰にも相談できない妊娠の場合は、やっとの思いで妊娠SOSの相談にたどり着くということでした。 佐藤拓代先生は、10代の妊娠には周りの気づきと支援が大切であると述べられ、そのポイントなどについても紹介して下さいました。 大変重く対応の難しいテーマですが、長年最先端で活躍してこられた佐藤拓代先生の数多くの経験を披露していただき、受講者の皆さんには大いに参考になることが多かったと思います。佐藤拓代先生、本当にありがとうございました。 |