先日、名張市立病院におきまして名張市立病院地域医療教育研修センター主催の院内感染防止対策研修会が開催され、クリニック看護師と共に参加いたしました。 講演1は「クロストリジウム・ディフィシル感染症診断治療~なぜこわいのか~」で講師は名張市立病院感染症科医長今井雄一郎先生でした。 抗菌薬関連下痢症/腸炎とは抗菌薬により引き起こされる下痢/腸炎で特に有名なのは偽膜性腸炎です。今井雄一郎先生によりますと抗菌薬関連下痢症/腸炎に関連する微生物のうちクロストリジウム・ディフィシルによるものが約20%で最も多いそうです。CDI(Clostridium difficile infection クロストリジウム・ディフィシル感染症)とは腸管内において毒素産生C.difficileが腸炎や下痢症を引き起こす感染症で、下痢や偽膜はともなわないこともあるということでした。C.difficileは院内感染の原因微生物として重要で、院内アウトブレイクを起こすそうです。C.difficileが過増殖して毒素を出すとCDIになり、抗菌薬使用歴のない患者でもCDIを認めることもあるそうです。CDI発症リスク因子は抗菌薬による腸管内細菌叢の変化を初めとして、PPI、H2ブロッカー投与、ステロイド、放射線療法などによる免疫の撹乱、長期入院例や長期療養型施設入所者などの環境要因、65歳を超える年齢、複数の基礎疾患、周産期の母児、炎症性腸疾患、HIV感染、透析患者など宿主要因などがあるそうです。 今井雄一郎先生によりますと人の健康を守るには動物環境にも目を配って取り組む必要があるという”One health”という考え方があるそうです。これは「人の健康」、「動物の健康」、「環境の健康」のそれぞれは独立しておらず、その最大公約数により達成されるということがワンヘルスアプローチという概念であるようです。抗菌薬は畜産業、水産業、農業など幅広い分野で多量に使用されており、薬剤耐性菌が増加してきているそうです。環境汚染や気候温暖化など人の都合で地球環境を破壊することには危険を生じる恐れがあります。家畜の生産性を維持しつつ耐性菌の影響が人に対して及ばないようにするために、医学、獣医学、農学、水産学などの領域を超えた連携が必須であるということでした。これは社会全体でのコンセンサスが求められる重要な課題ですね。 今井雄一郎先生によりますとCDIは高齢者に多く、CDI患者やCD消化管保有者(キャリア)は施設間を移動するため、病院間のみではなく地域で連携して感染管理を実施していく必要があるということでした。転院前の医療機関でCDを獲得しようが、自施設で院内獲得しようが、その患者における治療も感染予防も同一だということです。CDIを早期に診断し適切な治療を遅滞なく開始することにより重症化や死亡を防ぐと同時に、CDIを発症した患者に対して速やかに感染対策を実行し医療施設内/施設間での感染伝播を防ぐことが肝要であるそうです。 講演2は「クロストリジウム・ディフィシル感染症感染対策~これでバッチリ~」で講師は名張市立病院感染管理認定看護師長城村裕一先生でした。城村裕一先生によりますとCDは芽胞を形成するために、熱や消毒液に抵抗性であるということです。CDは100℃でも不活性化できず、通常推奨されるアルコールを含む速乾性擦式消毒液も効果が期待できないために、液状石鹸などで洗い流すことが重要であるということでした。特に糞便を介した接触感染のために、これらを扱った後はより注意を要するということです。手袋を着用していても手洗いは必要であるということでした。 城村裕一先生によりますとCDIの感染対策のポイントは①個室収容(隔離)、②流水下手洗いの徹底、③防護具の使用、④排泄物処理の工夫と注意、⑤環境整備、⑥医療器具の取り扱いの工夫と注意、⑦リネンの取り扱いの工夫と注意、⑧患者・家族への教育と配慮などでした。大変わかりやすく、具体的に解説して下さいました。 名張市立病院では今回のように、定期的に院外の病院、診療所も含めた勉強会、講習会を開催してくれています。大変勉強になり感謝いたしております。 |