先日、第5回糖尿病を考える会in名張が開催されました。特別講演は「患者さんのやる気を引き出す対話法~糖尿病コーチング~」で講師は佐世保中央病院糖尿病センター長松本一成先生でした。 コーチングに関しては、以前から興味はあったもののほとんど知識がなく、一度専門家の話を聞いてみたいものだと思っておりました。私が糖尿病の治療をすることはありませんが、森岡内科クリニック院長森岡浩平先生にコーチングの有名な先生が来るので、ということでお誘いいただき今回出席いたしました。森岡浩平先生もコーチングに詳しく、臨床で実践しておられます。今回大変有意義な会で、出席して本当によかったと思いました。 松本一成先生によりますと、コーチングとはクライアントが自らのゴールを設定し、それに向かって行動を起こすことを目的とした特殊なコミュニケーション法であり、コーチは主に質問することにより上記を実行するということでした。基本理念は「人が必要とする答えは、その人の中に存在する」ということでした。私が持っている答えを教えてあげるというTeaching(ティーチング)とは異なり、あなたが持っている答えを一緒にさがそうというのがCoaching(コーチング)であるということでした。 松本一成先生によりますと、医療者は「患者さんの話をよく聴きなさい。」と指導されるが、よい聴き方とはどんな聴き方か?ということを教えてもらうことは少ないということでした。これは成る程と思われるところでした。確かに、よい聴き方とはどんな聴き方か?ということを指導してくれる人にはあまり出会ったことがありません。松本一成先生によりますとコーチングのスキルとしてのよい聴き方とは、①話すよりも聴くことに時間を割く、②批判をしない、判断もしない(ゼロポジション)、③聴いているというサインを送る、④視線はやわらかく相手に合わせる、⑤最後まで聴く、途中で口を挟まない、⑥どう答えるかは、相手が話し終えてから考える、⑦沈黙を受け入れる、⑧辛抱強くなる、⑨相手の結論を先取りしない、などであるそうです。医師は患者の話を根気強く聴くことが苦手であるそうで、約20秒で口を挟むという報告があるそうです。 松本一成先生によりますと「ゼロポジション」とは相手の話をサマライズできるように集中して聴く態度であるそうです。話し手が自分の言葉で話してみて、自分の考えを確認することをオートクラインというそうです。聞き手が話し手の話を聴いた後で、話し手にサマリーを返すことをサマリー返しというそうで、オートクラインとサマリー返しにより話し手の行動は促進するそうです。 松本一成先生によりますと「頷きと相づち」も重要であるということでした。対話中に温かい頷きと相づちをできるだけたくさん入れることで、「あなたの話をもっと聞かせて」というメッセージを送るそうです。「オウム返し」は相手の語尾を繰り返すことで「あなたの話を受け止めています」というメッセージを送れるということでした。 松本一成先生によりますとコーチングは「質問型コミュニケーション」とも呼ばれるそうです。「どう思いますか?」「どう考えますか?」といった質問の仕方はオープン型質問といい、相手が自分の言葉で話そうとするために話題や情報を得られやすいそうです。これからのことを聞く未来型質問はクライアントのレパートリーの中からアイデアを出してもらう質問で、面接の終わり際に使うと有効であるということでした。 松本一成先生は行動変容を目的とした4つの質問パターンとして①現状維持の不利益、②変わることの利益、③変化に対する楽観性、④変化の決断の4種類を提示して下さいました。 松本一成先生によりますと漠然とした言葉の塊を、聞き返しによってほぐしていくことも有効であるということでした。クライアントの考えをできるだけ正確に言葉で表すことが「共感する」ことに繋がるそうで、松本一成先生によりますと、そのためには「聞き返し」で確認することだそうです。同情や同感ではなく、共感的理解が行動を変えるそうです。このあたりはちょっと理解の難しいところですね。ともすると共感と同情や同感を取り違えてしまいそうです。そしてなんと、共感が高い主治医であれば、その糖尿病患者の治療成績がよいという報告もあるそうです。 松本一成先生によりますと「承認する」ことも大事なコーチングの基本スキルであるということです。「承認する」ことは「私はあなたの味方です。」と言っていることと同じで、承認されると自己効力感が高まるそうです。時間を置かずに承認することで結果として行動が増えるそうで、オペラント条件づけと言うそうです。松本一成先生によりますと承認の仕方も、客観的な事実を承認するYouメッセージと主観的な影響を伝えるIメッセージで承認することが重要であるそうです。特にIメッセージで承認することが重要であるということでした。 松本一成先生によりますと「言った」・「聞いていない」というトラブルは医療業界ではよくあることで、確実に伝えるための方法として2つのスキルを紹介してくださいました。一つは「枕詞で許可を取る」ということで、相手に許可を求める枕詞を使うと、その後のメッセージのとおりが非常によくなるということです。もう一つは「情報提供」で「相手によって内容や順序を変える」すなわち個別対応が重要であるということでした。 松本一成先生はコーチングフローとして4 Stepモデルを紹介してくださいました。これは①現状の明確化、②ギャップの明確化、③具体的な行動目標の設定、④考え得る障害と対策からなります。 松本一成先生は佐世保中央病院におけるコーチングを用いた栄養看護外来を紹介してくださいました。看護師、栄養士、医師、他職種との協働チーム医療であり、患者様の自主性を重んじているそうです。診察の流れは、予約患者さんの受診、体重・血圧のセルフチェック、採血・採尿、栄養看護外来(検査結果報告とコーチング・情報提供)、医師診察、会計、だそうです。栄養看護外来に際しての注意事項は、①「感情を聴くこと」を最優先とする。②検査結果そのものよりも、行動に焦点を当てる。③断定的な言い方「良い」「悪い」などは安易に使わない。④「患者さんの抵抗」には抵抗しない。⑤機が熟していないときには、目標設定まで持って行こうとしない。だそうです。 栄養看護外来の特徴は①当日の検査結果をすべての患者に報告(リアルタイム)。②チームでコーチングを行い、患者もチームの一員として自己管理できるように支援。③患者自身による活きた行動目標の設定(可能な場合)。④栄養士(主に食事療法担当)と看護師(薬物やフットケアなど担当)が得意分野の知識を共有。⑤コ・メディカルから医師へバトンをつなぐ分担制診療。などであるそうです。 栄養看護外来のアウトカムとして高頻度に見られるのは行動変容、HbA1cの改善などであるそうです。コーチングはまさに糖尿病診療にうってつけの方法ですね。いや、糖尿病の治療だけではなく、診療全体に用いられて活用されるべき手法であると思われました。私にとってコーチングの話は大変興味深く思われ、今後更にコーチングについて学んでみたいものだと思いました。 |