先日、名賀医師会臨床懇話会が開催されました。特別講演は「『腎臓はチョッと苦手』という先生方に役立つ腎臓病診療のポイント」で講師は奈良県立医科大学地域医療学講座教授赤井靖宏先生でした。今回のご講演は主に内科医師が対象であると思われ、私自身が腎臓病診療をすることはないのですが、赤井靖宏先生が大変わかりやすく解説して下さいましたので、とても興味深く拝聴いたしました。 赤井靖宏先生によりますと慢性腎臓病(CKD)の定義は蛋白尿などの尿異常か腎機能低下(eGFR<60)が3ヶ月間以上続いている状態であるそうです。CKDのポイントは蛋白尿と腎機能であり、日本人成人の約8人に1人がCKDであり、CKDの有病率は世界的に見ても日本は非常に高いそうです。赤井靖宏先生によりますとCKDは生活習慣病重症化の指標であり、CKDは万病の元であるということです。 赤井靖宏先生は次のような質問をよく患者さんにされるそうです。「腎臓の働きが半分になると体がだるくなるでしょうか?」この答えはNoなのですが、この理由として末期まで症状が乏しい、検尿、検血などでしかわからない、などの特徴が挙げられます。なってしまうと治らないという特徴もありますが、早期発見にて進行を遅らせることができることなどから、CKDは検診に最適の疾患といえるそうです。 赤井靖宏先生によりますと、なぜCKDが重要かというと、その理由の一つにわが国での透析患者が年々増加しているということもあるそうです。日本では腎臓病患者が透析を受ける割合が非常に高いそうです。単位人口あたりでは透析を受ける割合が世界一高いということでした。日本の透析技術はとても高いそうで、最長40年間以上透析を受けている患者様もいるそうです。しかしながら透析患者一人あたり年間500万円~600万円と言われる医療費の高さが問題となっているようです。 赤井靖宏先生によりますと、CKDは心血管事故、死亡、入院の独立した危険因子であるそうで、多くのCKD患者が透析にいたる前に心血管病で死亡しているという事実もあるようです。 赤井靖宏先生は次のような質問も患者さんにされるそうです。「日本人のCKDの原因の多くは慢性腎炎である。これは正しいか?」この答えは私もついうっかりYesなのかと思ってしまいましたが、実際は生活習慣病であるそうです。CKDの危険因子は加齢、糖尿病、高血圧症、肥満、メタボリックシンドローム、喫煙、過度のアルコール摂取などであるそうです。またある種の薬剤がCKDの危険因子になり得るということで、無用な長期投与は控えるべきであるということでした。日本人のBMIの変化は女性ではやや低下しているそうですが、男性では年齢と共に上昇しているそうで、30歳代から肥満度の悪化が顕著であるそうです。CKDは50歳代から増加するそうですが、これは20歳代から40歳代の生活習慣により50歳代からのCKD発症につながるということです。大学病院などでは進行例の受診が多いですので、プライマリーケアでCKD予防の啓発が重要であるということでした。具体的には高血圧症、糖尿病、メタボリックシンドロームの予防、禁煙、過度の飲酒を控える、肥満防止などであるそうです。しかしながら症状のない状態で注意喚起するのは、なかなか困難であろうと思われました。 赤井靖宏先生によりますと、CKDの治療ではやはり減塩が重要であるということでした。CKD患者では塩分を1日3g以上6g未満が基準とされているそうです。しかしながら、舌は慣れるそうで、塩分制限が厳守されていれば外食は塩辛すぎると感じるようになるそうです。逆に、外食を塩辛すぎると感じなければ、塩分制限が不十分であるということでした。 その他にも色々とわかりやすく赤井靖宏先生はCKDについて解説して下さいましたが、私の知識不足と理解力不足でこれ以上の詳細についてはご紹介しきれません。多くのプライマリーケアドクターに大変有益な講演を熱心にしてくださいました赤井靖宏先生に深謝いたします。 |