先日、伊賀医師会館で伊賀名張地区疼痛治療セミナーが開催されました。講演は「慢性腰痛患者へのアプローチ~薬物療法を中心に~」で講師は三重大学大学院医学系研究科脊椎外科・医用工学講座教授笠井裕一先生でした。 笠井裕一先生によりますと、慢性疼痛保有者は22.5%、非保有者は77.5%であり、実に22.5%の方が慢性的に疼痛に悩んでおられるということになります。一般的に慢性疼痛は3ヶ月以上疼痛が継続していることをいいますが、日本では男女とも慢性疼痛の第一位が腰痛であるということです。笠井裕一先生によりますと、腰痛の患者様が来られますと、まず急性なのか慢性なのか、安静時痛なのか動作時痛なのか、下肢痛を伴っているかなどをチェックすることが大切であるということでした。腰痛の場合に腰椎前屈にて疼痛増悪すれば坐骨神経痛性や腰椎椎間板ヘルニア、腰椎後屈にて疼痛増悪すれば腰部脊柱管狭窄症、腰椎前後屈ともに疼痛増悪すれば、その合併が疑われるということですが、笠井裕一先生はその他にも痛みの発症、増悪パターンや痛みの日内変動のタイプなどからその原因を分類して推察する方法を教えて下さいました。 痛みの種類として侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、混合性疼痛、心因性疼痛など、それぞれに対する薬物療法について笠井裕一先生は解説して下さいました。また心因性疼痛の患者様の特徴なども紹介してくださいました。 最後にいくつかのパターンの腰痛模擬患者と笠井裕一先生のやりとりを示していただきました。これがわかりやすく大変参考になりました。腰椎椎間板ヘルニアでは保存治療にて症状が改善する場合が多く、手術を要する患者様は10人中1人程度であること、骨粗鬆症性椎体骨折は立ったり座ったりで痛いが歩くことはあまり痛くなく、当初レントゲン検査ではわかりにくくMRI検査で初めてわかることが多いこと、慢性腰痛のためにあちこちの医療機関を受診しておられる患者様に認知行動療法を用いた手法でも治療しておられること、腰痛診療においてred flagと言われる危険信号(癌、ステロイド治療中、安静時腰痛、強い神経症状、発熱)などを早期に察知する重要性など参考になることばかりで大変勉強になりました。 笠井裕一先生はミャンマーでの医療支援を長年続けておられ、今まで25回の訪問で300例以上の脊椎手術を行ってきたそうです。ミャンマーはまだまだ医療後進国であるそうで、医療設備も全く整っていないそうです。笠井裕一先生はミャンマーの新病院建設にも関わっておられるということでした。手術だけでなくミャンマーにおける瞑想の研究などユニークな研究もしておられます。笠井裕一先生の献身とバイタリティーに感心いたしました。 |