先日、「初期変形性膝関節症の発生機序とその診断」という講演をWebセミナーで聴きました。講師は順天堂大学大学院医学研究科整形外科・運動器医学講座准教授石島旨章先生でした。 石島旨章先生によりますと、変形性膝関節症において人工膝関節置換術などの外科的治療を要する症例は年間8万5千件から9万件くらいであるそうです。これらを重症である変形性膝関節症ととらえると、中等度の変形性膝関節症で手術までは要さないが明らかな症状を認める有症者は約800万人、軽症の変形性膝関節症である有病者は約2500万人であるそうです。 レントゲン写真にてKellgren-Lawrence分類でグレードⅡ以上、すなわち骨棘形成、関節裂隙狭小化を認めるものが変形性膝関節症と診断されるそうですが、石島旨章先生によりますとグレードⅠかⅡの早期のうちに発見することが重要であるということです。変形性膝関節症においては年齢的には50歳前後を境に有病率が高くなるということと、世界的見れば発展途上国より先進国の方が有病率は高いというデータがあるそうです。先進国の方が変形性膝関節症の有病率が高いとは不思議なことですね。 関節軟骨の変性や摩耗という変化は画像検査では、レントゲン検査においては形態学的変化として捉えられますが、MRI検査においては質的変化、形態学的変化の両方の情報が得られます。無症候性のボランティア女性30名を対象とした研究では、MRI検査により45歳以上では浅層に質的変化が認められるのに対して65歳以上では深層にまで質的変化を認めたことにより、年齢と軟骨の厚みには相関関係があり変形性膝関節症の進行に関与するということです。 初期の変形性膝関節症では関節軟骨分解が亢進し、摩耗量が増大することにより滑膜炎が起こり疼痛の原因となるそうです。MRI検査を用いた研究では、無症候性であってもMRI検査において滑膜炎を起こしていると変形性膝関節症発症のリスクが高いという結果が出ているそうです。関節軟骨変性は変形性膝関節症発症よりかなり前から起こっているようですね。 石島旨章先生によりますと膝伸展筋力低下と軽微な外傷は変形性膝関節症発症のリスク因子であるということです。過去の外傷歴が急速型変形性膝関節症の発症リスクを増大させ、1年以内の外傷歴は急速型と通常の変形性膝関節症発症リスクを増大させるということでした。変形性膝関節症では疼痛により活動性低下が起こり、筋力低下、日常生活動作制限につながってしまうということです。変形性膝関節症における疼痛は侵害受容性疼痛であり、関節局所への生体力学的異常に関連する因子と炎症が関係しており、関節局所への過剰な負荷が炎症へとつながるということでした。 変形性膝関節症に対する治療は全て症状改善型治療であり、非薬物療法と薬物療法の併用で行われるべきであるということです。特に早期の変形性膝関節症に対しては早期診断と早期治療が必要であると石島旨章先生は強調されました。大変参考になる有益な講演でした。 |