先日、名賀医師会臨床懇話会が開催されました。講演は「日常生活で心不全を予防するための工夫」で講師は城医院城祐輔先生でした。 城祐輔先生は慶應義塾大学医学部循環器内科および関連病院で勤務された後、2015年から伊賀市の城医院で勤務しておられます。城祐輔先生は総合内科専門医だけではなく、循環器科学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医などもお持ちで、循環器科のスペシャリストとしてキャリアを重ねてこられ、開業後は地域医療の担い手としてご活躍中です。城祐輔先生はクリニックでできる高齢者の心不全予防をテーマに心不全を疑うべき心電図の簡単な見分け方、専門医への紹介のタイミングなどを紹介してくださいました。 城祐輔先生によりますと、昔から言われている典型的な心不全の症状は呼吸苦、浮腫、頚静脈怒張、起坐呼吸、夜間発作性呼吸困難、全身倦怠感、食欲不振などであるそうです。しかしながらこれらの症状がそろう場合はむしろまれであるということです。心エコーは心不全の診断に有用で、心収縮や弁膜症の程度がわかるそうです。慢性心不全治療ガイドラインによりますと、収縮力の低下した慢性心不全患者に対する第一選択はβブロッカーで第二選択はACE阻害剤(またはARB)だそうです。以前はジギタリスが第一選択であったのが、ジギタリスが予後を改善しないことがわかり第一選択ではなくなったそうです。この様に変化したのが、ちょうど城祐輔先生が国家試験勉強をしていた頃であり、城祐輔先生はその意味でも印象深かったということでした。私が学生時代に大学で教わった1980年代後半にはやはり、心不全にはジギタリスが第一選択と習ったようなおぼろげな記憶があります。 城祐輔先生によりますと、心不全で入院する患者さんの半数近くは左室収縮が不良というわけではないそうです。心臓は「ポンプ」の機能もあるが、心筋の「膨らみ具合」もとても大切であるということです。長年の高血圧により左室肥大になると収縮は良くても心筋の肥大と線維化によりしなやかさが失われてしまうそうです。そうなると急激な血行動態の変化を柔軟に受け止めるだけのクッション的要素がなくなってしまい、容易に血圧上昇を招いてしまうそうです。この様に収縮力の保たれた心不全を心筋拡張障害と言うそうです。心筋拡張障害であると、突然の血圧上昇や頻脈の場合に左室充満圧上昇、左房圧上昇、肺静脈圧上昇と繋がり、数時間から数十分でも肺水腫に至ることがあるそうです。 城祐輔先生は拡張障害によって心不全を起こす人の特徴を患者さんとの会話の中で見出す秘訣を紹介してくださいました。「畑仕事や草刈りの際に息切れしたり、大きく深呼吸をしたくなることはありませんか?」という問いに「そりゃあるわさ、いうてももう年やさけ。」と患者さんが答えたら、それは心不全兆候の可能性があるために注意を要するということでした。この場合には心電図検査を行いV1誘導で陰性P波が認められる場合や血液検査でBNP>100pg/dlが認められる場合などが循環器専門医へ紹介するタイミングであるということでした。 城祐輔先生によりますと、拡張障害にあまり有効な薬は無いために、尚更生活指導が重要になるということでした。急激な血圧上昇を避けて、頻脈を来すような興奮、緊張を避けるということです。具体的には重いものを持ち上げたり、便秘時のいきみ、興奮、疲労の蓄積などは厳禁であるということでした。 患者さんとの何気ない会話の中に、重篤な病状につながる微細な兆候を見逃さない城祐輔先生の洞察力と診療姿勢に大変感心いたしました。 |