伊賀地区学校保健研修会の講演(2)は「子どもを支える~子どもの視点で考えるいじめ・虐待問題など~」で講師は特定非営利活動法人子どもセンター「パオ」理事長弁護士多田元先生でした。 NPO法人子どもセンター「パオ」は2006年に少年事件や虐待問題に関わってきた弁護士や福祉関係者が虐待を受けるなどして家で暮らせない子どもたちを支えるために設立したそうです。今年は設立10周年を迎えました。多田元先生は児童相談所や児童養護施設など既存の仕組みだけでは救いきれない子どもたちに安全な居場所をという思いから緊急避難のシェルターも設けたそうです。 多田元先生によりますと1990年に初めていじめ・虐待問題の統計がとられ、1年間で1101件であったそうです。それが今や年間8万件を超えるそうです。マスコミによりますとこれは大変な増加であるということになるのですが、多田元先生は今までは明るみに出てこなかった事例が発見されやすくなったということだそうです。 多田元先生は子どもの相談、子どもの支援活動は子どもの相談もまた子どもの参加のひとつのかたちであることを認識することが重要であると述べられました。多田元先生は子どものパートナーとしての弁護士の役割として、子どもを支える、指導しない、子どものことは子どもから学ぶ、子どもと関わるプロセスを大切にして楽しむことなどを挙げられました。 2002年5月に出された国連子ども特別総会の子どものメッセージは「わたしたちにふさわしい(fit)世界を求める」というもので、「わたしたちにふさわしい世界は、すべての人にふさわしい世界だから。わたしたち子どもは問題を作り出す根源ではありません。わたしたちはその問題を解決するのに必要な力なのです。」というメッセージでした。 学校といじめ問題はいつの時代にも問題になります。なぜ、いじめ問題が日常化しても、見えないのか?ということですが、中井久夫氏によりますといじめは(1)孤立化、(2)無力化、(3)透明化という深刻化のプロセスを辿るそうです。 今年6月に北海道で起こった、男児置き去り事件は行方不明となっていた男児が6日ぶりに無事保護されるという幸いな結果になりましたが、マスコミや世間では虐待では?という意見もあり様々な議論もあったようです。多田元先生は小林美智子医師による子どもの視点に立った虐待の定義を紹介されました。小林美智子医師によると「虐待の定義はあくまでも子ども側からの定義であり、親の意図とは無関係です。その子が嫌いだから、にくいから、意図的にするから、虐待というのではありません。親はいくら一生懸命であっても、その子をかわいいと思っていても、子どもの側にとって有害な行為であれば虐待なのです。我々がその行為を親の意図で判断するのではなく、子どもにとって有害かどうかで判断するように視点を変えなければなりません。」ということです。多田元先生はこの事件に関して、この定義に照らして本件は明らかに虐待ではあるが親も困っている、すなわち親への支援が必要、それが子どもの虐待防止に繋がるというように述べられました。虐待であるかどうかの議論や親へのバッシングなどではなく、この違った視点からの発想の方が子どもの虐待防止に対して建設的な考え方であるように思え、目から鱗が落ちる思いでした。 多田元先生は新聞記事のインタビューで「壮絶な過去は変えられないけれど、環境を整え、新たな大人たちとの温かい関係を通して生きる力を身につけることはできる。子どもに教わりながら続けていきたい。」と述べておられます。多田元先生の子どもたちに対する献身的な愛情にただただ感服するだけでした。 特定非営利活動法人子どもセンター「パオ」のホームページにはこの様なメッセージが書いてあります。「どんなあなたもすてきなあなた あなたのままでいいんだよ。」 |