先日、名張市立病院地域医療教育研修センター主催感染防止対策研修会が開催されました。スタッフと共に出席しました。講師はNPO法人日本感染管理支援協会理事長土井英史先生で演題は「医療関連感染と環境表面管理の再考~ここ数年間様々な角度で見直しがされています。~」でした。土井英史先生は医療関連感染と環境表面管理について、過去の問題を振り返りながら新しく得た知見や考え方などを紹介して下さいました。 感染源が感染経路を通って感受性宿主に侵入することによって感染は成立します。土井英史先生は感染を成立させないためには感染経路を遮断するという基本を強調されました。感染経路には自分自身の保有している微生物による感染(内因性感染)と自分以外の生物、無生物の保有している微生物による感染(外因性感染)とがあります。内因性感染は対策が困難であることが多いですが、外因性感染の場合は本来予防できる感染であり、「環境表面」が感染経路にあたることが多いということです。十数年前までは環境表面の汚染は認められても医療関連感染発生と環境表面の細菌感染とは関係しないと言われていたそうです。ところが近年では医療関連感染と環境表面汚染を裏付けるEvidenceが増えてきているそうで、医療環境や医療装置から病原性微生物を獲得するリスクを減らすために包括的な消毒プログラムが必要とされているということでした。また環境表面上の病原性微生物の環境内での生存存続期間を紹介して下さいましたが、これは驚くほど長期間です。環境表面管理の重要性が十分認識できました。 環境表面の重要性は、感染伝播が手と環境表面の接触を介するからで、環境表面の清浄化は環境表面との摂食後に手指の病原微生物獲得を減少させるからです。土井英史先生は手指の病原微生物獲得を減少させるために高頻度接触部の洗浄・消毒を1回/1日実施することが必要で、重要なことは「拭く場所」と「拭き方」の統一が必要であると強調されました。拭き方なども、人間の手作業には必ず「ムラ」があるので、それを統一しなければならず、「標準手順書」が極めて重要であるということです。ワイプに関しても消毒剤の接触時間の達成と、十分な湿り気が必要ということで、1分以上表面が目に見えて濡れた状態にならなくなったら、そのワイプは使用を中止するということです。環境表面には洗浄効果と消毒効果を併せ持つ低水準消毒薬含有洗浄剤の使用が望ましいということです。1日の消毒回数は多い方が良いように思えますが、土井英史先生によりますと人の手が介在する治療環境表面の微生物を永久にゼロにすることはできないし、する必要もないので、環境表面の微生物相を安全あるいは比較的安全な水準まで減少させること、つまり衛生的にすることが重要であるということです。環境表面に使用する溶剤で気をつけなければならないこととして人体対する影響と対象物品の損傷などがあり、土井英史先生は感染対策と同様に重要なことであると強調されました。対象物品の損傷としては、塩素系消毒液は金属腐食性があり、アルコール系消毒液はプラスチックを漂白します。これも大きな問題点ですね。また病室除菌の新しい方法として環境表面消毒を補完する非接触アプローチとして紫外線や過酸化水素蒸気を用いた機械的清掃があるそうです。これらの方法にするためには環境自体が清掃、消毒しやすいデザインであるかということが重要であるということです。イギリスの賞をとったようなデザインのポータブルトイレは、設計段階からクリーニングのことを考慮して製作されているそうです。このあたりは一歩も二歩も先を行っていますね。 土井英史先生は、環境管理と医療関連感染が注目を浴びる中で日本としてもソフト、ハード共に見直す時期が来ていると思うと述べられました。医療機関や介護・福祉機関はハウスキーピングを学んでいないし、外部委託清掃会社は医療を学んでいないので、双方の専門的な知識・技術がある人材がいないことが問題であると土井英史先生は指摘されました。つまり環境サービスについて「共通言語」がない状態であり、NPO法人日本医療・福祉環境サービス協会(JHWESA)では「共通言語」作りのために環境サービス認定専門家制度(CESP)を開始したということです。環境サービス認定専門家(CESP)では米国環境サービス協会(AHE)と英国政府(NHS)の発行した翻訳本を使用しているそうです。病院、介護・福祉施設の環境サービスの質保証のために、感染対策部門、外部委託契約窓口部門、環境サービスを提供する企業などで環境サービス認定専門家(CESP)の取得が進むことにより「共通言語」ができていくであろうということです。 土井英史先生は米国の病院での入院前の美しく整った病室の写真を紹介され、温かみのある素敵な環境で、まずは患者さまをお迎えしてあげたいと述べられました。大変勉強になる講演でした。今日のお話を参考に、環境管理を更に前進していきたいと思いました。 |