先日、伊賀・名賀合同臨床集談会が開催され、出席しました。講演は「プライマリケアの場で出会う精神疾患」で、講師は上野病院院長平尾文雄先生でした。 平尾文雄先生はプライマリケアの場で出会う代表的な精神疾患としてうつ病、うつ状態、パニック障害、不眠症、アルコール依存症について、紹介して下さいました。 平尾文雄先生は全米依存症調査で、精神衛生上の問題に直面する米国成人の割合は1年で25%にものぼるが、そのうち60%が何の治療も受けていないこと、かかりつけ医を訪れるケースの66%がストレス関連の症状に関係していることなどを紹介して下さいました。抑うつを呈する患者の初診科は内科が64%と圧倒的に多く、最初から精神科、心療内科を受診するのは1割に過ぎないそうです。 うつ病の基本となる症状は「憂うつな気分が2週間以上続く。」「何をやっても楽しくない。」の2項目で両方揃えば90%以上うつ病と言えるそうです。確かに誰しも憂うつな気分になりますが、2週間以上とはなかなか続かないですね。身体症状としては頭痛、肩こり、倦怠感、発汗、胃の痛み、下痢・便秘、息苦しさなどであるそうです。成る程、これならまず内科受診をするのも頷けますね。うつ病の経過は前駆期から極期を経て回復期に至るそうですが、直線上に改善するのではなく、波状の経過をたどり改善していくそうです。回復期のちょっとした落ち込みの際に自殺企図が生じることも多いそうです。典型的には数ヶ月の経過で回復し7割が1年以内に回復するそうです。一時期、うつ病は「心の風邪」というキャンペーンがあったそうですが、2,3割の方が慢性化することなどからこのキャンペーンは必ずしも正しくないと平尾文雄先生は指摘しておられました。従来型のうつ病が壮年期に多くメランコリー親和型性格(几帳面、責任感が強い、協調的)、他者配慮的で自罰的傾向、規範的社会に親和性、「周囲に迷惑をかける」と考えがちなのに対して、新しいタイプのうつ病は若年層に多い、自己中心的で他罰的傾向、規範的社会に不適応(会社などでも)、「自分が迷惑をかけられている」と考えがちとかなり違いがあるようです。平尾文雄先生は「生きるのがしんどい」や自殺を口にする患者への対応にも言及されました。 またパニック障害は突然何のきっかけもなくパニック発作が起こり、多くは1時間程度で落ち着くそうです。パニック発作は突然の動悸、めまい、息苦しさ、振戦、嘔気、「死ぬのではないか」という激しい不安などだそうです。多くの患者は最初の発作時に、救急車で一般病院を受診しているそうです。いつパニックがくるかという不安にとらわれ、電車・飛行機に乗れない、人混みに行けない、長い橋を渡れない、理容店に行けないなどの生活上の困難が生じることも多いそうです。 不眠症に関しては入眠障害、中途覚醒、熟眠障害、早朝覚醒などいろいろな不眠のパターンに対して、適切な睡眠薬を用いることが重要であるそうです。不眠症の治療の前に睡眠障害対処の方法として、睡眠時間が人それぞれなので日中の眠気で困らなければ十分と考えること、眠たくなってから床につく、就寝時間にこだわりすぎないこと、同じ時刻に毎日起床すること、眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きすること、睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもとと認識することなどを挙げておられました。どれも成る程ですね! アルコール依存症は酒に対して精神・身体依存が生じやすい体質を持つ人が陥る慢性疾患であり、意思の問題ではないそうです。酒がおいしくて飲んでいるのではなく、酒が切れると不快になる(離脱症状)から飲まずにおれないということです。このことは私は全く知りませんでした。アルコール依存症者の平均死亡年齢は52歳(私の年齢です!)で、放置すれば50歳代で死亡するそうです。節酒(量を減らす)を勧めても無理で、断酒して健康を取り戻すか、飲み続けて早死にするかの二者択一になるそうです。 新たに知ることが多く、色々と勉強になる講演会でした。 |