第31回三重上肢外科研究会の特別講演IIは「画家ルノアールの手の再建」で講師は新潟県立リウマチセンター副院長石川肇先生でした。 私は絵画のことは全く無知ですのでほとんど知りませんが、ルノアールといえばさすがに名前くらいは聞いたことがあります。19世紀から20世紀にかけて活躍した高名なフランスの画家ですが、関節リウマチであったことなどは全く知りませんでした。石川肇先生は貴重なルノアールの白黒の動画を紹介してくださいました。画像で見せてもらいますと確かにルノアールの手指は著しい関節リウマチ変形を認め、おそらく膝も悪くなり歩行困難のために車いすで不自由な手に紐で筆をくくりつけてタバコをモクモクとくゆらせながら絵を描く様子が白黒の動画に写っていました。石川肇先生はタバコも関節リウマチを悪化させる危険因子ですが…、と苦笑いしながら紹介しておられました。石川肇先生によりますとルノアールはリウマチ発症後に絵のタッチが柔らかくなったそうです。これも疾患の影響でルノアールの心境に変化を及ぼしたのかもしれませんね。石川肇先生はルノアールが現在おられたら、このように治療ができたのにという観点でリウマチ患者における手の再建術を解説してくださいました。 石川肇先生によりますとリウマチ手にみられる病態としては関節腫張、滑膜増殖、関節破壊、亜脱臼、不安定性、関節拘縮、強直、変形、内在筋拘縮、関節包断裂、腱断裂、腱癒着などがあります。その結果、ルノアールのように手指の尺側偏位、スワンネック変形などが生じます。石川肇先生は主に人工関節によるリウマチ患者における手指再建術を解説してくださいました。指の人工関節は膝関節や股関節に比べてあまり一般的ではありませんが、機能的な改善はもちろんのこと外観も改善されるために満足度は高いようです。石川肇先生によりますとリウマチ手における手術治療のタイミングとして関節リウマチの活動性が低いこと、治療に対する患者のモチベーションが高いこと、感染症を伴っていないこと、LarsenのX線のGrade分類Ⅴ(ムチランス型変形)と高度変形となってしまう前の段階であること、合併症が内科でよくコントロールされていることなどを挙げておられました。石川肇先生によりますとSwanson人工関節による手術治療の満足度は、満足65%、どちらとも言えない26%、不満9%であったそうです。手指MP関節の必要とされる屈曲角度は手指によって異なり尺側ほどより大きな屈曲角度を要するということでした。術後の満足度の内容では機能や痛みの改善も多かったそうですが、最も満足度が高かったのは外観の改善であったそうです。患者満足度を上げるには整容と機能を両立させていく必要があるということでした。 生物学的製剤注射などにより関節リウマチの治療が以前と比べて進歩して膝関節や股関節などの大関節の人工関節置換術を要する症例は減少しているそうです。手指は関節リウマチの初発症状であることが多く罹病期間が長いために症状があってもまだまだ我慢しておられる方が多いという現状だそうです。今後は手指の人工関節手術がさらに普及して、関節リウマチの手指機能と整容の改善を得られる方が増えていくのかもしれませんね。 |