先日、名賀医師会臨床懇話会が開催されました。講演は「消化器疾患の変遷~変化する酸関連疾患の治療の実際~」で講師は大阪市立大学大学院医学研究科消化器内科学准教授藤原靖弘先生でした。 藤原靖弘先生によりますと、最近の酸関連消化器疾患の動向として萎縮性胃炎、ヘリコバクター・ピロリ陽性消化性潰瘍などは減少しているものの、胃食道逆流症(GERD)、NSAID潰瘍、胃底腺ポリープなどは増加しており、胃癌は発生率にあまり変化がないという傾向があるのでは、ということでした。この中で藤原靖弘先生は主に酸関連疾患として胃食道逆流症(GERD)とヘリコバクター・ピロリ陽性消化性潰瘍に関する治療などに関して解説してくださいました。 胃食道逆流症(GERD)とは逆流性食道炎のことかと私は認識しておりましたが、逆流症状はあっても食道粘膜障害を認めない非びらん性胃食道逆流症(NERD)という病態があるそうで、逆流性食道炎も非びらん性胃食道逆流症も胃食道逆流症(GERD)に含まれるそうです。 食道と胃の境(食道下端)に下部食道括約帯があって胃内容の逆流を防止しています。下部食道括約帯は通常閉じていて、嚥下運動やゲップをするときに弛緩し一過性下部食道括約筋弛緩と言うそうですがこの一過性下部食道括約筋弛緩が頻回に起こるのが胃食道逆流症(GERD)の原因と言われているそうです。 胃食道逆流症(GERD)の症状は胸やけ、ゲップ、胸のつかえ感や異物感などですが、食道外症状として胸痛、喉の痛み、咳、睡眠障害などもあるそうです。 胃食道逆流症(GERD)の治療はプロトンポンプ阻害薬内服の内科治療が主体になるそうです。しかしながらプロトンポンプ阻害薬抵抗性胃食道逆流症(GERD)はかなり多いそうで、治療者としてまず最初に考慮すべきことは服薬コンプライアンス(患者が薬を薬剤規定通りに飲むこと)と生活習慣だそうです。その他に稀な鑑別疾患にも留意するということでした。内科的治療で効果がない場合には手術治療も考慮されるということでした。 藤原靖弘先生によりますと日本ではピロリ菌感染率は急速に低下していますが、60歳以上では依然として高い感染率だそうです。感染率の差はその人が生まれた時代の衛生状況によるそうで、上下水道の普及率などによるそうです。最近では保険診療でピロリ菌除菌治療を受けられる対象が拡大されて以来、ピロリ菌除菌治療をする人が増加しているそうです。ピロリ菌感染は胃潰瘍や胃癌との関連も指摘されています。ピロリ菌除菌は2種類の抗菌薬と胃酸の分泌を抑える薬の3種類を1週間服用する方法でこれを一次除菌といい、除菌が不成功の場合抗菌薬を変更して再び除菌治療を行い、これを二次除菌というそうです。ピロリ菌除菌の問題点は一時除菌の成功率が約70%と一回で除菌できない場合も多いことで、クラリス耐性菌の増加などが影響しているようです。しかしながら新しいプロトンポンプ阻害薬の開発などにより除菌の成功率は向上してきているそうで、二次除菌は成功率が約98%に上がってきているそうです。ただピロリ菌感染したこと自体が胃癌のリスクとなるので、除菌が成功しても胃癌を100%予防できるわけではないことには留意する必要があるということでした。 藤原靖弘先生は食道癌のリスクとしてアルコールフラッシャーがあるということを教えてくださいました。飲酒により顔が赤くなることをフラッシング、赤くなる人をフラッシャー、赤くならない人をノンフラッシャーというそうです。フラッシングはアルコールが分解されてできるアセトアルデヒドの毒性によって起こるそうで、アセトアルデヒドの分解能力が低い人はフラッシングを起こしやすいそうです。実は私は飲酒してもほとんど顔色に出ないのでノンフラッシャーです。その点では食道癌のリスクが低いと喜ばしいことのはずなんですが…、顔が赤くなる代わりに最後には青白くなり翌日まで気分が悪かったりします。どちらがいいのか、悪いのか?ビミョーですね…。 |