PAD Conference in 名張の講演Ⅱは「プライマリ医における地雷的血管性疾患」で講師は金沢大学医学部臨床教授、厚生連高岡病院整形外科診療部長鳥畠康充先生でした。 間欠性跛行とはしばらく歩くと足の痛み・しびれのために歩けなくなるが、しばらく休むと再び歩行可能な状態になることをいいます。間欠性跛行を起こす疾患としては腰部脊柱管狭窄症とPAD(末梢動脈疾患)が代表的です。鳥畠康充先生によりますと間欠性跛行の疾患別割合では腰部脊柱管狭窄症が75.9%、PADが13.3%、腰部脊柱管狭窄症とPADの合併が10.8%であったということです。このことより鳥畠康充先生は、以前には製薬会社による間欠性跛行がPADによるものであるという文言に待ったをかけ、腰部脊柱管狭窄症による間欠性跛行の頻度の多さと重要性を強調されたそうです。鳥畠康充先生は脊椎外科がご専門ですが、日本脈管学会専門医も取得しておられます。日本の整形外科医で日本脈管学会専門医をとっておられるのはおそらく鳥畠康充先生だけでしょう。このあたりにも鳥畠康充先生の間欠性跛行に対する、深い思い入れを感じました。また鳥畠康充先生によりますと間欠性跛行の患者さんが、まず受診する初診科は整形外科が圧倒的に多いそうです。整形外科でも間欠性跛行の患者さんに対しては血管の問題がないのかを常に意識して、必要に応じて循環器内科や血管外科との連携を密にすることが重要であると思われました。 坂井正孝先生も紹介しておられましたように、PADの臨床重症度分類であるFontaine分類は臨床所見による分類ですが、これには跛行、疼痛などの自覚症状と潰瘍・壊疽という他覚症状が混在しています。鳥畠康充先生は自覚症状と他覚症状が混在する理由を、Fontaine分類は下肢動脈狭窄における側副血行の機能分類であるからと説明し、側副血行を有効に機能させる生理的治療の重要性を述べたものであると解説されました。成る程、この様に理解するとFontaine分類の重要性がよく理解できますね。鳥畠康充先生によりますと、血管性間欠跛行は足の狭心症とも言える状態で、痛みという警告サインを利用した生体防御反応であるということです。 間欠性跛行の症状を呈している場合の腰部脊柱管狭窄症とPADの鑑別診断のポイントですが、腰部脊柱管狭窄症の間欠性跛行では立っているだけで下肢痛が現れることや、前屈位で下肢痛が緩和するという特徴があります。すなわち腰部脊柱管狭窄症では老人車歩行や自転車では楽であることが特徴的です。PADの場合は病歴として虚血性心疾患、脳梗塞、糖尿病の既往、喫煙歴などが重要です。またPADでは疼痛部位が片側の下腿後面であることが多いことも特徴です。 鳥畠康充先生は整形外科医にとって大きな落とし穴となる重篤な血管性疾患であるくも膜下出血(脳血管障害)、大動脈解離などについても解説して下さいました。疑わしい場合には専門医への紹介、造影CT検査などが必要であるということです。この点に関しては、地域によっては医療アクセスの問題も影響しそうですね。 |