先日、伊賀医師会館で三重大学大学院医学系研究科病態解明医学講座麻酔集中治療学教授丸山一男先生の「痛みの考え方」~何を・どのように・効かす?~という講演会があり出席しました。丸山一男先生の講演を聴くのは3回目ですがとてもわかりやすく、丸山一男先生は一段とアクションに磨きをかけておられました。 痛みを伝える神経はおよそ15m/secで電気を伝えるAδ線維とおよそ1m/secで電気を伝えるC線維であり、この時間差が受傷直後の鋭い局所の明瞭な痛みと,次いで1秒くらいしてから鈍い疼くような不快な感じが起こる原因です。Aδ線維を通る刺激は自由神経終末から神経線維を通り脊髄後角を介して瞬時に大脳皮質体性感覚野に到達し、これが痛みの場所の局在を担当します。C線維を通る刺激は約1秒後に体性感覚野に到達すると同時に前帯状回、扁桃体、海馬などの大脳辺縁系にも到達し、これが嫌な感じや不快感を担当します。痛みは不快を伴うわけで、道理で痛みを感じている人は自然と不機嫌で怒りやすくなるわけです。これらの刺激は脳幹に伝わり、そこから疼痛の伝達を抑制する仕組みが働きます。これを下行抑制系といいます。うつ状態では下行抑制系が抑制され、結果として痛みが増悪することが知られています。 痛み刺激の伝導はナトリウムイオンの流入から膜電位上昇、脱分極とつながる電気的な変化であり、治療としては神経での活動電位の発生を抑えることとなります。全ての治療薬は、間接的・直接的に痛みの活動電位を抑制していることになります。 痛みに対して最もよく使用されるNSAIDs(非ステロイド性抗消炎薬)は発痛物質の産生を抑制することで痛みの活動電位を抑制します。局所麻酔薬は神経線維での伝導を抑制することで痛みの活動電位を抑制します。オピオイド、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、N型カルシウムチャネル阻害薬などは脊髄後角に作用し痛みの活動電位を抑制します。抗うつ薬、ノイロトロピン、アセトアミノフェン、オピオイドなどは下行抑制系を促進し抑制系を強めることで痛みの活動電位を抑制します。 丸山一男先生によりますと、これらの薬の組み合わせのエビデンスはないものの作用機序の異なる薬剤を併用し治療効果を高める工夫が必要であるということでした。 |