先週、三重県臨床整形外科医会学術講演会があり出席しました。特別講演はまつした整形外科院長松下廉先生でした。松下廉先生は名古屋市立大学で骨軟部腫瘍、骨粗鬆症を専攻され、2012年9月に愛知県春日井市でまつした整形外科を開業された先生です。癌研究所や大学病院での長年の経験と、新たに開業された経験を踏まえて、大変参考になるお話しを聴かせて頂きました。 骨粗鬆症に関連する骨折は上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折、大腿骨近位部骨折、脊椎椎体骨折などがありますが、特に大腿骨近位部骨折と脊椎椎体骨折は生命予後を悪化させることが指摘されています。脊椎椎体骨折が3カ所以上あると死亡率が4倍にもなるというデータもあります。 最近では様々な薬物治療の進歩により諸外国では大腿骨近位部骨折の発生率が低下してきているのに日本だけ増加しているのは、世界一の超高齢化社会だけが原因ではなく骨粗鬆症に対して未治療の割合が高い(70~80%)ことが大きな要因です。治療が行われない原因としては、骨折を起こしても治療を行うことによって疼痛などの症状が消失してしまうことが考えられます。喉元過ぎれば熱さを忘れる、ということでしょうか。フィンランドでは国を挙げて骨粗鬆症の健診を勧め、治療を勧めることにより大腿骨近位部骨折の発生率低下の成果を上げているということです。このあたりは見習いたいところですね。 骨粗鬆症の治療薬で最も使用されることの多いビスフォスフォネート剤に関しては問題となる副作用としてビスフォスフォネート関連顎骨壊死や非定型大腿骨骨折があります。特にビスフォスフォネート関連顎骨壊死に関しては歯科治療の際に歯科から休薬を求められるケースが多いようです。ビスフォスフォネート関連顎骨壊死検討委員会によりビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパーが発表され、投与3年未満でありリスクファクターがなければ原則として休薬せず歯科処置を行うことが推奨されています。どの症例でも一律に休薬とはせず、リスクとベネフィットを考える必要がありそうですね。 副甲状腺(PTH)製剤はより高い治療効果の見込める骨粗鬆症治療薬です。注射薬であること(週1回製剤と1日1回製剤)と高価であること、副作用が比較的多いことなどが難点として挙げられます。松下廉先生によりますとそのアクセスの違いから大学病院ではほとんどの方が1日1回製剤(自己注射)を選択し、クリニックではほとんどの方が週1回製剤を選択されるということでした。松下廉先生はその経験から副甲状腺(PTH)製剤の副作用を回避するコツなどを教えて下さいました。 松下廉先生は一人の骨粗鬆症である患者様に対して一剤のみで治療することは困難で、使用する薬剤の順番やローテーションが大事であると指摘しておられました。確かに骨粗鬆症治療は長丁場です。ビスフォスフォネート剤は5から7年の投与に留めておくように推奨されているそうで、副甲状腺(PTH)製剤は2年または回数で投与期間が決められています。漫然と同じ薬を使うのは問題であると松下廉先生は指摘しておられました。患者様の人生トータルでの治療戦略という視点が必要なようです。 松下廉先生のまつした整形外科では骨粗鬆症だけではなくスポーツ整形外科、リハビリテーション科にも力を入れておられます。リハビリテーションルームと屋外訓練施設、そしてリハビリテーション機器、トレーニング機器の充実には目を見張るばかりです。スタッフも豊富で複数名の理学療法士とアスレティックトレーナーが活躍しているそうです。 松下廉先生は専門外来として「こぶ(しこり)外来」も掲げておられます。骨軟部悪性腫瘍治療の専門家として長年携わった経験上、「もっと早く診断がついて、治療が開始できていれば…」と何度も思われたそうです。それを元にプライマリーで多くの患者様を診ることにより、少しでも骨軟部悪性腫瘍の早期発見に繋げたいと思っておられるそうです。その心意気に大変感心致しました。 |