先日、名賀医師会臨床懇話会が開催され出席しました。特別講演は「骨粗鬆症に関する最近の話題」で講師は三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座運動器外科・腫瘍集学治療学教授須藤啓広先生でした。以前にも数度、須藤先生の骨粗鬆症に関する講演を聴かせて頂きましたが、いつも明快でわかりやすく大変勉強になります。 2012年に原発性骨粗鬆症の診断基準が変更になりました。骨折種にかかわらず既存骨折の存在による新規骨折の相対リスクは約2倍だそうです。一方、椎体骨折や大腿骨近位部骨折が存在する場合の新規骨折の相対リスクはそれを遙かに上回るということで、既存骨折のうち椎体骨折や大腿骨近位部骨折が存在する場合には骨密度と関係なく骨粗鬆症と診断され、その他の骨折の場合は骨密度が80%未満の例が骨粗鬆症と診断されることになりました。その他にも少し変更点があるようです。 椎体骨折の診断は通常レントゲン検査で行いますが、仰臥位での撮影では見逃してしまうことも多いようです。仰臥位と座位と双方でレントゲン検査をすることによって、診断精度が向上し見落としが減少したということです。これは参考になりますね。 超高齢化社会の日本では、現在骨粗鬆症の方は1280万人ともいわれています。また生活習慣病と骨折リスクの関連性が指摘されており、糖尿病、慢性腎臓病、閉塞性肺疾患、高血圧症、脳卒中、虚血性心疾患などでは骨折リスクが上昇すると言われています。椎体骨折があると、大腿骨近位部骨折の発生率が3倍になり生存率の低下にも繋がります。既存椎体骨折は骨折のドミノ現象を起こすと言えます。 各国における大腿骨近位部骨折の発生率は近年減少に転じているのだそうですが、日本だけが発生率が上昇し続けているというデータを紹介して頂きました。これはショッキングなデータですね!日本では骨粗鬆症の方1280万人のうち治療を受けておられる方は380万人、約30%だそうです。更に骨粗鬆症骨折の入院治療を受けて退院後も骨粗鬆症治療を継続しておられる方は19.6%に過ぎないそうです。 理想的には骨折を起こす前に骨粗鬆症治療を始めて、骨折受傷自体を防ぐことができればいいのですが、現実問題としてはなかなか困難です。骨折のドミノ現象を防ぐために、「STOP AT ONE」が提唱されています。つまり一度骨折を起こしてしまった場合、骨粗鬆症治療を行い二度目の骨折、骨折の連鎖を断ち切るということです。このように骨粗鬆症患者を確実に骨粗鬆症治療に繋げるために、骨粗鬆症マネージャー(リエゾンサービス)という取り組みがなされているそうです。リエゾンとは連絡係と訳され、診療におけるコーディネーターの役割を意味します。イギリス、オーストラリア、カナダではこの様なサービスが実施され、多職種連携による骨折抑制を推進するコーディネーターの活動により骨折発生率が低下し、トータルでは医療費の抑制にも繋がっているそうです。 これはとても重要な取り組みですね。骨粗鬆症はSilent diseaseとも言われています。超高齢化社会を迎える日本にこそ必要な制度ですね! |