先日、名賀医師会臨床懇話会が開催され、日本医科大学消化器内科学教授坂本長逸先生の「痛み治療におけるNSAIDSの問題点と可能性」という講演を聴きました。 NSAIDSは非ステロイド性抗炎症薬のことで日常的に頻繁に処方される薬であり、特に整形外科では処方されることが多いです。NSAIDSは大変有用な薬ですが、重大な副作用も散見され注意を要します。今回NSAIDSにより起こる副作用のひとつで、最も注意すべき消化性潰瘍に関して詳細な話を聴くことができました。 坂本長逸先生は来年開催される第100回日本消化器病学会の会長を務められる、日本の消化器病学の第一人者の先生です。 坂本長逸先生によりますと消化性潰瘍の主な原因としてはピロリ菌によるものとNSAIDSによるものが代表的ですが、近年NSAIDSによるものの割合が増加してきているそうです。その理由として、ピロリ菌の除菌も進んできたからということもあるそうですが、それ以外にもNSAIDSによる消化性潰瘍の危険因子を坂本長逸先生は指摘して下さいました。 NSAIDSによる消化性潰瘍が起こる危険因子は、60歳以上、腹部症状を有する、消化性潰瘍の既往歴、ビスフォスフォネート剤の合併、NSAIDS高容量や複数の服用などです。ビスフォスフォネート剤は、現在骨粗鬆症の方にかなり多く処方されているので要注意ですね。 また特記すべきはNSAIDS投与早期は長期投与より危険性が高いということです。投与期間が短いからといって、油断は禁物ですね。 NSAIDS服用の際には胃粘膜防御因子の同時服用は一般的ですが、リスクのある人には防御因子もあまり有効ではないということです。プロトンポンプ阻害薬は現在胃粘膜防御作用の最も強い薬剤ですが、これによっても小腸潰瘍などの下部消化管潰瘍は防げないということです。これもまた要注意ですね。 アスピリンを服用している方も大変多いですが、アスピリンとNSAIDSを服用すると危険性が増大するために、同時には服用しないようにする工夫なども必要のようです。 NSAIDSの種類によっても消化性潰瘍の発生率に差があるために、危険性が高い場合には十分考慮する必要性があるとのことでした。 私が以前に奈良県立五條病院で勤務しておりましたときに、奈良医大主体でやはりNSAIDS潰瘍に関する調査をしたことがあります。その時の結果を裏付ける様なデータを坂本長逸先生は数多く提示して頂きまして、大変参考になりました。 日常の診療にとても役立つ情報を得ることができ、大変有益な講演会でした。 |