先日、奈良教育大学において奈良教育大学トライアスロン医学セミナーが開催され出席しました。講師は奈良教育大学保健体育講座学校保健・スポーツ医学研究室教授笠次良爾先生でした。笠次良爾先生は奈良医大整形外科出身で、私と同門(奈良医大整形外科医局出身)になります。笠次良爾先生は自ら学生時代にトライアスロンにのめり込んで、現在スポーツ現場と学校現場をフィールドとして「傷害予防」に取り組んでおられる情熱あふれた先生です。今回、「熱中症ならびにSWIMの安全対策について」という講演を聴きました。ほとんどがトライアスロンに取り組んでいる現役の大学生に混って、聴講してきました。 今年の夏は非常に暑いみたいなので、熱中症についても盛んに報道されています。 スポーツ現場においても熱中症は非常に重篤な事故につながるのでしっかりとした対策が求められます。熱中症とは暑い環境(体内・体外両方)によって生じる様々な身体の不調の総称で、体内の暑い環境とは筋肉からの大量の熱発生や脱水で生じるそうです。 トライアスロンは水泳・自転車ロードレース・長距離走の3種目を連続して行う過酷なスポーツで、私自身経験はありませんが、綿密な準備と強靱な身体、精神、そして十分な体力が必須であろうと思われます。競技中熱中症を避けるためのポイントとして、まず体温を下げる努力をする。それには①定期的な水分補給、②身体に水をかけ直接冷やす③帽子にて頭部への輻射熱を遮ることが有効です。レース中に補給すべきものはまずは水分で体重減少が2~3%以内に収まるようにする必要があります。スタンダードディスタンス(51.5km)以上であれば、塩分補給が欠かせません。2時間以上の運動や急激に大量の発汗をした時には塩分補給が必要です。一般的なスポーツドリンクは塩分量が少ないので注意を要するようです。またレース前、レース前日からの給水が大切だそうです。暑熱馴化といって、暑さに慣れるのには1,2週間必要なので、急に気温が上がったときなどは要注意です。 水分摂取がしきりに強調されますが、2002年のボストンマラソンに出場した488選手中水分の過剰摂取で13%が低ナトリウム血症となり、一人の選手が死亡したということです。水分の過剰摂取は逆に危険なようです。 一般の方では、特に激しいスポーツをしていないのにスポーツドリンクを飲み過ぎて高血糖になるペットボトル症候群や、スポーツや肉体労働をしていてもスポーツドリンクを大量に摂取して血糖値が上昇し口渇が増強するためにさらにスポーツドリンクを飲み過ぎてしまうという悪循環に陥ることもあり、これも要注意ですね。 トライアスロンにおいてはオープンウオーターにおける水泳と長距離走でのゴール地点付近で死亡事故が起こることが多いそうです。何故、泳ぎに長けた選手が溺れることがあるのか私も理解していなかったのですが、泳げる人が溺水する原因は①冷水刺激による迷走神経反射説、②錐体内出血による平衡失調説、③気管内吸水による意識消失説、④ノーパニック症候群説、⑤不整脈説、⑥心疾患、脳血管疾患など基礎疾患の存在、⑦上記の因子の複合、等が考えられるそうです。運動中の突然死を予防するには、メディカルチェック、運動前健康チェック、環境条件チェック、十分なウオーニングアップ、クールダウン、初心者はいきなりオープンウオーターの大会に出場しない、などが大事です。 競技中の不幸な事故をなんとしてでもなくしたいという笠次良爾先生の強い思いが伝わってきました。笠次良爾先生の迫力は若い学生たちをも圧倒していて、相変わらずの大きな声量は講義室ではマイクも不必要な程です。笠次良爾先生の思いは学生たちに十分響いていたように見受けられました。 |