先日、伊賀・名張地区 疼痛を考える会が開催され、出席しました。講師は三重大学医学部麻酔集中治療学教授丸山一男先生で、「痛みのルートとバトンタッチ」という講演を聴きました。 2年前にも丸山一男先生の慢性疼痛に関する講演を聴き、身振り手振りの実演付きで大変わかりやすい講義であることが印象的でしたが、今回も難しい内容を明快に解説して頂きました。 痛みとは不愉快な、避けたい、嫌な、知覚的・感情的経験で、自身の経験していることを尋ね、その答えから推測する知覚・認識だそうです。有害刺激に対する反応として、組織障害を伴うか、組織障害の可能性がある場合に発生し、愛や空腹が測れないのと同様に、量的に測ることができないものです。 1本に見える神経には6種類の神経線維が含まれており、そのうちAδ線維とC線維が痛覚に関与しているそうです。この2種類の神経線維において伝導速度が異なります。そこで怪我をするとまずはっきりした鋭い局所の明瞭な痛みを起こし,次いで1秒くらいしてから鈍い,うずくような不快な感じを起こすそうです。またC線維の電気刺激は視床下部をも抑制し、抑うつ状態になるそうです。そういえば、痛みがあるときには誰しも自然と不機嫌になってしまいますね。それは自然な成り行きです。 この様に痛みは電気的変化であり、治療としては神経での活動電位の発生を抑えることで、全ての治療薬は間接的・直接的に痛みの活動電位を抑制することを目的としています。現在、様々な疼痛に対する治療薬が開発されていますが、作用機序の異なる薬剤を併用し、治療効果を高めることが肝要です。しかしながらどの薬剤の組み合わせが最も効果的であるかなどの明確なエビデンスはないので、個々の症例で検討を重ねる必要があるということです。このあたりが難しいところですね。 C線維を活性化する痛み刺激が持続すると、脊髄後角細胞の発火が増強し、これをWind up現象というそうです。これは例えば同じ所を叩き続けると、だんだん痛み閾値が下がってきて痛みの程度が増強し我慢できなくなるという現象です。慢性疼痛の場合はしばしばこのWind up現象が起こっている状態になっているようです。この場合は一旦痛みの悪循環を断ち切ることが有効です。これには局所麻酔剤注射などの治療が有効だそうです。これは整形外科外来治療でトリガーポイント注射(圧痛点注射)や各種の神経ブロックとして行います。よく痛み止めの注射は一時的な効果でしょう、と患者様から質問されます。確かに局所麻酔剤の作用時間は数時間ですから注射をしてもすぐに効果が消失してもおかしくはないのですが、実際には個人差はありますが数日あるいはもっと効果の持続する方も多いです。痛みの悪循環を断ち切る方法のひとつとして、トリガーポイント注射などもうまく利用すると有効であると思われます。丸山一男先生は積極的なトリガーポイント注射の活用を勧めておられました。 |