頸椎は脊椎と呼ばれる背骨の首(頚部)の部分にあたる7つの骨の部分を言います。運動方向は大きく分けると①首がうなずく動作(屈曲)、後方に反らす動作(伸展)②首を横に振る動作・左右にまわす動作(回旋)③首をかしげる動作・横に反らす動作(側屈)に分かれます。
その中でも1番目の環椎と2番目の軸椎とで構成される環軸関節は主に回旋だけに関与しています。屈曲・伸展は環椎と後頭骨の関節、頸椎全体で作用しています。側屈は環軸関節以外の3番目から7番目の頸椎で主に作用しています。頸椎の高位、低位の位置により作用・働きは分別されています。
リハビリテーション室長 見田忠幸
第28回奈良県スポーツ医・科学研究会、奈良トレーニングセミナー2015での講演Ⅱは「筋トレに関する誤解 医療現場からのアドバイス」で講師はJCHO東京新宿メディカルセンター整形外科部長柏口新二先生でした。柏口新二先生はスポーツ外傷、障害、肘、膝の外傷、障害、関節鏡手術などの大家で、スポーツ医学の第一人者の一人です。現在のトピックは「子どもの運動器検診の普及」と「中・高齢者の健康作り」だそうです。発育期の障害は手術で治すのではなく、障害を作らない“予防”が第一で、次いで検診による“早期発見”が重要と述べておられます。幅広い視点で様々な年齢層に着目し、ご活躍の場を拡げておられます。今回、柏口新二先生はスポーツ医の立場から筋トレに関する誤解を解説してくださいました。
柔道における筋トレの意義は「柔よく剛を制す」「力に頼っては技が身につかない」「柔道に必要な筋力は柔道の稽古だけで身につく」など、かつてはやや否定的な考えもあったのかもしれません。柏口新二先生によりますと、柔道創始者嘉納治五郎師範は「柔剛一体」つまり「バランスよく業(柔)と、剛(体力)を鍛える」と説いたそうです。また柔道全日本強化選手・指導者へのアンケート調査により「競技に役立つ筋力を養いたい」「競技に直結する筋トレ」など肯定的な意見が多かったそうです。
野球であれば投球フォームを模倣した形態の筋トレもありますが、不安定な姿勢で行うために大きな負荷をかけられない、競技動作とトレーニングの動作パターンが異なるなども問題点もあり、競技動作に負荷をかける筋トレはないと解説してくださいました。また標的筋肉にしっかりと負荷をかけるための条件としてトレーニング姿勢が安定していること、関節などに無理な負担がかからない生理的な動きであることなどを挙げられ、筋トレにはその目的に即した固有の最適なフォームがあり動き作り、スキルとは分けて考える必要があるということでした。
筋肉の機能で考えると、支点を作るStability muscleと力源となるMobility muscleに分けられますが、パフォーマンスの向上のためにはしっかりとした支点の確保と大きな力源を得ることが重要で、両方の強化と強調が重要であるということです。Stability muscleが注目されるようになった経緯と背景は、効率よいトレーニングマシンの開発と一部ドーピングによる筋力増強などで驚異的な筋肥大や強化が進み、問題解決のために医師やトレーナーの対応として弱いStability muscleだけが問題視されたそうです。こういった背景や経緯が伝わることがなかったためにStability muscleの重要性が誇張され、従来は肩の障害治療や術後の後療法の一つであった「腱板のリハビリ」が必要以上に強調され“インナーマッスル神話”ができたのではということでした。こういう経緯や背景を知ると、なるほどという感じですね。
柏口新二先生は、重要なことはトレーニングの目標を明確にすることであると述べられました。つまり筋力を強くするトレーニングと動き作り(筋力の使い方)は分けて考える、どちらかが大切かという問題ではなく、その選手にとってどちらが必要かということ、一石二鳥で行おうとすると両方とも中途半端になることが多いということでした。
アスリートの肘内側痛の原因として「上腕三頭筋が発達し過ぎて尺骨神経の障害が起こるという話がありますが、柏口新二先生によりますと尺骨神経の圧迫・牽引性障害は上腕三頭筋の肥大そのものは主因ではなく解剖学的な問題を有する選手が筋トレをすることによって障害を生じたり、あるいは筋トレによって構造上の異常が生じて障害が起きるということでした。
柏口新二先生は整形外科医への提言として、新しいトレーニング理論や方法が出るが、それは枝葉のことが多くトレーニングの本幹(本道)を忘れてはならない、整形外科医は運動器治療の専門家としてトレーニングについても研修する必要がある、スポーツやトレーニングを実践し、動きのメカニズムを体感する必要があるとアドバイスされました。重い言葉だと思います。
柏口新二先生は講演に先立ちまして整形外科医の立場として、スポーツを専門とされている方もおられる中で筋トレの話をするのは、私も筋トレが好きで実践しているからだと述べられました。最先端の治療から予防医学、そして自ら筋トレ実践と、柏口新二先生はまさにスポーツ医学界のリーダーであると思いました。
先日、第28回奈良県スポーツ医・科学研究会、奈良トレーニングセミナー2015が開催されました。講演Ⅰは「生理学・解剖学からみた筋トレの基本とよくある誤解」で講師は近畿大学生物理工学部人間工学科准教授谷本道哉先生でした。谷本道哉先生は日本オリンピック委員会医科学スタッフ、日本ボディビル連盟医科学委員なども務められ、著書でスロトレなどの筋トレを紹介され、テレビ放映などでも運動の効果をわかりやすく解説しておられます。また自らもトレーニングを実践され、見事に鍛えられた肉体は何より説得力があります。その筋トレのエキスパートである谷本道哉先生が筋トレの基本とよくある誤解についてわかりやすく解説してくださいました。
谷本道哉先生によりますと筋力トレーニングを実施する主目的は、競技練習だけでは得られないハイレベルの筋肥大・筋力増強効果を得るためであり、これを補強トレーニングといいます。そのためには競技練習で筋肉に受ける以上の刺激、つまりオーバーロードをかけなければならないということです。リハビリテーションやサルコペニア予防を目的として行われる場合も、日常生活で受ける以上の刺激でオーバーロードをかけて効率よく筋を発達させる必要があるそうです。これは一見当然のことに思えますが、スポーツ界ではプロスポーツにおいても様々な言い伝えや迷信?があります。例えば「競技で使える筋肉は競技練習でつける。」とか「試合の心拍数に合わせて走る。」などです。これらは試合や競技において実践的に活かせるように思え一見良さそうに思えます。しかしながら形だけ模倣しても競技動作とは異なる筋トレ固有の動作であり、標的の筋肉にしっかりと負荷をかけるためには筋トレにはその目的に即した固有の最適なフォームがあるということです。ただし筋トレだけではパフォーマンスアップには繋がりにくく、スキルを高めるトレーニングも当然必要となります。
谷本道哉先生はその他にも様々な誤った情報が多いことを指摘されました。例えばインナーマッスルという都市伝説、筋トレでつけたアウターは使えない、インナーこそ使える筋肉、インナーは軽負荷で、高負荷になるとアウターばかりのトレーニングになる、ボディビルの筋肉はアウターばかり、インナーは鍛えられない、体幹トレーニングはインナーが鍛えられる、安定したマシンはインナーが鍛えられない、不安定なフリーウエイトの方がインナー強化に有効である…などなど。これらはすべてイメージであり、誤りであると谷本道哉先生は解説してくださいました。トレーニングの王道は筋トレ、パワー発揮トレ、持久トレ、スキルトレであり、それ以外のインナー強化、体幹トレーニング、ファンクショナルトレーニングはあくまで+αの位置づけであると谷本道哉先生は述べられました。流行や誤った情報に流されがちな現在の情報社会に谷本道哉先生は警鐘を鳴らされます。
谷本道哉先生はテレビの情報番組でご自身のトレーニングに関して問われ、1日20分、週に3~4回と答えておられます。今までの蓄積があってこそでしょうけれど、これだけの短時間でこの立派な肉体を維持されているのはスゴイと感心致しました。
アキレス腱断裂の受傷好発年齢は、30~40代であり、若年層ではスポーツによる受傷が多く、高齢層では、日常生活の中で受傷することが多いと言われています。アキレス腱断裂の病態として、足関節に急激な伸張ストレスが加わったときに受傷しやすく、踵の骨から数cm上の部分で断裂することが多いです。
アキレス腱断裂の症状として、断裂部分に陥凹があり、触れると痛みを伴います。また、トンプソンテストが陽性となります。トンプソンテストとは、腹臥位(うつ伏せ)で膝関節を90°屈曲した状態で下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)を強くつまむと、正常では足関節が底屈するのに対して、断裂していると底屈しなくなります。
受傷後は、断裂部を縫合する手術療法を行うか保存療法を行うか選択をし、理学療法を行います。理学療法は、腱の修復過程を考慮しながら可動域や筋力の改善を図っています。
リハビリテーション科 服部 司