2017 年 8 月 のアーカイブ

「医療的ケアを必要とする学童の現状と課題 -医療の視点から見えること-」

2017年08月11日(金) 院長ブログ

写真

先日開催された伊賀地区学校保健研修会の講演(2)は「医療的ケアを必要とする学童の現状と課題 -医療の視点から見えること-」で講師は三重大学医学部附属病院小児トータルケアセンター長岩本彰太郎先生でした。小児トータルケアセンターは在宅医療を必要とする子どもと家族に対する訪問診療・訪問看護活動、地域機関との連携、情報交換による小児在宅医療支援システムの構築などの業務をおこなっているそうです。岩本彰太郎先生は医師、看護師からなるスタッフを統率する小児トータルケアセンターの責任者であるということでした。

岩本彰太郎先生によりますと医療的ケアを要する重症児の基礎疾患発生時期は出生前が52%、出生時が13%、新生児期が24%、自宅生活時が11%であり、89%は新生児期に障害が確認されているそうです。それぞれの患児のライフステージに沿った個別の教育支援計画などの個別支援が必要であるということでした。乳児および新生児死亡率は医療の進歩に伴い年々低下し、平成21年には出生千例あたり乳児死亡率が2.4人、新生児死亡率が1.2人であるそうです。これは世界でもトップクラスの低さであるそうです。全国でも三重県でも出生時体重2500g未満の低出生体重児出生割合は年々増加してきており、1500g未満の極低出生体重児出生割合は三重県で平成16年から平成21年にかけて0.5%超から0.7%超へと徐々に増加してきているそうです。また在胎35週未満の出生児数の年次推移も増加しており、全出生数が1576889例から1070035例と減少しているのに、24~27週が1818例から2254例に、22~23週が106例から458例へと逆に大幅に増加してきているそうです。母の年齢別にみた年次別出生数および出生割合は元々20歳代が最も多かったのが、2009年のデータでは20歳代が39.7%、30歳代が56.0%とピークが30歳代に変化してきているようです。男女別の低体重(やせ)の人(BMI<18.5)の割合はどの年代でも女性の方が高い傾向がありますが、特に女性の30歳代以上で低体重の人の割合がこの増加きているようです。母の年齢階級別では低出生体重児出生割合が年々増加しているそうで、特に40歳以上では著明に増加していくようです。

岩本彰太郎先生はNICU(新生児集中治療室)についても紹介してくださいました。NICUでは以前には保育器は閉鎖式保育器を使っていたそうですが、現在では開放式保育器に変更しているそうです。37週まではお腹の中の環境に近づけるとして、遮光カバーなどを用いて音や光の刺激を抑える工夫もしているそうです。岩本彰太郎先生によりますと小児の発達は胎児期から始まっているのですが、中枢神経などでは妊娠週数3週から奇形誘発因子に非常に敏感な時期となり障害により主要な形態的異常をきたしてしまうそうです。他の主要な臓器も妊娠週数4週から奇形誘発因子に非常に敏感な時期となるそうで、妊娠の初期から非常に重要な時期であるということがわかります。

医療的ケアとして使用する器械、器具は在宅呼吸器、酸素モニター、在宅酸素、気管カニューレ、導尿カテーテル、吸痰器、経鼻胃管チューブ、胃瘻チューブ、ネブライザーなどが挙げられるということです。岩本彰太郎先生によりますと医療的ケア児の全国推移は徐々に増加傾向にあり、平成17年には9403人であったのが平成27年には17078人と増加しているそうです。医療ケア児のうち在宅呼吸器児も増加しており、0歳から4歳の在宅呼吸器児は平成17年には264人であったのが平成27年には3069人と増加しているそうです。三重県の平成28年度のデータでは0~20歳の医療的ケア児は230人で、そのうち人工呼吸器児は39人であるということでした。0~20歳の医療的ケア児は230人のうち就学児は40%、特別支援学校卒業生は4%で、56%は未就学児であるそうです。全国的に見れば義務教育段階の全児童生徒数は平成27年5月1日現在1009万人で減少傾向にありますが、特別支援学校には約7万人0.69%(平成17年比で1.3倍)、小学校・中学校の特別支援学級で約20万1千人2.00%(平成17年比で2.1倍)、通常の学級での通級による指導で約9万人0.89%(平成17年比で2.3倍)、合計で約36万2千人3.58%と増加しているそうです。医療的ケアを含む障害のある児童の就学決定は学校教育法で定められており、学校等の施設設備等の状況などの基礎的環境整備、ソフト、ハード面での個への対応状況など合理的配慮をふまえて個別の教育支援計画の作成・活用をしながら総合的判断をし、就学先決定後も柔軟に就学先を見直していくということでした。

医療的ケアは1979年に養護学校の義務化に伴い就学猶予、就学免除されてきた子どもたちが学校に通うようになり、学校の対応として必要となってきました。医療的ケアはリスクの高い看護師が実施する医療行為(医行為)からリスクの低い非医療者が実施する生活援助行為まで様々あり、口鼻腔吸引、気管カニューレ内吸引、経鼻経管栄養注入、胃瘻注入、腸瘻注入などの行為はその中間くらいの行為であり個別判断により行われるものであるそうです。岩本彰太郎先生によりますと学校スタッフにより医療的ケアが行われることの意義・必要性には教育的意義、医療的意義、福祉的意義があるそうです。学校において日常的に痰の吸引や経管栄養などの「医療的ケア」が必要な児童生徒が増加しているので、平成28年4月から施行される障害者差別解消法等を踏まえ、医療的ケアを必要とする児童生徒の教育の充実を図るため、これまで特別支援学校を対象としていた看護師配置補助について、小学校・中学校等を追加するとともに人数の拡充を図る特別支援教育専門科(看護師)配置事業が平成28年度から始まったそうです。

岩本彰太郎先生によりますと、親にとって子どもが障害を持つということは、染色体異常などの出生前の要因によるものや早産、低出生体重、仮死などの周産期の要因によるものであれば、思い描いていた「こども」を喪失することで、「自分のせいでこうなった。」、「元気に産んでやれなかった。」「何か悪いことでもあったのだろうか。」などと考えてしまいがちであるということです。また脳炎後後遺症などの出生後の要因によるものであれば、元気で一緒にいた「こども」を喪失することで「自分のせいでこうなった。」、「自分が気づいてやれなかった。」、「もっとこうしていれば」などと考えてしまいがちであるということでした。家族がこどもの障害と向き合う過程には、紆余曲折があるがいずれは障害のある子どもを受容する場合や、親の悲しみは続き、子どもの成長に伴う転換期において繰り返し経験される場合や、否定(落胆)と肯定(適応)を繰り返しながら受容していく場合などがあるそうです。家族の障害受容の側面には4つの要因があり、わが子の受容、家族の問題の受容、親自身の人生の受容、社会受容であるそうです。わが子の受容としては障害に対する疑問や不安と、障害の内容と理解、子どもの現状への理解、子どもの人生の受け入れなどがあり、家族の問題の受容としては、兄弟児との関係・問題、家族間の理解、経済問題などがあり、親自身の人生の受容としては、親の思い(あるべき人生)、親自身の生活、親の加齢と健康に関わる問題などがあり、社会受容としては、教育の保証(統合教育など)、学齢終了後の社会生活の保証(社会参加)、地域社会の理解と協力(支援)、子どもと家族のあたりまえの生活、社会福祉の支援が整備されるための親の行動や活動(仲間づくりとエンパワーメント)などがあるそうです。患者・家族中心のケアとしてヘルスケア提供者・患者・家族の間で相互に有益なパートナーシップを築くことが重要であり、要点は尊厳・尊重、情報共有、参加、協働であるということでした。

日本医師会におきまして小児の在宅療養について課題の整理と対応、方策を検討し、国や関係各方面に提言を行うために2016年10月に小児在宅ケア検討委員会(プロジェクト)が発足したそうです。岩本彰太郎先生によりますと三重県でも重症児連携地区拡充のために三重県南部医療的ケア地域支援連絡会議“みえる輪ネット”が済生会明和病院なでしこに事務局をおいて組織されているそうです。

岩本彰太郎先生は最後に、どんなに重い病気を抱えた子どもでも社会参加できる町創りを目指して!とおっしゃっておられました。岩本彰太郎先生の熱意と地道な努力に感嘆いたしました。

リハビリ通信 No.238 エアコンをつけて寝ると朝だるいのはなぜか?について

2017年08月07日(月) QAリハビリテーション科1新着情報

絵

人間は深部熱が体の表面、皮膚に放散され深部体温が下がった時にスムーズに入眠できます。睡眠中は深部の体温が放熱し体温が冷えやすくなります。睡眠中に汗をかけば汗の蒸発により更に体温が奪われます。体温が下がりすぎる事も、だるさ要因と考えられます。夜明け頃、深部体温は最も低下していますが、表面の皮膚の体表温度は深部からの熱の発散で上昇しています。朝の覚醒は深部温度と体表温度の差が小さい程スッキリと起きる事ができます。つまり暑いと深部体温が下がりにくく寝付きにくい、しかし、寒いと皮膚温が冷えすぎだるくなります。この2つの特性を上手にバランス良く組み合わせる事が重要だと考えられます。

対策として寝付き時は睡眠サイクルを考え、3時間程、冷房時間が必要です。もし一晩中、冷房を続けるならば高めの温度で26〜28℃、または夜中の3〜4時頃にタイマーを設定します。また、送風の強さを下げ、氷枕を使用する(頸動脈が冷やされ放熱を促進し深部体温が下がる)、吸湿性優れた長袖・長ズボンの寝間着を使用などの工夫をします。

リハビリテーション室長 見田忠幸

第1回医科・歯科合同研修会

2017年08月06日(日) 院長ブログ

写真

本日、三重県医師会館におきまして第1回医科・歯科合同研修会が開催され出席いたしました。講演1は「観血的処置時の抗血栓薬への対応」で講師は三重大学大学院医学系研究科循環器・腎臓内科准教授山田典一先生でした。

止血機能は出血を止める生体の防御反応で、不適切に過度に起こると病的血栓形成を招き、血流障害へとつながります。山田典一先生によりますと、脳血管で生じると脳梗塞、左心房(心房細動)、機械弁、心室瘤などで生じると脳塞栓症、全身塞栓症、心臓冠動脈で生じると心筋梗塞、末梢動脈で生じると四肢壊死、深部静脈で生じると深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症へとつながるそうです。抗血栓薬の使用目的と関連疾患について、動脈血栓は白色血栓(血小板血栓)で虚血性心疾患、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞などの疾患で起こり、治療薬はアスピリンなどの抗血小板薬であり、静脈血栓は赤色血栓(フィブリン血栓)で静脈血栓塞栓症、心房細動に伴う心原性脳塞栓、全身性塞栓症などの疾患で起こり、治療薬はワーファリンなどの抗凝固薬であるということです。わが国で使用可能な抗凝固剤はワーファリンの他にDOACと呼ばれる薬剤であるそうです。DOACはワーファリンよりそれぞれ半減期が短いという特徴もあるようです。山田典一先生によりますと日本循環器学会作成の循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドラインにおいて、抗血栓療法の適応は脳梗塞のうちアテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞などの非心原性脳梗塞の場合にはアスピリンなどの抗血小板療法が選択され、心房細動、左室血栓、急性心筋梗塞、人工弁置換などの心原性脳梗塞症はワーファリンやDOACなどの抗凝固療法、急性肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症などの静脈血栓塞栓症の場合はDOACなどの抗凝固療法が選択されるそうです。循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドラインや心房細動治療(薬物)ガイドラインにおいて至適治療域にPT-INRをコントロールしたうえでのワーファリン内服継続下での抜歯、白内障手術や抗血小板薬の内服継続下での抜歯、白内障手術はクラスⅡaで推奨されるということでした。消化管内視鏡や手術の場合でも出血軽危険度の場合は抗凝固薬や抗血小板薬も継続して行うが、出血高危険度の場合は休薬や代替薬の考慮が必要であるということでした。ワーファリン療法の代替として未分化ヘパリンを投与する方法をヘパリン橋渡し療法(ヘパリンブリッジ)というそうです。

科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドラインでは、ワーファリン服用患者で、原疾患が安定しINRが治療域にコントロールされている患者では、ワーファリンを継続投与のまま抜歯を行っても重篤は出血性合併症は起こらないことが推奨されており、逆にワーファリンを抜歯時中断した場合、約1%の患者において重篤な血栓・塞栓症が発症し、しばしば死の転帰をとる、と述べられているそうです。

出血リスクからみた手術・手技の分類では、抗凝固薬の中止が必要ではない手術・手技として、歯科治療では1~3本の抜歯、歯周外科治療、膿瘍切開、インプラント・ポジショニングなど、眼科治療として白内障、緑内障治療、手術を伴わない内視鏡、体表面の手術(腫瘍切開、皮膚の小切除など)が挙げられるそうです。出血高リスクの手術・手技としては、左側の複雑なアプレーション(肺静脈隔離術、心室頻脈)、脊髄麻酔、硬膜外麻酔、腰椎穿刺(診断目的)、胸部手術、腹部手術、整形外科の大手術、肝生検、経尿道的前立腺切除術、腎生検などが挙げられるそうです。出血高危険度の場合にワーファリン単独投与の場合にはINR治療域であるかヘパリンブリッジまたは一時的DOAC変更が考慮され、DOAC単独投与の場合には当日休薬またはヘパリンブリッジが考慮されるということでした。DOACの場合には、ピーク期を避けることも重要であるということでした。

山田典一先生はインフォームド・コンセントの重要性を指摘しておられました。抗血栓薬休薬に伴う血栓症発症のリスクと抗血栓薬継続投与に伴う出血のリスクについて患者と家族に十分なインフォームド・コンセントを行うことが重要で、抗血栓薬休薬していても出血が起こる可能性がことや抗血栓薬継続していても血栓や梗塞が起こる可能性があることも説明が必要であるということでした。

山田典一先生は抗血栓薬の観血的処置(手術)時の安易な中止は重篤な血栓症発症につながりかねず厳に慎むべきであり、観血的処置や手術時の抗血栓薬の取り扱いは、抗血栓薬を投与する医師と処置(手術)を行う医師とが情報を共有し個々の症例について中止に伴う血栓症発症リスクと出血リスクを十分に考慮して慎重に決定するべきであると述べられました。抗血栓薬中止に伴う血栓症は機能的予後不良であることから休薬しないことを基本とし、出血の高リスク群ではヘパリンブリッジを行い対処すると山田典一先生は述べられました。

山田典一先生の懇切丁寧な説明に、会場におられました歯科医師会、医師会両方の先生方が観血的処置時の抗血栓薬への対応に理解を深められた様子でした。この様な合同研修会は歯科・医科の相互理解を深め、共通認識を持ち、情報を共有するために有意義であると思われました。

待ち時間のお知らせ(7月31日~8月4日)

2017年08月06日(日) 待ち時間のお知らせ1新着情報

7月31日~8月4日

第10回日本足の外科学会教育研修会

2017年08月05日(土) 院長ブログ

第10回日本足の外科学会教育研修会

本日、名古屋で第10回日本足の外科学会教育研修会が開催され、参加いたしました。日本足の外科学会教育研修会委員長は早稲田大学スポーツ科学学術院の熊井司先生です。

朝から夕方まで密度の濃い講義ばかりで、知識の整理にもなり、大変勉強になりました。講師の先生方、本当にありがとうございました。今日得た知識を今後の診療に活かしていきたいと思っています。

本日は、クリニックの診療をお休みさせていただきました。ひょっとしたら休診であることをご存じでなく、来院された方もおられるのかもしれません。申し訳ございません。ご迷惑をおかけいたしました。