先日名古屋で2つの講演会があり、聴いてきました。
講演1は東京大学整形外科准教授川口浩先生の「骨粗鬆症新薬ラッシュの中での治療戦略 -骨形成促進剤の位置づけ-」でした。
要介護の原因となってしまう骨粗鬆症を治療、予防するための薬物療法は最近進歩していますが、川口浩先生は明快に治療戦略について解説して下さいました。
骨粗鬆症の定義は、かつては骨量の低下であったが、今では骨強度の低下だそうです。骨強度の危険因子として、骨量、骨代謝回転、骨質などが挙げられるが、骨代謝回転がかなり重要な要素であるようです。
骨粗鬆症治療薬としてよく用いられる経口ビスフォスフォネート剤では顎骨壊死、非定型大腿骨骨折などが合併症として問題になりますが、これらについても解説して下さいました。どちらも頻度としては低いので薬剤の使用はリスクとベネフィットを天秤にかけてということになります。顎骨壊死の頻度が低く、骨折の危険性を低下させるというベネフィットのために、米国などでは歯科治療中でも経口ビスフォスフォネート剤を中止する必要はないという見解だそうですが、日本では3ヶ月間の休薬が勧められています。このあたりは国民性の違いですね。
最近では、骨形成促進剤(注射のみ)も開発され治療選択の幅が拡がってきています。ガイドラインやエビデンスだけでは計れない骨粗鬆症治療薬の使い分けを、川口浩先生は明確に示して下さいました。
栗山英樹監督の「覚悟 理論派新人監督は、なぜ理論を捨てたのか」を読みました。
日本ハムファイターズの監督として1年目からリーグ優勝を成し遂げた栗山英樹監督ですが、確か下馬評は低かったですね。日本ハムファイターズからは絶対的エースのダルビッシュ有が抜けて、ドラフト1位の投手にも入団を拒否されて、何より栗山英樹監督に現場の実績が全くないことが評価を随分低くしていたようです。それがふたを開けてみれば見事に接戦を制してのリーグ優勝、それに至るまでの一人一人の選手とのやりとりや心の交流が本書では生き生きと伝わってきます。
理論派の新人監督が‘理論を捨てた’、とタイトルでは言っていますが、本文では「理論を持った上で、それに固執しないこと、肌感覚を敏感にさせることこそが、勝利のために必要だったのだ。」と栗山英樹監督は述べておられます。
栗山英樹監督は初めて監督を経験して一番の衝撃は、プロ野球という存在そのものが衝撃だったと述べておられます。毎日が苦しい、一日中苦しいと…。そして毎日自分にこう言い聞かせているそうです。「明日はいいが、今日だけは全力を尽くせ!」
栗山英樹監督は現役最後の年に、新しい監督としてスワローズにやってきた野村克也監督に「覚悟に優る決断なし」と教わったそうです。そして野村克也監督は、覚悟するこということは、結果を全て受け止める心構えで、迷いなく勝負に挑むということ、それを持って前へ突き進めと選手達に説いたそうです。栗山英樹監督は少しでも自分のためを考えたら、それは覚悟ができていないということだと述べておられます。
最後まで感謝の言葉で締めくくっておられる栗山英樹監督が、理論と情熱と人心掌握術によって、経験に優る強敵に競り勝ったということも納得できるように思えました。
皆様、是非お読み下さい。
四日市で行われた講演会の特別講演は大阪保健医療大学スポーツ医療学研究所教授中村憲正先生の「スポーツにおける軟骨損傷治療のパラダイム 現在と未来」でした。
スポーツ選手における軟骨損傷はスポーツ選手生命に関わる機能障害を生み、難治性であることから有効な治療法の開発が待望されています。その期待のためか、本研究会には大変多くの方が出席しておられたようです。
関節軟骨は無血管組織なので自己修復能力はきわめて低いです。また重度の軟骨損傷は将来的に高率に二次性関節症へと進行してしまいます。
現在の軟骨修復のオプションは①間葉系幹細胞の刺激、②代替物による置換、③細胞移植治療、などであるそうです。間葉系幹細胞の刺激としては、micro fractureなどの骨髄刺激法などがあり、約60-80%の症例で有効で、約半数がスポーツ復帰可能であるが、2,3年後には悪化することが多く、30-50%の病巣内に骨棘形成などが認められたということです。代替材料による置換としては、Mosaicplastyなどの自家軟骨移植などがありますが、ドナー側の障害の問題があります。
中村憲正先生は新しい方法として三次元人工組織(TEC)の作成に成功し、これは強い接着性を持ち移植部位に短時間で生体的に結合するそうです。軟骨損傷症例に対して、関節鏡視下に滑膜などを採取し、細胞培養センターで間葉系幹細胞を培養し、作成したTECを軟骨損傷部に鏡視下に移植することで軟骨修復を得るという臨床応用を目指しているそうです。
実現すれば画期的な治療方法ですね!
先日四日市で講演会があり出席しました。
一般講演は市立四日市病院整形外科医長三矢聡先生の「骨盤骨折の治療 -救命から再建まで-」でした。
骨盤骨折は交通外傷や高所からの転落事故などの高エネルギー外傷によって生じます。整形外科の外傷の中でも最も重篤な状態に陥る危険性を孕んでおり、通常は救命救急センターなどの三次救急施設で治療されます。
骨盤骨折でも特に不安定型骨盤輪骨折の場合には大量出血を伴う場合が多く、まず救命処置が優先されます。三矢聡先生は早期の治療としてPelvic Binder(骨盤周囲を圧迫する器具)、骨盤創外固定(骨盤を体外で仮固定する器具)、動脈内塞栓術(放射線科により行われます。)、ガーゼパッキング(直接出血部をガーゼで止血する方法)などを紹介して下さいました。1週間ほど経過して全身状態が落ち着いてから内固定器具を用いた手術治療を施行しています。
この様な重傷の骨盤骨折は三重県下でも毎年360例から540例も起こっているそうです。市立四日市病院でも年間24例もの手術治療が行われているそうです。三重県の三次救急は、三矢聡先生達の努力によって支えられていますね。