肩関節の運動動作は複合的な運動の組み合わせにより成り立っています。
日常生活の実際の動作では上肢を挙上・降ろす動作(屈曲・伸展)と外側から挙上・降ろす動作(外転・内転)と内側・外側に回す動作(内旋・外旋)が協調し合い一つの動作として成り立っています。
例えば手のひらを内側に向け腕を伸ばし挙上、そして、外に手を拡げながら意識して手のひらは上向きに降ろす時(内転動作)、最後は「気をつけ」の変則的な姿勢(手のひらは外に向け母指は後方つまり最大外旋位)になります。しかし、挙上から外に手を拡げながら無意識に手を降ろすと内側に自然と手のひらを回しながら(自動回旋)上肢を降ろし最初の「気をつけ」の姿勢になります。つまり、無意識に効率よく複雑な運動を実施しています。
肩関節は自由度の高い関節であるのと同時に、日常生活の場面では効率よく必要な動作だけが出来るように柔軟に対応しています。
リハビリテーション室長 見田忠幸
先日、名賀医師会臨床懇話会が開催され、特別講演は三重大学家庭医療学教授竹村洋典先生の「プライマリ・ケアで知っておきたい睡眠障害のメカニズムとその治療方法」でした。
睡眠障害でお困りの方は結構いらっしゃいます。睡眠障害を主訴として整形外科クリニックを訪れる方はおられませんが、いや実は睡眠障害でも困っているんだと打ち明けて下さる方は少なからずおられます。そのために大変興味を持って講演を聴かせて頂きました。
睡眠の種類には深い睡眠と浅い睡眠の2種類あって、一回の睡眠でそれを繰り返しています。深い睡眠をノンレム睡眠といい、浅い睡眠をレム睡眠といいます。夢を見たりしているのは浅い睡眠のレム睡眠の時です。
日本人の睡眠時間は生活環境の変化などにより1960年には平均8.4時間であったのが、2005年には平均7.5時間と減少しているそうです。またデータによると65歳以上の高齢者の男性は30%、女性は50%が不眠で、全体でも約20%睡眠についての悩みを抱えているそうです。
問題は不眠症と生活習慣病との関連で、不眠症は高血圧症、糖尿病、肥満、脂質代謝異常症のリスクファクターであり、特にノンレム睡眠の眠りが浅くレム睡眠が頻繁に起こる不眠との関連が指摘されています。
睡眠障害の治療は国民性が出るようで、日本人が眠れないときは(1)何もしない44%、(2)寝酒30%(世界一多い国民)、(3)処方薬17%、(4)市販薬7%という方法をとるそうです。諸外国ではアルコールに頼るのは10%くらいで、40%くらいは医師に処方薬を出してもらうそうです。またカフェインを控えるといった工夫も諸外国の方が高いようです。アルコールに頼ると睡眠自体が浅くなってしまい利尿作用もありますので、睡眠障害の対処方法としてはあまり得策とは言えないでしょうね。他にも色々と弊害もあろうかと思います。
睡眠障害の改善にはまず原因を取り除くことが第一です。原因としては身体的原因として加齢、疼痛、掻痒感、尿意、呼吸困難など、心理的原因として心配事、ストレス、恐怖心など、精神的原因として不安障害、気分障害など、薬物的原因としてカフェイン、タバコ、アルコール、各種医薬品など、環境原因として寝室の環境、交代制勤務などが挙げられます。日本茶はコーヒーよりもカフェインが多いので要注意ですね。
睡眠衛生を整えても効果のない場合は、薬物療法が勧められます。睡眠薬は種類が多くありますが、睡眠障害の質(入眠障害、中途覚醒、早期覚醒)による使い分けが必要です。また高齢者の場合は特に転倒、転落の原因になることも多いので注意が必要ですね。睡眠薬の副作用として、内服後のことを忘れてしまう健忘があるために就寝直前の内服が望ましく、またアルコールとの併用で血中濃度が著しく上昇することが知られています。
睡眠衛生として推奨されることは、入眠前の食事は控える、入眠前の入浴は控える、入眠前の運動は控える、温かい飲み物によって体温降下を起こすとよい(体温が下がると眠たくなるから)などであるそうです。
これにはビックリしました。私は時々、帰宅後ジョギングし入浴、食事し、冷たいビールを飲んですぐに就寝、その間1時間あまり、ということがあります。睡眠衛生として悪いことばかりを完璧にやっていますね!それでもすぐに(1分以内に)入眠、爆睡してしまいます。睡眠障害と無縁の人は、どこにでもいるようです。
名古屋での講演会の講演2は琉球大学整形外科教授金谷文則先生の「エビデンスに基づく橈骨遠位端骨折の治療戦略」でした。
橈骨遠位端骨折は四肢の骨折の中で、最も頻度の高い骨折です。橈骨遠位端骨折は大腿骨近位部骨折、脊椎椎体骨折、上腕骨近位部骨折などとともに骨粗鬆症に関連した骨折です。橈骨遠位端骨折は大腿骨近位部骨折、脊椎椎体骨折のように生命予後の悪化には繋がらないようですが、手関節の機能低下を招くために日常生活動作(ADL)の低下に繋がらないように早期機能回復が望まれます。
橈骨遠位端骨折の手術治療では掌側ロッキングプレートが良好な成績を得られており、現在ゴールデンスタンダードになっています。保存治療を行う場合には高齢者の場合には整復位を得られても高率に転位するので、徒手整復するなら内固定をすること(手術)を勧めておられました。
若年時に橈骨遠位端骨折を受傷し放置したために著しい短縮変形が認められるものの20年間大工として問題なく仕事をしている症例や、高齢者でも独居のために手関節機能の障害が日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすケースなど、年齢や活動性だけでは推し量れない治療選択のポイントを示して下さいました。まさに患者様お一人お一人としっかりと向き合って、その方にとって最も望ましい治療法を選択していく必要があるようですね。
当クリニックでは下記の期間、年末年始休業とさせて頂きますのでご案内いたします。休業期間中は何かとご迷惑をおかけすることと存じますが、ご容赦くださいますように何卒よろしくお願い申し上げます。
年末年始休業期間 2012年12月30日(日)~2013年1月4日(金)
関節が硬くなる重要な要因に、皮膚・筋・靭帯・関節包などの軟部組織の問題があります。今回はその中でも皮膚による問題について紹介させていただきます。
皮膚は関節の運動に伴って伸張したり滑走したりして、部位によっては動きに応じて大きく形を変えています。例えば、肘の裏側の皮膚をつまんで肘関節を屈曲すると、関節は曲がりにくくなります。これは、肘関節を曲げるときに本来伸びなくてはならない皮膚が伸びないために生じる現象です。このように、皮膚の動くゆとりが無くなると、関節の動きに影響を及ぼします。
臨床においては、外傷や手術により皮膚が損傷を受けた場合に、損傷を受けた皮膚は修復とともに周囲の軟部組織と癒着したり瘢痕組織を形成したりします。それにより、皮膚に伸びたり滑ったりするゆとりが無くなり、関節の可動域が制限される要因の一つとなる可能性があります。
そのため、外傷や手術により皮膚に大きな損傷を生じた場合は、癒着や過度な瘢痕形成を予防するため、適切な時期に皮膚の伸びや滑りを維持することが重要となります。ただし、皮膚は身体の中で最も受容器が多い組織であり、損傷後に早期から強い刺激を入れ過ぎると、疼痛を引き起こしたり、ケロイドを形成したりする可能性があるため、適切な刺激が加わるように配慮が必要となります。
リハビリテーション科 奥山智啓