骨粗鬆症とともに Vol.10 ビスホスホネート関連顎骨壊死
2017年09月27日(水) 新着情報1骨粗鬆症
顎骨壊死とは、あごの骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐った状態になることです。あごの骨が腐ると、口の中にもともと生息する細菌による感染が起こり、あごの痛み、腫れ、膿が出るなどの症状が出現します。近年ビスホスホネート系薬剤服用患者における顎骨壊死が報告されており、極めてまれに投与を受けている患者において顎骨壊死が生じたとの報告があります。これをビスホスホネート関連顎骨壊死(BRONJ)と呼称されています。 ビスホスホネート製剤は破骨細胞の機能に影響を及ぼし、骨吸収を阻害します。歯周疾患で起こる骨吸収は元来生体にとっては予防的な事象ですが、その事象がビスホスホネートにより障害されると組織障害、組織への血液供給不足を生じ、骨壊死が起こるとされています。 骨粗鬆症のためビスホスホネート製剤の治療を開始する患者様で、歯科治療が適切に行われ、口腔衛生状態が良好に保たれている場合はよいですが、投与中の抜歯や外科的処置を避けるために口腔衛生状態を良好に維持することが重要です。ビスホスホネート製剤服用中に侵襲的な歯科治療が必要となった際には休薬の要否を考慮する必要があります。ビスホスホネート製剤の服用期間が3年以上の場合や、3年未満でも危険因子(飲酒、喫煙、糖尿病、ステロイド薬使用、肥満、抗がん療法、口腔内衛生不良)がある場合には、医師、歯科医師が話し合って方針を決定する必要があります。休薬の期間は定まってないようですが、全身的に可能であれば侵襲的な歯科治療の3ヵ月前から処置後の3ヵ月までの服薬を休止することにより顎骨壊死の発症率を下げることが可能であるとの報告があるようです。 発生率は極めて少なく、おおむね1万人に1名程度と考えられているそうです。ビスホスホネート製剤を内服している方は口腔内を清潔に保つことを心がけ、歯科治療が必要な場合には主治医に相談していただくようお願いします。 骨粗鬆症マネージャー 石山瑞穂
参考文献 骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2015年版、骨粗鬆症治療の予防と治療ガイドライン作成委員会編集、ライフサイエンス社 2015 |
骨粗鬆症とともに Vol.9 骨粗鬆症治療に必要なビタミンD
2017年08月28日(月) 新着情報1骨粗鬆症
骨粗鬆症治療に広く用いられる活性型ビタミンD3製剤は体内でのカルシウム利用率を高める効果があります。骨粗鬆症予防にはカルシウムの摂取が重要ですが、カルシウムは吸収されにくい栄養素のため、ビタミンDを摂ることでカルシウムの吸収を高めてくれます。逆にたくさんのカルシウムを摂ってもビタミンDが不足していたらカルシウムは十分に吸収されないということです。 薬だけではなくビタミンDは食事からの摂取や、紫外線を浴びることによって皮膚で合成されます。その後肝臓や腎臓で活性型ビタミンDに変化します。 ビタミンDが豊富に含まれている食品は主に魚で、鮭やウナギ、いわし、サンマなどの青魚です。めざしなどを丸ごと食べるとビタミンDとカルシウムが同時にとれて効率のよい食事と言えます。厚生労働省はビタミンD摂取目安量を5.5㎍としています。 日光浴はそれほど長時間でなくても大丈夫です。一般的に顏と肘から先の腕を直射日光に当てるだけで1日に必要な分以上のビタミンDが合成されるとされています。晴れた日にベランダや屋外で洗濯物を干したり、買い物に出かける程度の時間で十分だそうです。 骨粗鬆症マネージャー 石山瑞穂
参考文献 骨粗鬆症の最新治療、石橋英明監修、主婦の友社、2016 |
骨粗鬆症とともに Vol.8 骨粗鬆症治療薬 ビスホスホネート薬
2017年07月28日(金) 新着情報1骨粗鬆症
骨粗鬆症治療薬のひとつであるビスホスホネート製剤は、昨今では骨粗鬆症治療の基本となる薬と言ってもよい薬です。2000年以前骨粗鬆症治療薬はビタミンD製剤が主流でしたが、以後ビスホスホネート製剤が認可されたことに伴い、骨折発生率の低下が認められたという各国の調査報告が挙げられています。利便性を考慮した週1回服用製剤、月1回服用製剤が使用可能になったことで、さらに骨折の減少を促進させたとも考えられています。薬の作用機序は、体内に取り込まれたビスホスホネートが骨に沈着し、破骨細胞による骨の吸収を受けにくくし、骨密度を増加させます。 ビスホスホネート製剤は服用方法に次の特徴があります。 朝起きてすぐにコップ1杯の水水道水で服用、朝食まで30分以上あける、服用後30分間は横にならない ビスホスホネート製剤は消化管からの吸収率は低いため、水以外の飲食物は服用後30分以上経ってから摂取する必要があります。なかでもカルシウムはなるべく間隔を空けてから摂取する必要があります。服用の際、カルシウムの多いミネラルウオーターで服用すると吸収が阻害されるため避けるべきとされています。飲んだ薬が胃の中まで届かずに、食道に錠剤が留まると食道炎を起こすことがあるため、コップ1杯の水で服用し、服用後30分は横になってはいけません。これは服用後すぐに横になりっぱなしになってはいけないということであり、座ったり立ったり動いたりすることはもちろんかまいません。 報告されている副作用のひとつに顎骨壊死があります。歯根を支える顎の骨が壊死してしまう病態です。発生率は極めて少なく、年間10万人に対し0.85人とされています。歯科治療に際しては休薬も考慮するべきとされているため、主治医、担当歯科医師に必ず相談してください。 骨粗鬆症マネージャー 石山瑞穂
参考文献 骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2015年版、骨粗鬆症治療の予防と治療ガイドライン作成委員会編集、ライフサイエンス社 2015 日本骨粗鬆症学会誌Vol.2 No4 日本骨粗鬆症学会 2016 |
骨粗鬆症とともに Vol.7 子どものロコモティブシンドローム
2017年07月02日(日) 新着情報1骨粗鬆症
昨今日本では高齢者の増加とともに要介護者も増え続けており、要支援、要介護の認定要因は転倒、骨折や関節疾患などの運動器障害によるものが上位を占めています。ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)は介護の原因となることも多く、高齢化社会においての大きな課題となっています。しかしこのような課題が高齢者だけではなく、子ども世代においても深刻な課題となっている現状があるようです。 文部科学省の「体力・運動能力調査によれば、子どもの体力、運動能力は昭和50年までは上昇していますが、50年から60年までは停滞し、その後昭和60年頃から現在まではずっと低下し続けているそうです。その背景にあるのは子どもの運動不足と言われています。交通機関の発達、家電製品の普及により、生活の中で身体を動かさなくてもよい環境になったこと、テレビやゲームの普及で外遊びが少なくなったことなどが大きく影響していると言われています。 子どもロコモとは子どものロコモティブシンドロームの略であり、運動機能不全および不調とされています。本来は高齢者にみられるからだの硬さや筋力低下が子どもにも同様に起こっている現状があるそうです。 跳び箱に手をついたら骨折した、何度も骨折を繰り返す子どもが多いなどの背景には、子どもロコモが大きく影響していると言われており、深刻な問題として捉えられています。このような現状に早期から介入するため、2016年から学校保健の定期健診の中に運動器検診が導入され、全国の学校で行われるようになりました。 子どもロコモの状態はけがをしやすい状態に陥るだけではなく、しっかり立てない、きちんと座れないということから、勉強への集中や心や身体の発達にまで影響が及ぶと言われています。 参考文献 跳び箱に手をつき骨折する子ども、柴田輝明著、ポプラ社、2016 骨粗鬆症マネージャー 石山瑞穂 |
骨粗鬆症とともに Vol.6 骨折リスク評価ツール FRAX
2017年05月28日(日) 新着情報1骨粗鬆症
骨折評価ツール FRAX(Fracture Risk Assessment Tool)は、世界保健機関(WHO)の研究グループが発表した、今後10年間の骨折確率を算出してくれる計算ツールです。世界の地域で収集された疫学データから代表的な骨折の危険因子を決定し、これらの危険因子の有無により推定される骨折確率を算出します。膨大なデータの基に確立されたツールのため信頼度は高いと言われています。インターネットから誰でも利用可能で、WHOのFRAXのホームページから入力するだけで算出できます。 実際の危険因子は、年齢、性別、身長、体重、骨折歴、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙、アルコール摂取(1日3単位以上)、ステロイドの内服(3ヵ月以上)、関節リウマチの罹患、骨粗鬆症になりやすい疾患の有無です。これらの項目を入力するだけでも骨折の確率が算出できますが、大腿骨頸部の骨密度がわかるとさらに正確な確率が算出できます。質問に答えて[計算]の画面をクリックすると、主要な骨粗鬆症骨折の確率と大腿骨近位部骨折の確率が出てきます。主要な骨粗鬆症骨折の確率が15%以上の場合は医療機関への受診が望ましいとされています。 平成25年のデータによると、入院・入院外医療費の支出は28兆7,447億円とされており、そのうち整形外科に関する支出は3番目に多い2兆2,422億円とされています。その額の50,5%である1兆1313億円が骨折の医療費となっています。さらにその額の55,9%に当たる6,329億円が65歳以上の女性が消費しているとされており、高齢者の骨折予防が重要であることを示唆するデータとなっています。しかし日本の骨粗鬆症治療率は20~25%程度となっており、世界諸国に比較すると低い現状となっています。FRAXが地域の検診や医療機関でさらに活用されていくことで骨粗鬆症治療率の向上、骨折の予防から医療費節減にも繋がると言われています。 骨粗鬆症マネージャー 石山瑞穂
参考文献 骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2015年版、骨粗鬆症治療の予防と治療ガイドライン作成委員会編集、ライフサイエンス社 2015 日本骨粗鬆症学会誌Vol.2 No4 日本骨粗鬆症学会 2016 |