奈良県総合医療センター外科、中央手術部部長石川博文先生著の「内痔核治療の変遷と英国St. Mark’s 病院」を読みました。 本書に「推薦のことば」を送っておられる、がん研有明病院名誉院長武藤徹一郎先生の言葉によりますと、St. Mark’s Hospitalは多くのColoproctologistにとって憧れと敬愛の象徴と言ってもよいだろう、ということでした。私は不勉強にもColoproctologistという言葉を知りませんでしたが、Coloproctolyは大腸肛門病学で、消化器・総合外科の中でも大腸肛門疾患の外科治療を専門にされる先生方のようです。 世界初の肛門専門病院という英国St. Mark’s 病院は1835年に開設されたそうで、内痔核の外科治療で痔疾患のメッカと呼ばれていたそうです。石川博文先生は1999年から2年間、英国St. Mark’s 病院に留学されたということで、本書は近畿肛門疾患懇談会の会誌”臨床肛門病学”に掲載された原稿をまとめたものであるということです。また、この執筆がきっかけとなり石川博文先生はベルリン医学協会から招待され、ドイツから伝わったLangengeck法とBraatz法の意義や日本とドイツの絆について、ドイツベルリンでご講演されたそうです。 本書を読ませていただきますと、写真が豊富で外科学の歴史教科書の様な趣で、石川博文先生のColoproctolyに対する熱意が伝わってくるようで、さすが実直な石川博文先生が心を込めて丹精に作り上げた本であると思いました。提示された図は合計97枚におよぶそうです。さらに207編という膨大な文献を集めて、全てに目を通されたとのこと、最も古い文献は1664年のものもあるということでした。何事も妥協を許さず道を究められる、石川博文先生らしいことだと思いました。 ちなみに石川博文先生は学生時代に奈良医大ラグビー部で私の2年先輩であり、ポジションは左プロップをしておられました。当時、医学生とは思えない屈強のスクラマーであったことが印象的です。 石川博文先生が外科医を志すきっかけになったという「過去を記憶しえない人々はその過去を再び経験することになる」というGeorge Santayanaの言葉は、胸に刻むべき言葉であると思いました。 |