先日、三重学術講演会が開催されました。特別講演は「外来診療に役立つ手外科疾患の診断と治療」で講師は鈴鹿回生病院整形外科副院長森田哲正先生でした。森田哲正先生は「ばね指」、「手根管症候群」、「デュピュイトラン拘縮」という外来でしばしば見かける3疾患に関して解説して下さいました。 「ばね指(腱鞘炎)」は指の屈筋腱の腱鞘炎で、しばしば見かける疾患です。腱鞘炎が進行すると引っかかりを生じばね減少が起こるとばね指と呼ばれます。使いすぎによる負荷のために起こるので固定などの局所の安静が推奨されることが多いのですが、森田哲正先生はむしろ少々痛みがあっても、腱は動かした方が良いと勧めておられました。森田哲正先生は保存治療の一つとしてトリアムシノロン腱鞘内注射を積極的に施行しているということでした。トリアムシノロン5mgに0.5%キシロカイン1mlを混ぜたものを注射しているということでしたが、糖尿病の方でも糖尿病の治療コントロールが良ければ施行しているということでした。トリアムシノロン腱鞘内注射の後は、痛くても20回自動他動運動をすることが大事であるということでした。注射は少なくとも3ヶ月間は間を開けるということで、手術治療は患者様が希望されれば行うということでした。森田哲正先生のデータによりますと、1回の注射のみで治癒したのは57.8%であったそうです。すなわち約42%に再発を認め、注射回数は平均3.2回、再注射までの期間は平均7.1ヶ月間であったそうです。保存治療から手術治療に至る理由としては、手術治療の方が確実であるからという理由が1番多く、次に注射自体の痛みであるそうです。「ばね指(腱鞘炎)」が難治性になる因子として、多数指罹患、糖尿病、手根管症候群の合併、罹病期間が長い、関節リウマチなどが挙げられるそうです。トリアムシノロン腱鞘内注射の注意点として腱鞘内になるべく入れる、皮下に漏らさないことを挙げられました。これはトリアムシノロンが皮下に漏れると白斑や脂肪萎縮の合併症をきたすことがあるからということでした。 「手根管症候群」は75歳以上の高齢者の手根管症候群が増加しているそうです。高齢者の手根管症候群の特徴として、重症例が多く術後も知覚や筋力の回復は不十分であるものの、自覚症状は改善するので手術治療も勧められるということでした。術前に母指対立不能では対立再建も同時に行うそうです。 「デュピュイトラン拘縮」は比較的まれな疾患と思っておりましたが、オランダやボスニアでは高齢者に非常に高率であり、日本でも高齢者には多いそうで、特に50歳代以降の男性に多く環指、小指に好発するそうです。手術治療の必要な場合は手掌腱膜切除術が選択されますが、神経・血管の損傷をしないように手外科専門医による治療を要します。この疾患のトピックスは手術治療に代わる酵素注射療法が開発されたことでしょうね。こちらも規定の講習を修了した手外科専門医のみが行うことができるということですが、手術治療なしで治療できるとは画期的です。森田哲正先生は酵素注射療法の症例について紹介してくださいました。デュピュイトラン拘縮は初期には手掌にしこりやくぼみを生じ、結節となり、更に指が曲がって伸びなくなるということです。平らなテーブルの上に手のひらを下にして置き、上から圧力をかけて手のひらをぴったりとつけられるかどうかを試して、テーブルと手のひらの間に隙間ができるかを確認する「テーブルトップテスト」により、隙間ができるようであれば治療が検討されます。手掌部の結節だけではなかなか患者様は受診されませんが、指が屈曲してくれば洗顔時に指先が目や鼻に当たったりするようになるので、指が屈曲してくればできるだけ早期に酵素注射療法などを考慮することが望ましいということでした。 森田哲正先生の講演はいつも明快でわかりやすく、とても参考になります。ありがとうございました。 |