先日、名賀医師会予防接種講習会が開催されました。講演は「ワクチンに関する最近の話題」で講師は国立病院機構三重病院小児科副院長管秀先生でした。 当院ではワクチンはインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種のみ施行しておりますが、ワクチンに関する最近の話題を興味深く拝聴いたしました。 最近の三重県の話題として、2月に松阪保健所管区での麻疹集団発生が起こったそうです。松阪の企業内で20歳代から40歳代まで13人が発症したそうです。管秀先生によりますと日本の常在麻疹ウイルスは2010年5月以降には検出されていないそうです。近年の麻疹の特徴として、海外からの輸入例が多い、ワクチン接種率が高くなったにもかかわらずワクチン未接種者と接種歴不明者が多い、医療機関での感染が目立つなどが挙げられるそうです。 Hibワクチンと7価肺炎球菌ワクチンの日本での開発と導入は、2013年4月に定期予防接種開始となったそうですが、アメリカから比べると20年遅れであるそうです。Hib髄膜炎は公費助成開始後2年で92%、3年で98%減少したそうです。これは効果が歴然ですね。高齢者の肺炎球菌ワクチン接種は2014年10月以降導入されていますが、肺炎の年齢別死亡率では95%が65歳以上であることに基づいているそうです。肺炎球菌ワクチンに関しては予防接種がすべての肺炎を防ぐものではないことなどの理解を得ることが必要であるということでした。 水痘の合併症は最近の二次感染、Reye症候群、急性小脳失調症、髄膜脳炎、死亡例などもあるそうです。水痘は年齢の上昇に伴い症状が重くなり死亡率が上昇する傾向があるそうで、30歳から49歳では10万例あたり約25.2例、約4000人に1人は死亡する計算になるそうです。これは非常に高率ですね。人食いバクテリアと恐れられる劇症型溶連菌感染症ですが、小児では水痘が危険因子になるそうです。兄弟から水痘が感染し、不幸にも劇症型溶連菌感染症に感染してしまうことなどもあることを紹介してくださいました。水痘の予防は水痘ワクチン接種で、2014年10月以降は2回法で定期接種となっているそうです。水痘ワクチン定期接種後の様々な問題を管秀先生は提示して下さいました。 B型肝炎ウイルスは免疫系が未熟な周産期における感染では95%がキャリア化し、以降年齢が高くなるにつれキャリア化率は減少するそうです。日本では母子感染防止対策事業により小児期のHBs抗原陽性率が事業開始の約10年間で0.22%から0.02%に激減したそうです。体液によるB型肝炎ウイルス感染が報告されており、ようやく日本でも全ての子どもにワクチンを接種するユニバーサルワクチネーションが実施されるようになったということでした。ロタウイルス感染症は小児重症下痢症の原因ウイルスであり、5歳までの全ての子どもでは最低1度は感染するそうです。管秀先生によりますとわずか10~100個のウイルス侵入で感染成立するそうで、公衆衛生の改善だけでは感染が防げず、ワクチンが最も有効な手段であるそうです。 インフルエンザワクチンは日本ではスプリットワクチンという種類であるそうです。スプリットワクチンの課題として管秀先生は乳幼児、高齢者では発症予防効果が低下する、気道粘膜での感染防御は期待できない、B型インフルエンザに対するワクチンの効果がA型より劣る、鶏卵で培養することによる問題、変異株への対応ができない、アナフィラキシーや高度の局所反応発現の可能性がある、抗体持続期間が短いなどを挙げられました。種々の剤型、投与方法を工夫したインフルエンザワクチンの開発が進んでおり、日本への導入も間近であるそうです。それぞれのワクチンおよび被接種者の特徴をよく理解して、より有効かつ安全と考えられるワクチンを選択することが重要であるということでした。 それぞれのワクチンにおいて、まだまだ発展途上の部分もあるようです。しかしながら管秀先生によりますと、予防ワクチンは過去、現在を含めて最も成功した医療技術の一つであるということです。ワクチンが人間の死亡率削減に及ぼす影響は、安全な飲料水の供給についで大きなものであるそうです。このあたりは一般的な認識を変える必要がありそうですね。大変勉強になる講演会でした。 |