第30回奈良県スポーツ医・科学研究会、奈良トレーニングセミナー2017の特別講演Ⅱは「女性アスリートの指導者が知っておくべき婦人科スポーツ医学の基礎」で、講師は女性のためのヘルスケアクリニック イーク表参道副院長高尾美穂先生でした。 高尾美穂先生は婦人科スポーツドクターとして文部科学省・国立スポーツ科学センター 女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバーも務められ、オリンピック選手たちなどエリートレベルのサポートしておられます。またヨガインストラクターもしておられ、多方面でアクティブに活動しておられます。高尾美穂先生は婦人科の立場から婦人科スポーツ医学の基礎を解説して下さいました。 高尾美穂先生によりますと、男性に比べて女性の運動器の特徴として骨盤の幅が広い、それによりX脚である(Q-angleが大きい)、関節が柔らかい、筋力が弱いなどであるそうです。それらにより女性に多いスポーツ外傷・障害として膝蓋大腿関節の外傷・障害(膝蓋骨脱臼・亜脱臼、膝蓋軟骨軟化症)、捻挫、肩関節不安定症、疲労骨折、膝前十字靭帯損傷などが挙げられるということです。膝前十字靭帯損傷は男性の2~8倍発症するという報告があるそうで、高校生の女子バスケットボール中の受傷が高頻度であることが報告されています。 女性特有の問題として月経に関する悩みがあり、月経中のトレーニング方法やモチベーションの維持など、月経が止まっている女性アスリートの問題、月経のある女性アスリートの問題などがあるということです。高尾美穂先生はエストロゲン(女性らしさのためのホルモン)とプロゲステロン(妊娠を継続させるためのホルモン)の働きなどについても詳しく説明して下さいました。これらホルモン分泌に関わる視床下部、下垂体、卵巣、子宮内膜などの相互の働きなどについても解説して下さいました。視床下部にはホルモン分泌をコントロールする機能があり、下垂体にはストレスを感知したり、自律神経中枢を司ったり、女性ホルモン分泌の指令を出したりする部位があるそうです。 高尾美穂先生によりますと、女性アスリートにとって月経が順調にあるということは体に余裕があるサインであるということです。ところがトップアスリートの約40%には無月経を含めた月経異常を認めるそうです。競技別では体操、新体操、フィギュアスケート、陸上、トライアスロン競技の順で多いそうです。審美系や持久系競技種目で多いそうです。高尾美穂先生によりますと、体脂肪率が低いほど無月経の割合が多いそうです。BMI 18.5以下で無月経の割合が多くなるというデータがあるそうです。運動量と食事量のバランスが悪いことに、ストレスや体脂肪率低下が影響し合って、生理が止まったり初経が来なかったりすると女性ホルモン分泌低下となり、骨が弱くなり疲労骨折につながるということです。10歳代後半で無月経が続くと最大骨量低下を招き、将来的に骨粗鬆症に至るということです。3ヶ月以上月経がない場合(無月経)や15歳でも初経発来しない場合は専門医の受診が勧められるそうです。 月経困難症とは月経時の随伴症状が強いもので、下腹痛、腰痛、腹部膨満感、嘔気、頭痛、疲労、脱力感、食欲不振、イライラ、下痢、憂鬱などがみられるそうです。月経困難症には機能性月経困難症と器質性月経困難症があり、器質性月経困難症では子宮内膜症が原因である場合が多いそうです。また月経前症候群は月経開始前に起こる精神的・身体的な症状で精神不安定、浮腫、体重増加など様々な症状を呈し、月経開始に伴い消退するそうです。これらの月経に伴う多彩な症状などは男性にはなかなか理解できなかったり気づかなかったりするものであると思われました。高尾美穂先生によりますと、91%の女性アスリートが月経周期とコンディションの変化を自覚しているそうです。女性アスリートのコンディショニング管理には月経周期の把握と理解は必須と言えそうですね。 最後に高尾美穂先生は女性アスリートとは「小さな男性アスリート」ではない。女性アスリートはアスリートである前に一人の女性である。運動指導者は女性の体について十分理解し、男性とは異なるアプローチを提供する必要があると述べられました。とても重要なメッセージであると、感銘を受けました。 |