先日、名賀医師会臨床懇話会が開催され講演は「子どものアレルギー性鼻炎診療のポイント」で講師は独立行政法人国立病院機構三重病院耳鼻咽喉科医長増田佐和子先生でした。 増田佐和子先生によりますと子どものアレルギー性鼻炎の特徴は、高い有症率、致死的ではないが多彩な症状を呈する、低い治癒率、小児期から学童期にかけて増加する、アレルギー性鼻炎の発症時期は低年齢化している、喘息とアレルギー性鼻炎との高い合併率などが挙げられるようです。 花粉症で子どもさんは、外で遊べない、集中できない、よく寝られないなどの症状で困っており、幼児の保護者はよりストレスを感じているようです。増田佐和子先生は患児のみならず保護者のストレスにも注目し、アンケート調査など丹念に集められたデータで、この疾患への対処の重要性を示して下さいました。 アレルギー性鼻炎はアデノイドや扁桃肥大に次ぐ、中等度以上のいびきの危険因子だそうです。小児の花粉症を治療すると睡眠の質は改善することや、花粉症と成績低下は関連するという報告もあるそうです。以上のことより、増田佐和子先生は子どものアレルギー性鼻炎が最近増加しており、不快な症状を呈し、保護者にもストレスとなり、喘息の危険因子でもあることなどに注意する必要があると指摘されました。 増田佐和子先生によりますと子どものアレルギー性鼻炎診断の難しさは、感染、アデノイドなどとの鑑別などによるそうです。ウイルスや細菌による感染性鼻副鼻腔炎との鑑別には的確な問診が重要であるようです。成人と小児でも花粉症症状の違いがあるようで、小児の場合には朝のくしゃみ、口を空いていないか、いびき、鼻すすり、鼻・目こすり、鼻血、皮膚がカサカサなどの特徴があるようです。副鼻腔炎では膿性鼻汁であるのに対して、アレルギー性鼻炎では水性鼻汁です。また耳鼻科特有の鼻腔と咽頭の所見、鼻汁細胞診、抗原特異的検査なども紹介されました。 アレルギー性鼻炎は治りにくいが死に至る病ではないので、増田佐和子先生によりますと治療目標は日常生活動作(ADL)の改善になります。抗原であるダニや花粉の除去が重要ですが、日々の生活でこれを徹底するのは大変なことです。花粉であれば4割が着衣から6割が換気から室内に流入しほとんど床に落ちて溜まるということから、増田佐和子先生はこれらのことを意識して流入を防ぎつつせめて床だけでも清掃をまめにするように勧めているそうです。 薬物療法は第2世代抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬が中心です。子どもの抗ヒスタミン薬投与のポイントは興奮、けいれんを誘発しやすいことや眠気の問題があるので脳内移行の少ない薬剤が望ましいということでした。鼻噴霧用ステロイド薬は効果が強くて早く、副作用が少ないという特徴があります。小児に点鼻薬を使うときの留意点として増田佐和子先生は、保護者の理解と協力を得られること、鼻がかめること、継続使用すること、鼻中隔よりではなく外側に投薬すること、嫌がったら無理はしないことなどを挙げられました。血管収縮薬は2歳以下には禁忌であるそうですが、市販の点鼻薬には入っていることが多いそうで注意を要しますね。増田佐和子先生は患児と保護者へのアンケート調査結果などから、子どものアレルギー性鼻炎に対する薬物療法には症状をしっかりと抑える効果があること、副作用に注意すること、十分なアドヒアランスが得られることが求められるようです。アドヒアランスとは患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味します。アレルギー性鼻炎の薬物療法をいつまで続けるのかも難しい問題かと思われます。増田佐和子先生によりますと、改善すればステップダウン、感染を合併すれば切り替える、きめ細やかに漫然と使用しないなどを注意点として挙げておられました。 増田佐和子先生はアレルゲン免疫療法についても紹介されました。これは治癒が期待できる唯一の治療であるようです。しかしながら効果が100%というわけではないこと、時に重篤な副作用があること、治療遵守と継続が必要であることなどの留意点を指摘しておられました。増田佐和子先生はアレルギー性鼻炎診療において予防的介入の困難さを指摘しておられました。 増田佐和子先生のきめ細やかで地道な臨床データの積み重ねと、耳鼻科臨床に対する真摯な姿勢に大変感心致しました。
|