今週に名賀医師会臨床懇話会が開催され出席しました。特別講演は「新ARBを中心に据えた最近の降圧療法~JSH2014高血圧ガイドラインを踏まえて~」で講師は大阪大学大学院医学系研究科保険学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座教授神出計先生でした。 日本は65歳以上人口が25%を超え、超高齢化社会と呼ばれる21%も優に超えている世界に冠たる長寿国ですが、現在はいかに健康寿命を延ばすかということに注目が集まってきています。神出計先生は健康寿命の要因の解明を目的に様々な調査、研究しておられます。50歳時における血圧状況とその後の生命予後は密接な繋がりがあるそうです。寝たきりの原因として、われわれ整形外科医は骨折・転倒や関節疾患ばかりに目がいきがちですが、寝たきり原因の第1位は脳血管障害です。診療科によって捉え方が異なるようですね。 日本人の高血圧症にはいくつかの特徴があるそうで、神出計先生によりますと高齢者が多いこと、食塩摂取量が多いこと、人種的に食塩感受性が高いこと、脳卒中が多いこと、認知機能低下例も多いことなどが挙げられるそうです。 日本は超高齢化社会ですから高齢者が多いことは当然ですが、70歳では63.5%。80歳では83.1%が高血圧症であるそうです。これは非常に高率ですね。またガイドライン降圧目標への達成率は70歳で24.5%、80歳で18.0%だそうです。これはまた随分低いものですね。 日本人の食塩摂取は男性12.2g、女性10.5gで全体では11gくらいで、アメリカの約倍だそうです。またコンビニ弁当などではカロリーも多く塩分も5gを超えるそうですが、コンビニでおにぎりとサラダだけという選択にしてもカロリーは低くなるものの塩分はやはり5gを超えることが多いようです。推奨される塩分摂取は6gだそうですが、いろいろな食事に隠れた塩分が意外に多いそうで、塩分摂取6gの遵守は難しいかもしれませんね。実際に塩分摂取6%の遵守率は10%だそうです。高血圧患者さんのための減食塩レシピなどの本はとてもよく売れているそうです。 日本では約4300万人が高血圧症であるそうです。病院や診療所で血圧測定すると普段より血圧が高くなることを白衣高血圧といいます。そこで家庭血圧の方が診察室血圧よりも大事であるそうです。家庭血圧は少なくとも1日2回計って、またその都度2回測定し平均値を出すことが推奨されています。また逆に診察室血圧があまり高くないのに家庭血圧の方が高い場合もあるそうです。これは仮面高血圧といわれ、より注意を要する様です。また24時間血圧測定する自由行動下血圧が測定されることもあるようです。 早朝高血圧は脳卒中リスクが増大するそうです。また中年期の高血圧症は高齢期認知症の高リスクとなるそうです。 神出計先生は降圧目標達成の重要性を強調されています。降圧なくして臓器保護なし、すなわち降圧しただけ臓器保護が得られるということです。しかしながら6メートルも歩けないような虚弱高齢者においては血圧の下げ過ぎもよくないようで、病態や年齢に応じた治療方針、最適な治療薬の選択、併用が重要であるということでした。 私自身が高血圧症治療をすることはありませんが、新しい薬の開発と共に健康寿命を延ばすための緻密なエビデンスの集積が行われており、これが着実に還元されつつあることに大変感心致しました。 |