先日、名張市でPAD Conference in 名張が開催され出席しました。PADはPeripheral Arterial Disease(末梢動脈疾患)のことで、ASO (Arteriosclerosis Obliterans)(閉塞性動脈硬化症)とも言われる疾患です。
講演Ⅰは「循環器内科における末梢動脈疾患の治療戦略」で講師は名張市立病院循環器内科部長坂井正孝先生でした。
PADの診断には問診、視診、下肢動脈の触診、足関節上腕血圧比 (ABI: Ankle-brachial index)などが重要です。坂井正孝先生は視診ではしっかりと両足とも靴下を脱いでもらって両下肢を観察すること、触診では足背動脈は先天性に約30%欠損があることに気をつけることなどを指摘しておられました。ABIは0.9~1.4が正常、そのうち0.9~0.99はボーダーライン、0.9<、1.4>は異常となります。ABI0.9以下であればPADと診断されます。PADの臨床重要度分類はFontaine分類で虚血肢進行の重症度を表しており、Ⅰ期:冷感、しびれ(原著では無症候)、Ⅱ期:間欠性跛行、Ⅲ期:安静時疼痛、Ⅳ期:潰瘍、壊疽と分類されます。坂井正孝先生は症状のないPAD患者(無症候性PAD患者)も症状のあるPAD患者(症候性PAD患者)と同様に予後不良であることを指摘し、いずれもABIが低下するほど予後不良になるということでした。また糖尿病患者では20~30%にPADの合併がみられ、そのうち症状があるのは約3分の1だそうです。すなわち症状のないPAD患者をいかに発見するかが重要であるということです。
坂井正孝先生によりますとPADの治療は動脈硬化症を起こさないようにする治療で、ひいては心筋梗塞、脳梗塞を起こさないようにする治療であるということです。PADの治療は具体的にはLDLコレステロール、血圧、糖尿病などの管理、禁煙指導、運動療法、抗血小板療法などになります。安静時疼痛や壊疽を伴う重症下肢虚血で保存治療によっても症状が改善しない場合には血管内治療(バルーン拡張、ステント)やバイパス術が適応されます。坂井正孝先生によりますと、血管内治療の進歩によりバイパス術を要するケースが減少したということです。
坂井正孝先生は無症候性PAD患者を見逃さないことの重要性を強調され、症状によってPADが疑われる場合には65歳以上の方(2011年ACCF/AHAガイドライン)、50歳以上で喫煙者や糖尿病患者では積極的にABIを測定し、PADの早期発見や予防に繋げることの重要性を指摘しておられました。
半月板は、内外側の脛骨関節面を覆う線維軟骨のことを言い、内外側で異なった特徴を有しています。
内側半月板は、上方からみるとC型をしており、外側半月板よりも大きい形状をしています。そのため、膝関節屈伸時の半月板の可動性は小さいです。外側半月板は、O型をしており、内側半月板より小さく、可動性は大きいです。
また、半月板に付着する軟部組織も、内外側で異なっています。半月板の前方には、膝蓋骨と半月板を結ぶ半月膝蓋靭帯が存在し、大腿四頭筋が収縮することで、膝蓋骨が上方に移動することにより半月板が前方に移動します。内側半月板の後方には、半膜様筋が付着しています。また、外側半月板には膝窩筋が付着し、それぞれが収縮することで後方へ移動します。
半月板は、膝関節の屈伸に伴って移動することで、大腿脛骨関節の適合性を保っていますが、スポーツなどで半月板を損傷すると痛みを伴い、半月板の可動性が低下します。そのため半月板を損傷した患者様に対する理学療法では、半月板に付着する軟部組織に注目し、運動療法を行うことが大切です。
リハビリテーション科 服部 司
先日、伊賀市で伊賀フォーラムが開催され特別講演は「超高齢化社会における健康寿命を考慮した骨粗鬆症マネジメント」で講師は浜松医科大学整形外科准教授星野裕信先生でした。
65歳以上人口の割合が7%超で「高齢化社会」、14%超で「高齢社会」、21%超で「超高齢化社会」と定義されるそうです。2013年9月15日時点で65歳以上人口は3186万人で、日本の総人口に占める割合は25.0%、人口の4人に1人が高齢者という世界一の超高齢化社会です。一方、健康寿命とは健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間です。日本人の平均寿命は男性79.55歳、女性86.3歳ですが、健康寿命は男性70.42歳、女性73.62歳です。健康寿命を延ばして平均寿命との差を縮めることが求められていますが、寝たきりへと繋がってしまう骨粗鬆症の治療は満足に行われているとは言えません。日本では骨粗鬆症1280万人に対して約200万人が治療されていますが、1080万人は未治療だそうです。
骨強度は骨密度と骨質により決まりますが、その寄与する割合は骨密度が70%、骨質が30%だそうです。骨粗鬆症に対する治療薬は近年、様々な薬剤が開発されています。その代表的な治療薬の一つはビスフォスフォネート製剤です。世界的には骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折は減少傾向にあるのに、日本では未だ増加傾向にあるのはビスフォスフォネート製剤の導入が遅かったことも一因ではと星野裕信先生は指摘しておられました。
脊椎椎体骨折、椎体変形による脊椎矢状面バランスとQOL(生活の質)との関連が指摘されており、容姿的変化だけではなく胸郭容量の減少、便秘や逆流性食道炎などの消化器症状なども骨粗鬆症が引き起こすことが指摘されています。脊椎後弯変形による逆流性食道炎ではプロトンポンプ阻害薬を用いても難治性である場合が多いそうです。
星野裕信先生は大腿骨近位部骨折や椎体骨折を予防することによる経済的効果についても言及されました。骨粗鬆症治療を広めて骨折を未然に防ぐことにより骨折の結果生じてしまう入院手術治療費の抑制に繋がりますし、個々の健康寿命、幸福寿命が延びることにも繋がると言えそうですね。
星野裕信先生は骨粗鬆症性骨折と鑑別を要する注意すべき疾患として多発性骨髄腫、転移性骨腫瘍、原発性上皮小体機能亢進症、骨軟化症、悪性リンパ腫などを挙げておられました。
骨折などの外傷を受傷すると、患部やその周辺は腫れます。その腫れは「浮腫」と呼ばれ、これを放置すると痛みや可動域制限因子、拘縮へと進んでいきます。
浮腫は、皮下にて水分が貯留している状態ですが、わかりやすく言えばその水分は「水のり」に例えることができます。その水のりを放置すれば、患部周辺の筋や腱、関節包などの軟部組織は拘縮したり、癒着したりします。したがって、浮腫が貯留した状態が長期化すると、関節の可動域を制限してしまうこととなります。また、この水分の中には、ヒスタミンやブラジキニンといった疼痛誘発物質が多く含まれるため、痛みを誘発します。
この浮腫を改善するため、私達理学療法士は弾性包帯、パッド(足底板で用いるパッド)、ガーゼなどを用い、浮腫管理を行います。骨の隆起部・陥凹部などにパッド、ガーゼを当て、水分が流れ込まないように配慮し、弾性包帯で圧迫します。その圧迫下で各関節の運動を行ってもらい、筋収縮を促します。筋が収縮すると「筋ポンプ作用」により、水分は血管内に戻るため、このような方法で浮腫の改善を図ります。
可動域制限を改善するため、理学療法士は浮腫管理も行っていきます。
リハビリテーション科 小野正博