上腕骨外側上顆炎は中年以降のテニス愛好家に生じやすいのでテニス肘と呼ばれています。テニス肘では肘を伸ばして物を持ち上げたり雑巾を絞る動作などで肘の外側から前腕にかけて痛みが出ますが、安静時痛はありません。
テニス肘に関する文献を紹介したいと思います。
「Lateral epicondylitis, a review of pathology and management」
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)で最も影響を受ける筋肉は短橈側手根伸筋と言われています。一般的にはテニスに関係することが多いですが、上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は様々な動作、過度の繰り返す前腕伸筋の使用、例えばタイピング、ピアノ、様々な手作業などでも起こり、スポーツと職業にも関連することが多いです。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は以前には腱の炎症から起こる腱炎であると考えられていましたが、現在では腱の変性過程による腱炎であると考えられています。腱は筋に比べて血流が乏しいという特徴があります。腱の耐用性を超えた張力がかかると微小断裂が起こり、微小断裂が多数起こると腱炎となります。変性が腱炎の主要な原因でありますが、逆に負荷がかからなさすぎても構造的弱点となり損傷されやすくなります。
臨床的特徴として圧痛は典型的には短橈側手根伸筋腱の付着部で、外上顆の前縁の前方にあります。
レントゲン検査は骨病変、遊離体、変形性関節症、離断性骨軟骨炎等を除外するために有用です。エコー検査は腱の肥厚や菲薄化など構造的変化を同定するのに有用です。MRI検査は変性組織の存在と腱や下方関節包の断裂が観察できますが、MRIの陽性所見は患者の症状とはあまり関連しておらず、関節鏡検査を用いた研究で関節包の断裂の同定には造影CT(85%)の方がMRI(64.5%)より敏感でした。筋電図検査は後骨間神経絞扼性障害の除外診断に有用です。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)治療の目的は(1)疼痛のコントロール、(2)運動の維持、(3)握力の改善、(4)正常機能の回復、(5)組織学的、臨床的悪化のコントロールです。
保存治療として安静、症状を悪化させる行動を避ける、行動の工夫がたいてい症状の軽減に繋がります。52週間の保存治療でステロイド局注と比べてもほんのわずかに劣る結果であったという報告があります。
理学療法では可動域の維持と伸張筋力訓練に焦点を当てた理学療法の有用性が報告されており、6週間で保存治療より良好な結果が報告されています。
テニス肘バンドは有効であるという報告もありますが明らかではありません。手関節装具も有効であるという報告があります。
抗炎症薬投与は短期間機能を改善します。ステロイド局注はよく行われますが、4週間ではステロイド局注はNSAIDsより優っていましたが、長期では差がありませんでした。ステロイド局注は副作用の問題があります。
手術治療は保存治療に反応しない症例に施行され、直視下手術、経皮的手術、鏡視下手術があります。手術治療は多くの患者で良好な結果を得ていますが、関連するリスク、感染、血腫、神経損傷などの問題から他の治療方法の探求が求められています。
新しい治療として経皮的高周波温熱療法、体外衝撃波治療、低出力レーザー照射治療、鍼治療、ボトックス治療、局所ニトログリセリン、自己血注射、多血小板血漿などが報告されています。
(結論)
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は10から18ヶ月の自然経過でたいてい自然に治癒します。たいていの症例では症状は最終的に収まり、運動制限、理学療法、保存治療などでコントロールされます。
多くの保存治療が報告されていますが、十分に成功すると推奨されるものはありません。手術治療は保存治療無効例に施行されますが、普遍的に成功するものはありません。様々な新しい治療が開発されつつあります。
Ahmad Z, Siddiqui N, Malik SS, et al. Lateral epicondylitis: a review of pathology and management. J Bone Joint 2013;95-B:1158-1164.
みえ脊椎を語る会の特別講演2は「日常診療に役立つ腰痛疾患の診断と治療 うつ病からコンピューター支援手術まで」で講師は岡山大学大学院医歯薬学総合研究科整形外科准教授の田中雅人先生でした。
わが国はどの国も体験したことのないスピードで高齢者社会を迎えております。わが国の高齢者人口の推移は2012年には3074万人で約4人に1人(24.1%)が高齢者ですが、2050年には3人に1人が65歳以上の高齢者になると推測されています。日本人が医療機関を受診する自覚症状は平成19年の厚生労働省の調査によりますと、男性が腰痛(第1位)、肩こり(第2位)、女性が肩こり(第1位)、腰痛(第2位)です。いずれも腰痛の占める割合が高く、腰痛治療の重要性は増すばかりですね。
国際疼痛学会による痛みの定義では、痛みとは組織の実質的または潜在的障害に起因するか、または組織障害を表現する言葉で述べることのできる不快な感覚と常道体験、ということです。腰痛には常に感覚と情動という二つの側面があり、前者は感覚そのもので後者はその痛みに伴う不快感、不安、恐怖感などです。このことから田中雅人先生は、画像所見や客観的データなどの不足から患者様の疼痛の訴えを否定することの危険性を指摘しておられます。
田中雅人先生の示されたデータでは、慢性疼痛治療不満足度の理由1位は痛みがとれなかったからですが、2位は納得いく説明が受けられなかったから、3位は痛みについて理解してもらえなかったから、5位は治療者の態度が悪かったからと、かなり多くの不満の原因が医師の態度にあるということで、医師自身が改めるべき点が多々あるということでした。このことは治療者が真摯に受け止める必要があると思いました。
田中雅人先生によりますと腰痛はアラームサインであるということです。それは何をアラームしているかというと2種類の警告で、1つめは運動(仕事)しすぎで困っている体を休めてほしいという警告、2つめは腰に起こっている異常をわれわれに知らせるための警告と説明されます。成る程!、こう説明すると患者様も納得しやすいでしょうね。田中雅人先生は治療者が患者様に腰痛を安易に老化現象であるから仕方ないと説明することを戒めておられます。
腰痛の原因はほとんどが腰椎周辺に原因がありますが、内臓に原因があったり心に原因があったりもします。腰椎疾患では画像だけに頼るのではなく、症状の発現の仕方(腰椎後屈で椎間関節、腰部脊柱管狭窄症の疼痛が増悪し、腰椎前屈で椎間板の疼痛が増悪するなど)も参考にすることを田中雅人先生は強調しておられました。
田中雅人先生によりますと腰椎由来の腰痛である判断のポイントは基本的に腰椎の動きに関連する痛みであること、安静時痛・夜間痛は稀であること(腫瘍と炎症を除く)などです。腰痛の原因が思い当たらない場合や安静時にもある腰痛、不快感を伴う腰痛、腰の痛む場所がはっきりしない腰痛などは内臓が原因の腰痛が疑われます。解離性動脈瘤は生命予後にまで関わるので、内科受診が必須です。
心因性疼痛は慢性腰痛ではよく見られるようです。田中雅人先生によりますと不眠を合併することや視覚的評価スケール(Visual Analog Scale, VAS)で10/10あるいはそれ以上を示す場合などは心因性の傾向が強いようです。また腰椎疾患を主訴に独歩で整形外来を受診される患者様で高率にうつ状態が確認されたそうです。慢性的な疼痛は不安からうつ状態に移行することから、慢性的腰痛には心理的要因が発生します。田中雅人先生によりますと、器質的な痛みがないという判断は誤りで痛みに対する感受性が高いと考えられ、不安を取り除き回復に導くというカウンセリングなどのアプローチが有効であるということでした。
私は時間の関係で最後まで田中雅人先生の講演を聴くことができなかったのですが、田中雅人先生は最後に最小侵襲手術とコンピューター支援手術についても解説してくださいました。従来からの直視下手術に対して最小侵襲手術として顕微鏡下手術、内視鏡手術の技術が進んできています。田中雅人先生によりますと最小侵襲による脊椎手術は患者様には大きなメリットであるが、医師にとっては手技的に困難であること、コンピューター支援手術は患者様と医師にとって両者にメリットがあり、非常に困難な脊椎手術には不可欠であると説明しておられたようです。
田中雅人先生は大変困難な手術手技を要する症例から心因性疼痛の要素の強い症例まで、様々な腰痛疾患に対してきめ細やかに治療しておられ、とても感銘を受けました。
投球肩障害における理学療法は痛みの原因を評価して治療を行います。
同時に投球フォームの指導も進めて行きます。
正しい投球動作を行う上でゼロポジションがポイントになります。ゼロポジションとは上腕骨と肩甲棘が一致する肢位で、肩甲骨面上150°挙上位になります。肩関節周囲筋・インナーマッスルが均一にバランスのとれた状態となっており、投球動作時に負担が、少ない姿勢であると言えます。
プロ野球選手の場合(大人である程度フォームが完成している人)、矯正してバランスを崩しフォームがバラバラになるならば、選手生命が短くても投球の行いやすいフォームでプレーし続ける事もあります。基本は子供の時から正しいフォーム身に付ける事が重要です。
他のスポーツでもバレー(スパイク)、テニス(サーブ)でもゼロポジションを意識したフォームが大切です。
リハビリテーション室長 見田忠幸