先日、第47回東海地区整形外科教育研修会が名古屋で開催され、出席しました。講演Ⅰは「上腕骨近位端骨折に対する保存的治療―下垂位での早期運動療法について―」いしぐろ整形外科院長石黒隆先生、講演Ⅱは「なぜ今、整形外科超音波診療なのか?」城東整形外科診療部長皆川洋至先生、講演Ⅲは「医療紛争・医療裁判の実態と課題~整形外科事例をふまえて~」水島綜合法律事務所所長水島幸子先生でした。
上腕骨近位端骨折は骨粗鬆症に関連して高齢者に多い骨折です。石黒隆先生は上腕骨近位端骨折に対する治療が手術治療偏重の傾向があると疑問を投げかけておられ、早期運動療法による保存的治療(手術をしない治療)の工夫と良好な成績を紹介して下さいました。本法の適応は上腕骨骨頭と骨幹端の骨折面の接触が得られるものとしています。三角巾とバストバンドで腕を躯幹に固定し、受傷後1週から身体と床を平行に倒し、さらに患側の肩を床に近づけてリラックスした状態で身体を前後に揺らしながら、1日1000~3000回の腕の振り子運動を始めます。ポイントは立位保持可能であること、骨折部の接触が確実に得られていること、骨癒合まで重力に逆らって腕の挙上をしないことです。この方法により上腕骨近位端骨折の軽症例だけではなく、3-part骨折、4-part骨折などの重症例にも良好な成績が得られているということです。石黒隆先生はマレット骨折に対するExtension block pin法(石黒法)や指の基節骨骨折に対するMP関節屈曲位での早期運動療法(ナックルキャスト)など様々な工夫と理にかなった治療方法を数多く報告しておられます。
皆川洋至先生は整形外科超音波診療の第一人者としてご高名です。今回は肩関節周囲炎などに関して日本における歴史を江戸時代にまでさかのぼって紹介して頂きました。レントゲン検査にもMRI検査にも頼らず超音波検査だけで肩関節周囲炎の病態を診断しておられます。また超音波を駆使して神経ブロックを行ったうえで拘縮を伴った凍結肩をマニプレーションで治療し良好な成績を報告しておられます。しかしながらその技術の高さは芸術的なようにも思われ、現在のところなかなかここまで超音波を使いこなす整形外科医は少ないように思われました。
水島幸子先生は医療事故・医療裁判の実態と課題について具体的に紹介、解説して頂きました。予見可能性、結果回避可能性など用語が難しく、解説して頂いてもどれだけ理解できたか自信がありませんが、全く知らないでは済まないことかと思われました。今後、更に知識と理解を深める必要性を感じました。
3演題とも大変参考になることばかりで、とても勉強になり意義深い研修会でした。
変形性股関節症になると可動域制限や筋力低下、歩行障害が生じます。これらが生じる原因として①骨の変化、②関節包の変化、③筋の変化に分けることができます。
①骨の変化について、変形性股関節症の進行具合はX線像により判別することができます。初期では大きな骨変化は認められませんが、進行するにつれて骨棘の形成や、骨の扁平化が生じ、運動制限が出現します。
②と③の軟部組織の変化について、関節の安定性が破綻し、それを制御するために軟部組織の短縮や拘縮が生じ、運動制限が生じます。
骨の変化については理学療法で対処することが困難となります。理学療法は、軟部組織に対して筋収縮やストレッチなどを行い、疼痛や可動域制限の改善を図り、変形性股関節症の進行を遅らせる目的で行っています。
リハビリテーション科 服部 司
本日、三重県保険医協会主催の講演会があり出席しました。記念講演は精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授香山リカ氏で演題は「いま子どもに教えたいこと~精神科医の立場から~」でした。
現在、日本では年間の自殺者がようやく3万人を下回ったそうですが、若年者の自殺者は逆に増加しているそうです。15歳から39歳までの若年層ではどの年齢層でも死因の1位は自殺だそうです。また世界的に見ても、これだけ自殺者の多い国は少ないそうです。そのような状況で精神科医の立場からいま子どもに教えたいことを香山リカ氏が提言してくれました。
香山リカ氏は“いまどきの子ども・若者”について考えるべきこととして「傷つきやすさ」「自己肯定感の低さ」「高い自己実現欲求」「万能の愛、無償の愛への幻想」などを挙げています。「傷つきやすさ」や「自己肯定感の低さ」に関しては、マイナスなことを受け止め、耐えることのできる力 (Negative Capability) の育成が大事なようです。「高い自己実現欲求」に関してはネット社会などにより情報量が多すぎて、逆に自分の価値を低く見積もってしまう傾向や、若年者には「自分らしさ」を大切にするということにとらわれすぎる傾向があるようです。自分でも気付いていない自分や「無意識」というものを考えると、若年層では尚更狭い自分という枠にとらわれてしまうという指摘は成る程と思いました。「自分探し」というものの問題点は、今の自分はダメという意識とセットになっていることだと香山リカ氏は述べておられました。「万能の愛、無償の愛への幻想」に関しては、人に対して理想化と脱価値化の両極端に振れてしまう若年層の不安定さ、危うさを述べておられました。
香山リカ氏はこのような若い人たちに伝えたい“処方箋”として、何者かにならなければいけない、なんてことはない、あたりまえの生活がなんとかできるだけでも、上出来だ、他人と比べるのは全く意味がない、みんなそれほどかわりはない、ほとんどの失敗なんて、たいしたことはない、困っているときには、ひとを頼ったっていい、とエールを送っています。また家族や支援者に伝えたい“処方箋”として、「完璧な子育て」なんてない、いらない、家族や支援者も自分を大切に、ときには距離も置こう、とエールを送っています。そして香山リカ氏は、少しだけ外に目を向ける力をもつことを推奨しておられました。
今後の日本において、自殺という悲劇が繰り返されないように祈るばかりです。